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Part1

* В.в ご冗談を *

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 セシル達が王国の騎士達に囲まれ、連れて来られた部屋は、随分、豪奢な広い一室だった。

 部屋の置物も飾りも品があり、超高級の一品とも呼べるような代物ばかりが、部屋の調和を乱さないように並べられている。

 床のカーペットも厚手で、部屋の中に進んで歩いていく度に、足裏に振れるカーペットで床の堅ささえも、感じられないほどだ。

 外側には大きな窓が並び、部屋の煌々こうこうしいあかりに反して、外の暗さと、微かに漏れる外灯の灯りが、ぼんやりと窓のガラスに反射していた。

「どうぞ、ここでお待ちください」

 室内の扉のすぐ横で足を止めた騎士が、セシル達にそれを言った。

 だからと言って、この部屋から出ていく気配はない。扉のすぐ横で起立したまま、警備を続けるらしい。
 セシル達を警戒して見張っているのか、侵入者を警戒してか、その両方ではあるようだった。

 セシルは、スタスタと、窓側まで勝手に足を進めて行き、まだカーテンが閉められていない、大きな窓辺を覗き込んでいた。

 外はすっかり日が落ちて、暗がりだけが広がっていた。

 この暗がりなら――一人、夜会を抜け出したフィロが、外をうろついても、見つかることはないだろう。

 イシュトールとユーリカは、セシルの前で護衛している。セシルが窓辺で外を覗き込んでいる間、二人は、扉側の騎士達に向き合う形で起立している。

 この部屋に連れて来られる間も、セシル達三人の所有している武器は、取り上げられなかった。どうやら、今の所、武器を没収して、監禁する意図はないようである。

 どうせ、王太子殿下達は、大広間に残した賊と、反逆した二人の貴族の後始末に追われ、おまけに、侵入してきた賊達の後始末にも追われ、当分は戻ってこないだろう。

 残りの貴族達の大パニックで、混乱だって続いているだろうし、その全員の説明に、それを終えて、無事に全員を帰すまで(追い払い)、どれだけの時間がかかるのだろうか。

 あの場で、セシルをあてがわれた客室に送り届けもしなかったのは、まさに、これから、王太子殿下のセシルへの尋問が待ち構えているのは、間違いなかった。

 うんざりぃ……。

 ふぅ……と、セシルも諦めたような溜息ためいきをこぼしてしまっていた。

 あの場で取り逃がした賊は、いなかった。
 それでも、絶対に、まだこの王宮内に、賊が潜伏しているはずなのだ。

 王宮など、警護がはなはだしいほどに厳重で、ただの貴族だって、簡単に出入りできる場所でもない。王宮内は、常に騎士が徘徊しているであろうし、見張りだってウロウロしていても、おかしくはない。

 それなのに、夜会を開いているその場に、その時に、誰にも邪魔されず、あまりに簡単に夜会に侵入してきた賊共。

 あの貴族が手引きしていたとは白状していたが、それだけで、あの大広間まで、誰にも見つからずに、数十人もの男達が侵入できたとは思えない。

 必ず、潜伏して手引きした仲間がいるはずだった。

 賊が暴れている間だって、喧騒を聞きつけて、駆けつけてくる騎士達がいてもおかしくはないのに、そんな騎士は、誰一人、いなかった。

 大広間に続くあの大きな扉が、中側から強制的に閉じられているだけで、外からの援軍は、誰一人、駆けつけて来なかった。

 夜会での喧騒も聞こえないほど、騎士達は大広間から離されていたことになる。

 そんな芸当ができる悪玉が、賊が全員捕縛された場で、のこのこ王宮に残っているはずもない。

 もし――逃げ出したフィロと合同したセシルの“精鋭部隊”が、王宮から逃げ去っていく伏兵を見かけていたのなら、一緒に追いかけて行ったのだろうか?


「絶対に、危ないことはしてはいけませんよ」
「危ない真似をしても、いけませんよ」


 その二つを、しっかりと(耳が痛くなるほど) 子供達に言いつけて来たセシルだ。――が……、ちゃんと言うことを聞いているのかしら、あの子達……?

 さすがに、その懸念だけは拭えず、つい、気を揉んでしまう……。

 セシルは窓辺に寄りかかり、ただ、ずっと外を眺めているだけだ。

 それから、優に、一時間は待たされた状態だっただろうか。

 この部屋に続く扉が開き、そこから、王太子殿下が姿を見せたのだ。
 スタスタ、スタスタと、威厳ある様相で、真っ直ぐに中央にある大きな長椅子の方に進んでくる。

 その視線だけが、窓側のセシルに向けられた。

「こちらに掛けられよ」

 あぁあ、これから長い夜が始まりそうですねえ。もう、セシル達は、絶対に見逃されないはずだから。

 仕方なく、窓辺に寄りかかっていた身体を起こし、セシルは王太子殿下が座っている対面の椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。

 イシュトールとユーリカが、セシルの椅子の後ろに控える。

 王太子殿下に付き添ってきた、真っ白な騎士の正礼装に身を包んだ六人の隊長格が、王太子殿下を取り囲むように、椅子の後ろで、姿勢を正して起立する。

 王太子殿下の真後ろに、三人の年配の騎士が、セシルの右手の長椅子の後ろに、二人の若い騎士。そして、左側に、最後の一人――ギルバートと呼ばれていた若い騎士が、起立している。

 騎士達など、普段から鍛えられているだけに、体格も良く、背も高く、真っ直ぐに起立しているその立ち姿からしても、風格があり、その場を威圧しているような圧迫感出しまくりである。

 セシルなど、まだ若い令嬢なのに、そんなセシルを取り囲み、ものすごい威圧感丸出しで、まるで、それだけでセシルを脅しているかのような光景ではないか。

 まあ、幸運なことに、セシルは、この程度の威圧感や脅しで、簡単に怖気づくようなタマではないが。

「まずは、今夜の夜会ではご令嬢に大変な迷惑をかけてしまった。怪我はないだろうか?」

 無機質にも聞こえる低い声色で、セシルの前に座っている王太子殿下であるアルデーラは、その視線をセシルから外さずに、真っ直ぐセシルを見据えている。

「あったら大問題でしょうねえ」

 淡々と返された皮肉を無視し、アルデーラは、まだセシルを真っすぐに見据えている。

「怪我がないのであれば、それは良かった」

 そして、セシルからは無言だけが返される。何かを進んで話し出す気配もない。態度にも見えない。

「今夜の事件で、ご令嬢には世話になった。そのことで、少し、話を聞かせてもらいたい」

 だが、セシルの反応は、変わらず全く反応がない。

 その無言を無視し、アルデーラが続けていく。

「これからしばらく、状況が落ち着くまでこの王宮で留まってもらうことになるだろう」
「監禁? それとも、投獄、ですか?」

 妙にかんに障る口調で、あからさまな侮辱を含んだ声音。

 アルデーラは冷たい表情を変えず、
「そのどちらでもない。他国の貴族令嬢が、我が国で事件に巻き込まれただけに、身の安全を確保し保証するのは、我々の責任だ。今夜、メインの首謀者を捕縛したからと言って、残党、または、伏兵がいないとは証明されていない。その間の身の安全を確保する為に、王宮に留まってもらうだけだが?」

「あら、それは、、お優しいのですのね」

 その口調からして、全くそうは思っていないのが明らかなほどだ。

「今、私を監禁しておけば、恥の尻拭しりぬぐい――だろうと、緘口令かんこうれいを敷けますものね」

 セシルは部屋で監禁、または、軟禁状態で、王国の、王宮の恥を広めることはできなくなる。

 丁度いい理由で、だ。

 あまりに冷たい口調から、侮蔑も露な態度から、その全てから、セシルの全身が、アルデーラ達を最大限に嫌悪しているであろう気配が、ビシビシと伝わってくる。

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