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Part2

Б.б デートはいかが? - 03

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 そんな夢は、また次の機会を探すことにして、今日は、アトレシア大王国の王都での観光を楽しむのが、セシルの最優先!

 本当なら、王宮に残っている皆も一緒に連れて来てやりたかったが、今回は、時間も限られているし、招待を受けたのはセシル一人だけ。

 またいつか、次の機会があればその時に、なんてね?

 セシルの右側にはギルバートが護衛している。
 クリストフは二人の後ろに。イシュトールも似たように、セシルの左手奥に。

 残りの護衛達はあまり見当たらない。セシルに気遣って、わざわざ、散って、護衛をしてくれているようだ。

 ギルバートだって、今は、重要な立場で、いつ狙われてもおかしくはない状況なのに。

「なにか興味の引かれるものがありましたら、遠慮なさらず、知らせてください」
「ありがとうございます」

 賑やかな大通りを進み出し、セシルも通り過ぎて行くお店の名前を確認していく。

 ウィンドウショッピング――とは言うが、この時代、この世界、現代のようにウィンドウから品物を並べたり、見せたりするお店はない。

 ほとんどが、家の続きでお店ができているような形だから、売っている商品が判らない場合、ドアを開けてお店の中に入らないと、お店の商品が見えないままだ。

 お店のロゴや、看板の飾りなどで、お店の内容を推測することはできるが、ウィンドウショッピングの醍醐味とは全く違う。

 ショッピングの味気がない。

 特に、セシルはアトレシア大王国の王都で観光するのは初めてだから、お店の名前や場所だけで、そのお店で何が売られているのか、さっぱり見当もつかない。

「こちらのお店はいかがですか?」

 よろしければ、と誘われて、セシルは最初のお店に入ってみた。

 入った瞬間、目に飛び込んできたのは、周り中がガラスの瓶で埋め尽くされていたのだ。
 それに、すぐに、鼻に届いて来る香りの強さ。

「もしかして、香水のお店なのでしょうか?」
「そうだと思います。瓶がたくさんありますから」

 瓶だけではなく、香水の香りの成分が記された紙やカードが並んでいるから、香水ショップであるのは間違いない。

 うわぁ……!

 セシルも密かに感激してしまった。

 香水ショップなど、一体、いつぶりだろうか?

 この頃では、ノーウッド王国の王都にもほとんど戻っていないから、最後に香水ショップなどを訪れたのだって、かなり昔の話だ。

「少し……見て行ってもよろしいですか?」
「もちろんです。我々のことは、どうか、お気になさらずに。好きなだけ、観覧なさってください」
「ありがとうございます」

 久しぶりの香水ショップに心浮きだって、セシルはお店の中をゆっくりと見て回る。

 店主がやって来たので、アトレシア大王国で流行っている香りは何かなど、話が弾み、セシルはあっさり系と、少し甘さの残る香りの二本の香水を買っていた。

 全員が黙って見守る中、ゴソゴソと、ミノムシのようなマントの下で、セシルが自分の体を動かしている。

 それから少しして、ミノムシのマントの中からセシルの手が出て来て、代金を支払っていた。
 そして、左手には小さな布の塊が。

 セシルが小さなボタンを外し、スルスルと布を広げると、なんと、布の袋がでてきたのだ!

「えっ、袋だったのですか?!」
「そうです。持ち運び用に、折り畳み式の袋なのです」
「なんと……! 便利な袋なのですね……」

 実は、ギルバート達だけではなく、店主だって、そんな袋を見たことがないだけに、全員目を丸くして、感心している。

 現代では、エコバッグを持ち歩かないと、買い物だってできにくくなっている時世。便利なプラスチックバッグが使用できずに、少々、残念なことである。

 だから、この世界でも大荷物なんて運べない場所なものだから、セシルもエコバッグ用に、折り畳み式の布袋を開発していた。

 この布袋は、一番簡単にできた商品ではないだろうか。
 ただ、四角い布袋を何度も折り曲げて、クルクルと巻き上げるだけでできてしまうのだから。

 もらった小さな箱を布袋の中に収め、セシルはホクホクである。

「便利ですねぇ……」

 ドラえもんの“便利な発明ポケット”ではないが、セシルの周囲では、便利品ばかりが飛び出してくる。

 次のお店は、少々、高級感が溢れる宝石店だった。

 それでも、あまりに高級店過ぎて気後れしてしまうような雰囲気もなく、洗練された小さな室内で、色取り取りの宝飾やアクセサリーが飾られていた。

 店主も鼻高々という傲慢な感じは全くなく、年のいった年配の男性が親切で、セシルはそこでもちょっと買い物をしてしまった。

 次のお店は文房具店で、厚手のノートブックのカバーがとても綺麗で、「フィロとオスマンドには素敵かしら?」 なんて、二人用のお土産用に。

 二人のお土産を買ってしまったから、それなら、王宮に残っているオルガとアーシュリンにも、何かお土産を買った方がいいかしら?

 なんて気分で、次に誘われたお店に入り、反対側の通りに並んでいるお店に顔を出し、セシルの袋の中もかなり膨らみだしてきてしまっていた。


* * *


 ギルバートに案内されて、賑わいのある繁華街を見て回り、セシルは予想以上に今日の観光をエンジョイしていた。

 ふと、ある考えが頭に浮かび、たぶん、その自分の考え(憶測)は間違っていなくて、それに気が付いて、セシルもちょっと驚いていた。

 もしかしなくても、さっきからギルバートが連れて行ってくれるお店は、お洒落だったり、可愛らしいものが売っていたり、洗練されていたり――全て、貴婦人や若い令嬢が好むような店ばかりだ。

 久しぶりに、活気のある大都市にやって来て、お店が楽しくて、ついつい、セシルもお店で色々なものを買ってしまった。

 それもこれも、全部、ギルバートがセシルの為にあらかじめ用意してくれていた店ばかりなのだろう。
 女性が好みそうな、喜びそうな、お洒落なお店ばかりである。

 他国で、隣国の伯爵令嬢なだけのセシルの立場なのに、ギルバート達は、そのセシルに最大限の気を遣って、わざわざ、今日の王都の観光まで用意してくれたのだ。

 それが判ってしまって、セシルも、つい、顔が綻んでしまう。

 あり余るほどの好意をもらって、セシルも嬉しかったのだ。

 セシルは、アトレシア大王国側が心配するほど、以前の事件のことを問題にはしていない。ブレッカのこともそうだ。

 傍迷惑をかけられた事実はあっても、あれは全て過去のことで、一々、ぶり返して考える必要もなければ、その気もない。

 だが、多大な借りを作ってしまったと思い込んでいるであろうアトレシア大王国側は、今回のセシルの訪問で、絶対に、セシルには粗相を働かないように、見せないようにと、細心の注意を払っているような圧力だった。

 気迫だった。

「副団長様、このようにお時間を割いていただきまして、ありがとうございます」
「いいえ。少しでも、ご令嬢に喜んでいただけるのでしたら、私も嬉しく思います」

 やっぱり、ギルバートの気遣いだったようである。

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