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Part2

Б.б デートはいかが? - 04

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 真面目で真摯な騎士サマだから、セシルの領地で滞在させてもらった(多大な)恩を感じてしまっているのだろう。

 そうなると、昨日のガーデンの散歩だって、セシルの為に王族専用のガーデンに連れて行ってくれて、禁止区域なのに、王族秘宝とも称されそうなローズガーデンの温室も見せてくれた。

 これは、セシルの勘違いでも何でもなく、間違いなく、セシルのおもてなし用に、ギルバートが用意してくれたのだろう。

 第三王子殿下で、騎士団の副団長まで務めているとても高位の方なのに、セシルには信じられないほどに腰が低く、威張り散らしたことだって一度もない。

 騎士道が徹底しているから、レディーファーストが行動や言動に無意識で出ているような感じで、その仕草も労りがあり、とても洗練されたものだった。

 それこそ、物語に出てくるような王子サマのような貴公子だ(実際に、王子殿下であられるのだが……)。

 今回は、夜会になど(また)招待されてしまい、一体、どうなることかと思いきや、ここまで至れり尽くせりの気遣いをされ、もてなされ、完璧なエスコートをされるなど、セシルも思いもしなかったことだ。

 人生初めての経験である。

 アトレシア大王国でも、初体験など、本当に考えてもみなかったことだ。

 それが判って、セシルも気分がほこほこと上がり、上機嫌になっていた。

 そして、機嫌が良さそうに、微かにだけ口元に笑みが浮かんでいるセシルの横顔を、隣でこっそりと盗み見しているギルバートも、そのセシルの表情を見つけて、心内で躍り上がるほど喜んでいたなど、セシルは全く知らないことだろう。

 後ろから、気配を殺し、主の初恋と純愛を見守っているクリストフは、


「ああぁ……、今日の(こぶ付き)デートが成功して良かったですねえ……」


などと、ほろりと、感慨深げに浸っていたのは言うまでもない。

「今日は、なんだか、少し買い過ぎてしまいましたわ」
「そうですか?」
「ええ。つい、嬉しくて」

 その一言で、ギルバートも心が満たされてしまう。

 セシルに喜んでもらいたくて、アトレシア大王国を嫌って欲しくなくて、張り切って計画を練った努力が報われるものだ。

「あっ、ご令嬢」

 セシルの足元で何かが落ちたようで、クリストフが慌てて地面から何かを拾っていた。

「これは、ご令嬢のものですか?」

 軽く土をほろってくれたクリストフが、シュシュをセシルに手渡してきた。

「あっ、そうです。落ちてしまったんですね。ありがとうございます」

 今日は、マントの下で、シュシュだけで髪の毛を括っていたセシルだ。

 一応、今日もなにかの呼び出しで、公式な場でも顔を出されるようにと、仕方なく、紐で結びつけずに、シュシュだけで髪を括っていたのだ(セシルも、一応気遣いしてます……)。

 だから、縛りが緩いシュシュだと、マントとこすれて、セシルの髪の毛から簡単に外れて落ちてしまったのだろう。

 マントの下から腕を出したセシルは、髪の毛をマントの下から引っ張り出し、シュシュで軽く結んでいく。

 今回は、仕方なく、外に出して、髪の毛を縛るしかない。

 セシルが両腕を上げたことで、マントの前ががら空きになり、セシルが来ている洋服が目に飛び込んで来た。
 そして、胸元にあるのは、ショルダーバッグだ。

 どうやら、先程、ゴソゴソとマントの下で動いていたのは、背中にかけていたショルダーバッグを胸側に回していた動作だったのだな、とギルバートもそこで納得する。

 確かに、お金を落ち運ぶのに、ショルダーバッグは便利なものだ。

 騎士団の制服のポケットで大金を入れることはできないし、大金を持ち歩いているだけでも危険だ。

 でも、ショルダーバッグの中に、以前に教わった“財布”なるもので、お金を入れて落ち歩いたら、スリ防止にもなる。

 手を伸ばして手繰たくろうが、簡単に外れる物でもない。中にある財布にまで手を伸ばさなければ、お金を盗むことも難しい。

 やっぱり、豊穣祭の時に、ショルダーバッグを買っておけば良かったなぁ、などと、ギルバートも、少々、残念に思ってしまう。

「お腹は空いていらっしゃいませんか? 食事処か、屋台もありますが」
「アトレシア大王国の屋台では、どのような食事が売っているのですか?」

「そうですね……。平民がすぐに買えるようなスナックや、少しお腹の足しになるパンの料理だったりと、ありますが」

「では、副団長様のお勧めの品などはございまして?」
「お勧め? ――かどうかは分かりませんが、一応、食べても問題ないものであれば……」

 その形容も、不思議な形容の仕方だ。

 食べて問題ない食事。
 おいしい食事、とは言わないところが、王子殿下だろうか。

 でも、王子殿下なのに、屋台の食事をしたことはあるらしい。

「では、ここらで休憩にしましょう。どうぞ、掛けてください」

 近場にあったベンチの上に、ギルバートのハンカチが乗せられ、セシルは椅子を勧められた。

 どこにいても、ジェントルマン、である。

「少々、お待ちください」

 ギルバートが少しだけ離れると、すぐに、一人の男性がギルバートに近寄って行った。
 私服で、隠れて護衛してくれている騎士の一人だ。

 騎士に指示を出したのか、ギルバートがすぐにセシルの元に戻って来た。

「今、買ってきてもらいましたので」
「ありがとうございます」

「隣をよろしいですか?」
「ええ、もちろんです」

 セシルの隣に腰を下ろしてきたギルバートの前で、クリストフとイシュトールは、少し前で立ったまま護衛を続けている。

「オシボリ、はないのですがね」
「ふふ。手を洗ったり、手を拭くという習慣は、中々、ありませんものね」

「ご令嬢の領地では、全部に行き届いていました」
「そう、教えましたので」
「最初は、何も言われませんでしたか?」

「いいえ。ただ、最初の方は、領主様が言われたことだからやっている、というような態度でしたけれど、手をいた後のタオルを見せたら、すぐに、バイ菌がついていたと気が付いたようです」

「口で言うより、目で見る方がもっと納得しますしね」
「ええ。その後は、領地内での布教も問題ありませんでしたわ」

「王都での布教――は、時間がかかりそうです」
「大きな街ですものね」

 でも、セシルの領地でしている政策の一つをギルバートが真剣に考えていたなど、セシルもちょっと驚いていた。

「領地の視察で見せていただいた施設は、なにもかもが便利で、効率的で、あのような施設を王国内でも建てることができたのなら、とても役立つことでしょう。ただ……どのようにそれができるのか、私にも分かりませんが……」

 セシルの領地だからこそ、セシルが率先しているからこそできた偉業だ。

 王国での政策や国政などを考えて見ても、新しい案を提案すること自体、難しいだろう。

 グリーンハウスの建設だって、気候に左右されずに食物を育てることができる画期的な発明になる。

 水の確保にダム(もどき)。アトレシア大王国だって、乾燥が続く気候があって、という報告が良く上がって来るものだ。

 宰相で、兄であるレイフにその話をした時でさえ、あのレイフも、そんな便利なものがあれば……と、かなり興味津々だった。

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