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Part1

* В.г いいでしょう *

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 あれから三日が経った。

 部屋に閉じ込められたまま、することもなく、時間の無駄で、しなければならない仕事はたくさんあるのに、全く以て、不愉快極まりない。

「ご加減はいかがか?」

 そして、セシルの時間を最高潮に無駄にしている、正にその張本人が、セシルの前の椅子に座っている。

 王太子殿下の私室らしき部屋にまた呼び出されて、セシルは、王太子殿下とテーブルを挟んで、対峙していた。

 王太子殿下の後ろには、第一騎士団の団長が起立したま、控えている。
 セシルの後ろには、セシルの護衛が二人。

 そして、扉側にはセシルを迎えに来たギルバートが控えていた。

「時間の無駄。それだけです」

 あまりに淡々と、あっさりと、だが、ピシャリと、付け込む隙もないほど、キッパリと言い切ったセシルだ。

 そして、気まずい沈黙が、その場に降りる。

「一体、いつまで、監禁なさるつもりですか?」
「今は、まだ混乱が続いている状態なので、このまま一人にしては、危険でしょう」

「そうかしら。このまま隣国に帰れば、はっきり言って、全く問題もないでしょうにねえ」
「そうとは言い切れないが」

 わざわざ、隣国であるノーウッド王国までセシルを追って、夜会での陰謀計画を滅茶滅茶にした腹癒はらいせに、敵が襲ってくるとでも言いたいのだろうか。

 セシルがあの夜会を滅茶滅茶にした事実は――疑いようもなく、すでに広がっているはずだ。
 特に、他国の令嬢なだけの立場なのに、王国のゲストとして参加した令嬢が――国家転覆もどきの陰謀を叩き潰してしまった状態でもある。

 そして、二家の貴族がすでに捕縛され、お家お取り潰し、家名断絶、今はかなりの重罪で、投獄までされてしまった。
 異例のスピード(偶然だとしても) での、粛清しゅくせい――だった。

 “長老派”だって、まさか、こんなに早く、自分達の駒となっている二家が潰されてしまうなど、露にも思わなかったはずだ。

 だから、ずる賢く、あくどい貴族が揃っている“長老派”など、すぐに、セシルの近辺を調査させていてもおかしくはない。

 今の所、セシルは客室で監禁されていると思っているらしいが――完全にそう信じているのだろうが――それでも、今、セシルが自国に戻ったからと言って、セシルが安全だとは、絶対に言い切れない。

 むしろ、アトレシア大王国から離れたからこそ、薄汚い“長老派”が、腹癒せの為に、偶然をよそおった暗殺計画でも立てていたとしても、アルデーラには全く不思議はなかった。

「王族、王家の人間は、よく命を狙われる――なんていう話は聞きますけれど、この国も、例外ではないようですのね」

 別に、皮肉で言われた言葉ではなかった。
 ただ、現状をそのままに、事実をそのままに、あまりにあっさりと、セシルは端的に指摘してきただけだ。

 だが、アルデーラの眉間が、ピクリと、微かにだけ揺れていた。

「頻繁で、敵が多いこと」
「――王家でなくとも、欲に目がくらんだ愚鈍は、たくさんいる」

 へえと、セシルは全くこの話題に興味がないように、心もこもっていない相槌が、喉だけで音を出したようなものだった。

王国? 国土は広いですわよねえ。だからかしら? この国、随分、問題があるようですけど?」
「そのようなことはないが。王国の治世と統治は、穏やかだ」

 ふうん、と更につまらなそうに、セシルの相槌が音を出す。

「穏やかな治世、ねえ。その割には、王太子殿下主催の夜会に賊が侵入し、夜会は滅茶滅茶。裏切り者の貴族がいて、おまけに人質を取られて、危うく殺傷問題。まあ、結果としては、賊だけが怪我をしたようですけれど」

 それも、セシルが介入しなければ、最悪の事態に陥っていた可能性は高い。

「国王の性格を反映していて治世が穏やかだ、とは噂にも聞きましたけれど。それ、本気で思っているんですか?」
「――――どういう、意味だろうか」

 アルデーラが、慎重にセシルを見やりながら、それを聞き返す。

 セシルは態度も変えず、ただ淡々と、
「穏やかな治世は、それはそれで、民も喜ぶでしょう。無理もなく、問題もなく、治世が穏やか――など、国が安定している時なら、それもあるのでしょうね。ですが、混乱や動乱に、穏やかさだけで足りるのですか?」

「――っ――」

「表面上は穏やかで、表面下では、混乱と動乱が。そして、国が荒れていく中、一番に被害を受けるのは、一体、誰だと思っているんですか? そう言った同情や感傷で、一国が治められるのであれば、ある程度、知能のある領民にだって、国王になれることでしょう」

 セシルの口調は淡々として、声音だって、感情の機微があるわけでもない、あっさりとしたものだ。

 態度も変わらず、責めているのでもない。
 侮辱しているのでもない。

 だが――その一言で、アルデーラが――態度に出さなくとも、絶句していたのは、セシルは知らないことだろう。

「まあ、隣国のことなど、私には関係ありませんけれど」

 だから、さっさとセシルを解放して、時間の無駄をするな、と暗黙の意味がその言葉に乗せられている。

 だが、アルデーラは、難しく眉間を微かに寄せて、考えているだけだ。

 それから、更に、シーンと、気まずい沈黙だけが降りる。

 セシルからは、何かを言ってくる気配もない。ただ、この場にいる時間が無駄だ、という態度が、雰囲気が、誰から見ても明らかなだけだった。

「――――ご令嬢の力を、お借りしたい」
「いいでしょう。このまま監禁され続ければ、私の時間を無駄にするだけですからね。ただ、あなたにその力がおありなの?」

「騎士団は、私の指揮下だ」
「国王陛下の邪魔が入らない、と?」

「それは私が押さえておくことで、ご令嬢が考慮することではない」
「いいでしょう。私の条件は――」

1.  私が動くのであれば、一切の文句は言わないこと
2.  私達に口出しをしないこと。結果がどうなろうと、私達には一切の責任はないこと
3.  今回手を貸すのは、夜会での賊がらみのみ
4.  その他の問題など、私には全く関係ありませんので
5.  手を貸す間の費用は全額返済すること
6.  知っている情報は全て渡すこと
7.  恥を隠したいのなら、その場で仕事は終了とみなすので
8.  同様に、問題解決は、私がそれを判断した時点で終了とすること

 スラスラ、スラスラと、セシルが自分の条件を羅列していく。

「どうなさるんです?」

 セシル達に、一切、口出しするなとは、ある意味、予想できた注文だ。

 だが、問題解決の基準がセシルの判断で決められるのであれば、いつでも、セシルは手を貸すことを打ち切ることができる。たとえ、それが中途半端であっても。

 それを口にしたならば、セシルの仕事を侮辱するしか能のない男――など、今度こそ、セシルに完全に見切られるのは目に見えていた。

 その程度の挑発や侮辱で、これ以上、アルデーラだって、時間を潰すような愚鈍ではないのだ。

「いいでしょう」
「では、契約書を」

「いいでしょう。ご令嬢の護衛は、つけさせてもらう。たとえ、それで監視されていると思われても、王国にいる間、ご令嬢の身が危険にさらされている事実には、変わりはない。その状態をみすみす放置することは、我々の矜持きょうじが許さないもので」

「何人です?」

 アルデーラの視線が、無言で、セシルの後ろに向けられた。

「せめて10人」
「冗談でしょう」

 セシルは後ろを振り返りもせずに、スッパリ、言い捨てていた。

 だが、無表情のまま、ギルバートも態度は変わらず、
「では、全員私服で。ご令嬢の傍に侍るのは、二人。残りは、散らせておきます。指示がない限り、一切、接触はさせませんので」

「いいでしょう。期間は、一応、二週間。それで決着がつかないのなら、それ以上の介入は、無意味ですから」
「では、契約書を用意させよう。いつから?」
「今から」

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