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Part2
Д.а 回顧 - 06
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そうなると、あまりに笑えもしない、冗談めいた状況に陥ってしまってはいるが、セシルに差し迫る、近未来の結婚問題をなんとかしなくてはならない。
いや、それが、今の最重要課題だろう。
この世界が一体どこなのか、何なのか、自分自身では、全く把握していない。
だが、元の『セシル』 でいた頃の記憶は、しっかりと、覚えている。
しっかりと、記憶にある。
と言うことは、セシルの人格が消え去って、人間そのものが器に入れ替わった、と言う状況ではないはずだ。
ただ、突然、今まで『セシル』 だったのに、その上に、更に昔――前世? 現世? ――の記憶が、一気に、問答無用で、頭に流れ込んできたのだ。
流れ込んでくる記憶が、自分自身で止めることも不可能で、何もできないまま、思いっきり、理不尽に、顔を殴れられたような気分である。
信じられない……!?
もう、こんなに混乱しているのに、現実では、どうすることもできない状況で、記憶だけが押し寄せて来て、もう、ぐちゃぐちゃだ……。
死んだ時の記憶だってないのに……。
なのに、今の自分は――全く見知らぬ異世界にいる。
異世界にいる――って、小説や漫画でよく出てくる話だろうが、あまりに現実味がなくて、今の自分には笑えもしない冗談だ。
異世界にいる――って、必ず、共通点が一つだけある。
もう、元の世界に戻ることは不可能だ、ということだ……。
じゃあ、元の世界――がどこなのか分からないままだが――に戻れないということは、元の世界にいた自分自身の体は、もう、存在していないはずだ。
その部分だけは、この混乱した状態でも、しっかりと、理解してしまっていた。
「あぁぁ……。もう、なんで、私が……?!」
文句を投げようが、誰一人、聞いてくれる人はいない。
誰にも、聞こえない。
もう、泣きたいのは、私の方よ……。
でも、泣いたからと言って、現状が変わることはない。
変わるはずもない。
信じられない状況に投げ込まれて、最早、完全自失を通り越して、神経も感情も、完全麻痺している状態ではないだろうか。
泣きたいのに、泣いてもどうにもならなくて、死んでしまったのかさえも確かめる術はなくて、そして、なによりも、こんな小さな子供の体に押し込まれて、こんな異世界で成長していかなければならないなんて……!
もう一度、眠り直したら、ただの夢だったら、どんなに良かったことか。
昨夜は、ほぼ、一睡もできなかったが……まあ、現状を照らし合わせてみれば、それはそれで、当然の結果と言えるだろう。
頭の整理がついてきて、結論が見え始めてきて、状況把握もでき始めている。
どこで諦めをつければいいのかも定かではないが、今日は、自室にある机にペーパーナイフが置いてあったので、それを掴んでいた。
先っぽの尖った部分を、指先に当てて、ちょっと切ってみる。
ツーっと、簡単に、丸くなった血が噴き出て来た。
ジーっと、見下ろしている先で、まだ、丸くなっている血は止まらなかった。
(赤い色だ…………)
そして、そんなふざけた事実に、妙にホッとしている自分自身に、笑ってしまった。
異世界に飛ばされて――転生? させられて――も、異星人、ではなかったのだ。
(人間なんだ……)
この事実って、喜ぶべき事実なのだろうか?
でも、ものすごい安堵した。
少しだけ切れた指先を口に咥え、舌で切り口を押さえ込んでみると、鉄錆の味がした。
血の味も人間のものだ。
そこで、なぜか、ふと、頭の片隅にある、記憶の欠片……のような、なにかを思い出さなければならない強い衝動に駆られてしまう。
(えっと……、何を思い出さなければならないのかしら……?)
血が止まったので、その手を顎に当て、うーんと、考えてみる。
どこかで耳にした話題だったのだろうか?
どこかで目にした事象だったのだろうか?
うーん、考えどころだ。
「――まあ、没落なんて、お粗末な結末ですわねえ――」
なに、その会話?
どこで耳にした会話だったのだろうか。
他人行事だと思って小馬鹿にして、自分に被害が当たらなければ、他人の不幸とスキャンダルは、自分達のこの上ない娯楽。
それを見て、能無し共がふざけ過ぎてるんじゃないの――と、現代人の自分が軽蔑していたのを、覚えている。
ハッと、そこで、また新たな……嫌な事実を、思い出してしまっていた。
「ちょっと待ってよ……!!」
思い出して、すでに、この場でもショックの第三弾。
今回は、パニックよりも、衝撃が強過ぎて、呆然自失してしまった。
現代人の時に、オンラインであったタイムセールで買った――小説の一節だ。
台詞だ!
「異世界って……、小説の世界っ!?」
信じられない事実が発覚して、完全脱力だ。
まさか、見知りもしない異世界に放り込まれて、世界がグルリと180度一転してしまっただけでなく、180度の世界は――小説に出て来た物語の世界だったなんて……!!
丁度、暇を持て余し、タイムセールを観覧していて、あまりに安いから、ゴソッと10冊ほど買い込んだe-Bookの一冊だ。
全部読み終えて、そのほとんどが、あまりにお金の無駄だったのを覚えている。
さすが、タイムセール。大した中身でもなくて、くだらない中身も多くて、簡単に読み切ることができた小説の一つだ。
「ノーウッド王国……?」
でも、どんなに思い出そうとしても、ヘルバート伯爵や、その令嬢の名前など、どこにも出て来なかった。
主人公でもない。悪役令嬢でもない。聖女でもない。
いや、それが、今の最重要課題だろう。
この世界が一体どこなのか、何なのか、自分自身では、全く把握していない。
だが、元の『セシル』 でいた頃の記憶は、しっかりと、覚えている。
しっかりと、記憶にある。
と言うことは、セシルの人格が消え去って、人間そのものが器に入れ替わった、と言う状況ではないはずだ。
ただ、突然、今まで『セシル』 だったのに、その上に、更に昔――前世? 現世? ――の記憶が、一気に、問答無用で、頭に流れ込んできたのだ。
流れ込んでくる記憶が、自分自身で止めることも不可能で、何もできないまま、思いっきり、理不尽に、顔を殴れられたような気分である。
信じられない……!?
もう、こんなに混乱しているのに、現実では、どうすることもできない状況で、記憶だけが押し寄せて来て、もう、ぐちゃぐちゃだ……。
死んだ時の記憶だってないのに……。
なのに、今の自分は――全く見知らぬ異世界にいる。
異世界にいる――って、小説や漫画でよく出てくる話だろうが、あまりに現実味がなくて、今の自分には笑えもしない冗談だ。
異世界にいる――って、必ず、共通点が一つだけある。
もう、元の世界に戻ることは不可能だ、ということだ……。
じゃあ、元の世界――がどこなのか分からないままだが――に戻れないということは、元の世界にいた自分自身の体は、もう、存在していないはずだ。
その部分だけは、この混乱した状態でも、しっかりと、理解してしまっていた。
「あぁぁ……。もう、なんで、私が……?!」
文句を投げようが、誰一人、聞いてくれる人はいない。
誰にも、聞こえない。
もう、泣きたいのは、私の方よ……。
でも、泣いたからと言って、現状が変わることはない。
変わるはずもない。
信じられない状況に投げ込まれて、最早、完全自失を通り越して、神経も感情も、完全麻痺している状態ではないだろうか。
泣きたいのに、泣いてもどうにもならなくて、死んでしまったのかさえも確かめる術はなくて、そして、なによりも、こんな小さな子供の体に押し込まれて、こんな異世界で成長していかなければならないなんて……!
もう一度、眠り直したら、ただの夢だったら、どんなに良かったことか。
昨夜は、ほぼ、一睡もできなかったが……まあ、現状を照らし合わせてみれば、それはそれで、当然の結果と言えるだろう。
頭の整理がついてきて、結論が見え始めてきて、状況把握もでき始めている。
どこで諦めをつければいいのかも定かではないが、今日は、自室にある机にペーパーナイフが置いてあったので、それを掴んでいた。
先っぽの尖った部分を、指先に当てて、ちょっと切ってみる。
ツーっと、簡単に、丸くなった血が噴き出て来た。
ジーっと、見下ろしている先で、まだ、丸くなっている血は止まらなかった。
(赤い色だ…………)
そして、そんなふざけた事実に、妙にホッとしている自分自身に、笑ってしまった。
異世界に飛ばされて――転生? させられて――も、異星人、ではなかったのだ。
(人間なんだ……)
この事実って、喜ぶべき事実なのだろうか?
でも、ものすごい安堵した。
少しだけ切れた指先を口に咥え、舌で切り口を押さえ込んでみると、鉄錆の味がした。
血の味も人間のものだ。
そこで、なぜか、ふと、頭の片隅にある、記憶の欠片……のような、なにかを思い出さなければならない強い衝動に駆られてしまう。
(えっと……、何を思い出さなければならないのかしら……?)
血が止まったので、その手を顎に当て、うーんと、考えてみる。
どこかで耳にした話題だったのだろうか?
どこかで目にした事象だったのだろうか?
うーん、考えどころだ。
「――まあ、没落なんて、お粗末な結末ですわねえ――」
なに、その会話?
どこで耳にした会話だったのだろうか。
他人行事だと思って小馬鹿にして、自分に被害が当たらなければ、他人の不幸とスキャンダルは、自分達のこの上ない娯楽。
それを見て、能無し共がふざけ過ぎてるんじゃないの――と、現代人の自分が軽蔑していたのを、覚えている。
ハッと、そこで、また新たな……嫌な事実を、思い出してしまっていた。
「ちょっと待ってよ……!!」
思い出して、すでに、この場でもショックの第三弾。
今回は、パニックよりも、衝撃が強過ぎて、呆然自失してしまった。
現代人の時に、オンラインであったタイムセールで買った――小説の一節だ。
台詞だ!
「異世界って……、小説の世界っ!?」
信じられない事実が発覚して、完全脱力だ。
まさか、見知りもしない異世界に放り込まれて、世界がグルリと180度一転してしまっただけでなく、180度の世界は――小説に出て来た物語の世界だったなんて……!!
丁度、暇を持て余し、タイムセールを観覧していて、あまりに安いから、ゴソッと10冊ほど買い込んだe-Bookの一冊だ。
全部読み終えて、そのほとんどが、あまりにお金の無駄だったのを覚えている。
さすが、タイムセール。大した中身でもなくて、くだらない中身も多くて、簡単に読み切ることができた小説の一つだ。
「ノーウッド王国……?」
でも、どんなに思い出そうとしても、ヘルバート伯爵や、その令嬢の名前など、どこにも出て来なかった。
主人公でもない。悪役令嬢でもない。聖女でもない。
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