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Part2
Б.в お茶会もこりごりです…… - 09
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「なるほど」
「わたくしは王妃であり、直接、政に関わることもございませんが、わたくしの味方になる力は必要です。わたくしは、アルデーラ様と共に、アルデーラ様の進まれる道を共に歩んで行きたいのです。お力になれることは……、ほとんどないかもしれませんが、それでも、わたくしは、アルデーラ様を、誰よりも、支持しております」
「アデラ――」
アデラとは、もう小さな子供の時から、ずっと一緒に育ってきた幼馴染で、婚約者だった。
最初から王妃となるが為に、幼い時からずっと英才教育を受け、淑女としての嗜みも、王妃としての教養も、厳しくしつけられた女性だった。
だから、自分からうるさく口を挟んでくることはないし、諍いがあっても、どこまでも中立で、自分の立場を左右に振り分けることもしない。
どこにいても、礼儀正しく、礼節は忘れず、それでいて出しゃばり過ぎず。
“王族の鑑”ともいえそうな努力を積み上げてきた、それを課された女性だった。
だから、アルデーラに向かって、こんな風に、自分の意見を口にしてきたり、心内を明かしてきたりしたことなど、今の一度としてなかったのだ。
「――なぜ、突然に……?」
「意思疎通を図る為に、コミュニケーションは一番大切なことだ、と教わりましたの。それから――アルデーラ様が戻られるまで、わたくしも、自分にその言葉を問いかけてみましたわ。今まで、わたくしは何を話して、何を話さなかったのか? どれだけ大切なことを隠してきたのか、分かっている振りをしていたのか――色々ですわね……」
セシルと別れてから、アデラには一人きりの時間があった。
あの後、王妃としての執務や、習い事など、今日は、全部、取りやめにしたのだ。
そして、一人きりになり、ずっと、セシルが話した会話を思い出していた。
「その答えは……、たぶん探さなくても、もう、すでに分かっている答えだと思いますの……。わたくしは、何一つ話さなかった――それだけです……」
「アデラ――」
アデラは心配そうに口を挟んだアルデーラに、軽く首を振ってみせた。
「少しだけ……、わたくしのお話を、聞いてはいただけませんでしょうか?」
「もちろんだ」
「淑女の嗜みとして、うるさくもなく、出しゃばることもなく、常に笑顔を絶やさず、波風を立てず、ただ受け入れて、口を挟まないように――そのように躾されてきたことは事実です」
アデラは侯爵家の娘として、貴族の令嬢として、そして、アルデーラの婚約者として、恥ずかしい振る舞いはできない。
許されてもいない。
「わたくしも、そのような恥をお見せすることは、わたくしの矜持が許さないでしょう」
それから、ほんの微かにだけ躊躇ったように、アデラが一拍を置く。
「ですが――そうであっても、そのように躾されていましても――たまに……、わたくしは、どうして良いのか……、自分でも分からない時がございます……。ですが、それを質問してしまっては、誰かに聞いてしまっては――きっと、情けない王妃だと責められてしまうのではと……、恥をさらしてしまうのではと……、誰にも聞くことができませんでしたの……」
「アデラ……」
心配そうにアデラを見つめるアルデーラに、アデラは少し首を振ってみせた。
「アルデーラ様、これは、わたくしの……弱さ、だと思うのです……。まだ、王妃になりたてで、わたくしは力不足であることは、重々、承知しております……。これから、たくさんのことを学んでいかなければならないことを、理解しているつもりです」
『王妃』 という立場は、誰よりもその責任が重いことを、アデラは重々に理解しているつもりだ。
もう、ただの『王女妃』 ではない。
一国が、アルデーラの肩に、そして、そのアルデーラを陰で支えるアデラに、全て伸し掛かっているのだ。
「それでも――時々、どうしてよいのか……アルデーラ様に頼っては――すがっては……、迷惑になってしまう、困らせてしまう……。情けない王妃になってしまう――のではないかと……」
「そのようなことは、私は思っていない」
「わかっております。アルデーラ様は、きっと、そのようなわたくしを見ても、お責めにはなりませんでしょう……」
だが、王宮内の使用人達が、侍従が、侍女達が、国王に仕える家臣達が、おまけに周囲の貴族まで全員が――そうだとは言い切れない。
そして、その事実を誰よりも一番に理解しているアルデーラだけに、アデラの告白とも呼べる心配を聞いても、アルデーラには何の手助けもできない。
「ですが――今日、わたくしは、「人」 に戻っても良いのだ、と教わりました」
「人、に戻る?」
「はい。「人」 として感情を持つことは至極自然なことで、それが自然の摂理と真理だ、と教わりましたの。そうやって、「人」 でいる時は、「王妃」 の顔をする必要もなく、その仮面を被る必要もなく、そして、私自身でいても良いと、教わりましたの……」
そして、昼間の会話を思い出すように微かに瞳を細めたアデラが、思い出した言葉を噛み締めるようにする。
「――生まれて初めて、そのようなことを……知りました。「人」 でなければ「王妃」 ではないと。いられない、と言われました。ですから、私が『アデラ』 でいる時は、一人の女性としてアルデーラ様をお慕いし、母親として子供達を愛し、私が嬉しいことも悲しいことも、そして……怖れていることも、その全ての感情を持って良いのだ、と教わりました」
きゅっと、一度だけ唇を噛んだアデラが、真っ直ぐにアルデーラを見つめ返す。
「「人」 として、アルデーラ様に――頼って、そして、頼られてもよいのだと、教わりましたの……。アルデーラ様も、「人」 に戻っても良い、と教わりましたの」
アルデーラの瞳の奥で――珍しく、驚きの色が浮かび上がっていた。
アルデーラだって、今まで生きてきた中で――そんな風に「人」 に戻ってよい、などと教えてもらったことなど、一度もない。
アルデーラは第一王子殿下として、次期国王陛下として、厳しくいなければならないのだ。
そう、生まれたその瞬間から、ずっといつも躾されてきた。
厳しく躾されてきた。
周囲の全員が、そう、それをアルデーラに強要してきた。
「――そんな、話をしたのか?」
「はい」
そして、アデラは昼間のセシルとした会話を、アルデーラの前でゆっくりと語りだした。
その間、アルデーラは一切質問をせず、アデラの話が終わるのをただ静かに聞いていた。
「わたくしは王妃であり、直接、政に関わることもございませんが、わたくしの味方になる力は必要です。わたくしは、アルデーラ様と共に、アルデーラ様の進まれる道を共に歩んで行きたいのです。お力になれることは……、ほとんどないかもしれませんが、それでも、わたくしは、アルデーラ様を、誰よりも、支持しております」
「アデラ――」
アデラとは、もう小さな子供の時から、ずっと一緒に育ってきた幼馴染で、婚約者だった。
最初から王妃となるが為に、幼い時からずっと英才教育を受け、淑女としての嗜みも、王妃としての教養も、厳しくしつけられた女性だった。
だから、自分からうるさく口を挟んでくることはないし、諍いがあっても、どこまでも中立で、自分の立場を左右に振り分けることもしない。
どこにいても、礼儀正しく、礼節は忘れず、それでいて出しゃばり過ぎず。
“王族の鑑”ともいえそうな努力を積み上げてきた、それを課された女性だった。
だから、アルデーラに向かって、こんな風に、自分の意見を口にしてきたり、心内を明かしてきたりしたことなど、今の一度としてなかったのだ。
「――なぜ、突然に……?」
「意思疎通を図る為に、コミュニケーションは一番大切なことだ、と教わりましたの。それから――アルデーラ様が戻られるまで、わたくしも、自分にその言葉を問いかけてみましたわ。今まで、わたくしは何を話して、何を話さなかったのか? どれだけ大切なことを隠してきたのか、分かっている振りをしていたのか――色々ですわね……」
セシルと別れてから、アデラには一人きりの時間があった。
あの後、王妃としての執務や、習い事など、今日は、全部、取りやめにしたのだ。
そして、一人きりになり、ずっと、セシルが話した会話を思い出していた。
「その答えは……、たぶん探さなくても、もう、すでに分かっている答えだと思いますの……。わたくしは、何一つ話さなかった――それだけです……」
「アデラ――」
アデラは心配そうに口を挟んだアルデーラに、軽く首を振ってみせた。
「少しだけ……、わたくしのお話を、聞いてはいただけませんでしょうか?」
「もちろんだ」
「淑女の嗜みとして、うるさくもなく、出しゃばることもなく、常に笑顔を絶やさず、波風を立てず、ただ受け入れて、口を挟まないように――そのように躾されてきたことは事実です」
アデラは侯爵家の娘として、貴族の令嬢として、そして、アルデーラの婚約者として、恥ずかしい振る舞いはできない。
許されてもいない。
「わたくしも、そのような恥をお見せすることは、わたくしの矜持が許さないでしょう」
それから、ほんの微かにだけ躊躇ったように、アデラが一拍を置く。
「ですが――そうであっても、そのように躾されていましても――たまに……、わたくしは、どうして良いのか……、自分でも分からない時がございます……。ですが、それを質問してしまっては、誰かに聞いてしまっては――きっと、情けない王妃だと責められてしまうのではと……、恥をさらしてしまうのではと……、誰にも聞くことができませんでしたの……」
「アデラ……」
心配そうにアデラを見つめるアルデーラに、アデラは少し首を振ってみせた。
「アルデーラ様、これは、わたくしの……弱さ、だと思うのです……。まだ、王妃になりたてで、わたくしは力不足であることは、重々、承知しております……。これから、たくさんのことを学んでいかなければならないことを、理解しているつもりです」
『王妃』 という立場は、誰よりもその責任が重いことを、アデラは重々に理解しているつもりだ。
もう、ただの『王女妃』 ではない。
一国が、アルデーラの肩に、そして、そのアルデーラを陰で支えるアデラに、全て伸し掛かっているのだ。
「それでも――時々、どうしてよいのか……アルデーラ様に頼っては――すがっては……、迷惑になってしまう、困らせてしまう……。情けない王妃になってしまう――のではないかと……」
「そのようなことは、私は思っていない」
「わかっております。アルデーラ様は、きっと、そのようなわたくしを見ても、お責めにはなりませんでしょう……」
だが、王宮内の使用人達が、侍従が、侍女達が、国王に仕える家臣達が、おまけに周囲の貴族まで全員が――そうだとは言い切れない。
そして、その事実を誰よりも一番に理解しているアルデーラだけに、アデラの告白とも呼べる心配を聞いても、アルデーラには何の手助けもできない。
「ですが――今日、わたくしは、「人」 に戻っても良いのだ、と教わりました」
「人、に戻る?」
「はい。「人」 として感情を持つことは至極自然なことで、それが自然の摂理と真理だ、と教わりましたの。そうやって、「人」 でいる時は、「王妃」 の顔をする必要もなく、その仮面を被る必要もなく、そして、私自身でいても良いと、教わりましたの……」
そして、昼間の会話を思い出すように微かに瞳を細めたアデラが、思い出した言葉を噛み締めるようにする。
「――生まれて初めて、そのようなことを……知りました。「人」 でなければ「王妃」 ではないと。いられない、と言われました。ですから、私が『アデラ』 でいる時は、一人の女性としてアルデーラ様をお慕いし、母親として子供達を愛し、私が嬉しいことも悲しいことも、そして……怖れていることも、その全ての感情を持って良いのだ、と教わりました」
きゅっと、一度だけ唇を噛んだアデラが、真っ直ぐにアルデーラを見つめ返す。
「「人」 として、アルデーラ様に――頼って、そして、頼られてもよいのだと、教わりましたの……。アルデーラ様も、「人」 に戻っても良い、と教わりましたの」
アルデーラの瞳の奥で――珍しく、驚きの色が浮かび上がっていた。
アルデーラだって、今まで生きてきた中で――そんな風に「人」 に戻ってよい、などと教えてもらったことなど、一度もない。
アルデーラは第一王子殿下として、次期国王陛下として、厳しくいなければならないのだ。
そう、生まれたその瞬間から、ずっといつも躾されてきた。
厳しく躾されてきた。
周囲の全員が、そう、それをアルデーラに強要してきた。
「――そんな、話をしたのか?」
「はい」
そして、アデラは昼間のセシルとした会話を、アルデーラの前でゆっくりと語りだした。
その間、アルデーラは一切質問をせず、アデラの話が終わるのをただ静かに聞いていた。
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