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Part1

Б.д もう二度と会わない - 02

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「もし穴が見つかったら、後ろに待機している100人も一緒に、200人で、まずはその場を確保してもらわないと話になりません。それで、更なる200人を、すぐ後ろで待機させる。残った100人は、まあ、念の為に、ギリトル側でも、穴側でも動けるように、待機させてください」

「それだと、この陣がもぬけの殻になる」

「それが? こんな陣なんて、守ってもしょうがないでしょう? あなたには、いつも護衛が引っ付いているし、逃走する時なら、内門からコロッカルに逃げればいい。外壁がいへき国境くにざかいを敵に突破された時点で、この地は終わりだ。領地に隠してある穴側も同様に。下手に陣なんか守ろうとするから、兵士が分散され、兵力が散漫になるんだ。さっさと叩き潰すなら、全力で行くべきだ」

 子供のくせに、戦の戦略にまで口を出してきて、「生意気だ」 と、簡単に片づけられたら、どんなに良いことか。

 だが、フィロの言い分は、理に適っているのである。

 今までの報告やら、セシルから叩きつけられた報告(いや、事実)を総合してみると、結局は、この地のがまとまりなく、やることと言えば、あの中尉を含めた上級指揮官を守ることだけ。

 だから、兵士達が無駄に捨てられたのだ。
 捨て駒にされたのだ。

 嫌そうに、王太子殿下が溜息ためいきをこぼした。

「――いいだろう」

 それからすぐに、王太子殿下は、戻って来たハーキンに新たな指示を出し、騎士達の準備をさせる。

 ハーキンはまだ口を挟まないが、その渋面に及ぶ渋面顔に、きつくしわがついてしまいそうなほどに寄せられた眉間が、ハーキンの感情を正に映し出していた。

 きっと、文句を言いたいのに言える場ではなくて、信用ガタ落ち――いや、最初から全くないのだが――無能扱いのアトレシア大王国側の兵士達、非礼極まりない悪事のオンパレードで起きる国際問題、その上、今は、その話題の中心人物は、毒を受けて瀕死ひんしの状態……。

 もう……到底、言い訳も、言い逃れもできる状況ではなかった。

 それだけに――きっと嫌々に、我慢に我慢を重ね、文句を言わずに(ものすごーく) 仕方なく(偉そうな) 子供達の指示に従っていたのだろう。

 準備ができた騎士達を連れて、リアーガ達が駐屯地を去っていく。

 その間、もちろんのこと、子供達と言えば――

「モンスターごっこ、誰やるんだ?」
「誰でもいいけど、敵兵を斬り殺すんだよ。お遊びじゃないんだから」

「わかってるよ、そんなこと」
「だったら、俺が行く」

 ジャンが、まず一番初めに、手を上げていた。

「斬り殺せるの?」
「当然」

 今更――人をあやめることに躊躇ちゅうちょなどしない。

 ジャン達は、スラム街で生き延びることに必死で、人を――あやめたことがないわけじゃない。
 あの時は、ただ、自分達が殺されるかもしれない状況から逃れるのに必死で、無我夢中で、気が付いたら……という状況だったかもしれない。

 あの時――もう、子供達はすでに殺人を犯した“罪人”として、一生逃れられない烙印を押されたも、同然だったのだ。

 それなのに、セシルは、その5人の子供達を受け入れた。領地に招いた。
 人生を、くれた。

 だから、セシルの為なら、どんなことでもする。何でもする。

 絶対に――まもり切るって、あの時、全員で決めたから。

「じゃあ、ζジータはモンスター役ね」
「俺達は無理」
「元々、計画に入れてないし」

「なにそれ、ひどいじゃん」
「することあるんだから、そっちに集中しなよ」

 冷たく言い切られて、ケルトとハンスは、口を尖らせながら黙る。

 まあ、ケルトとハンスは――機材や資材が揃ったら、これから、多忙になるのだ。
 もう、二人の思いつく限りの仕掛けやら、いたずらやら、なんやら、全部作り上げて、徹底的に敵を打ちのめしてやる気満々だ。

αアルファ次第だけど、たぶん、穴はあるんだと思うんだよね。穴を見つけたら、修復する時間なんてないから、まずは囲いを作る」
「囲い?」
「そう。こんな風に」

 フィロがペンを取り上げ、紙の上に領壁りょうへきらしき線を引き、一応、穴らしき場所を提示する。そして、それを取り囲むように、外側に扇形の線を引いた。

「この丸い部分に、速攻で、まず木で壁を作る。そして、領壁りょうへき側に隣接している部分の端っこだけは、少し隙間を空けておく。この丸い壁の外側にも、大きな穴を掘ること。馬が落ちても、登ってこれないくらい深く。この丸い部分一体」
「なるほど」

 ケルトが仕掛けの指揮を取るので、ケルトも紙を覗き込みながら、フィロの説明を真剣に聞いている。

「それで、この両端からしか、敵は侵入できない、っていう作戦か」
「そう。丸い部分は、浅くても深くてもどっちでもいいから、速攻で、まずは壁を作る」

「俺は――丸を深くして、壁の内側に、味方を忍ばせておくけどな」
「まあ、僕もそれには賛成だけど。そっちはかなり命懸けだから、立候補する奴が少ないでしょ?」
「まあ、そうかもな」

「それで、穴を挟んだ両方の領壁りょうへき側にも、同じように穴を掘る。空堀でいいんだ。それで、敵だって、穴を避けて、回り道で侵入してこようとは思わないだろ?」
「どのくらいの長さだ」

「長くなくていい。速攻で作らせるから。それに、穴を掘ってる間も、騎士達に護衛してもらわないと意味がない。そんな場所で襲われたら一巻の終わりだしね」
「わかった」

「それと同時に、領壁内側は、閉じさせる」
「閉じさせる? どういう意味だ?」
「こういう意味」

 それで、今度は、フィロは領壁内の穴の部分から、直角の線を引く。

「これで、穴を抜けて突入して来ても、直進できなくなる。仕方なく向きを変えた場所に、落とし穴。そこで、全滅させる」

「うえぇ、相変わらずえげつないな」
「容赦なしぃ」

「なに、文句あるの?」
「「ないぜ」」

 あるわけもない。

「もう二度と会わない敵に、一々、情けや同情なんかかけてやる必要もないよ」
「確かに」

 王太子殿下の方に、フィロがその冷たい視線を向ける。

弓兵きゅうへいはいないんですか?」
「――きゅう兵?」

「弓を引く兵士のことです」
「――そのような者達はいないが」

「まあ、そうでしょうね。どうせ、騎士とかなんか、平らな場所で、剣の殺し合いでしょうし。城攻しろぜめなんか、経験したこともないでしょうから」

 全く聞き慣れない――戦法を聞いて、王太子殿下だけではなく、騎士団団長のハーキンまでも、一瞬、驚きが隠せなかった。

 二人が無言で、サッと、視線を交わし合う。

 城攻しろぜめ――など、西洋の中世・近世ヨーロッパの貴族社会では、戦があっても、大抵は、王城より離れた場所で戦が起こるものだ。だから、日本の戦国時代のような“城攻しろぜめ”などという概念が薄いし、ほとんど経験などしたことがない。

 アイルランドなどでは、地形を生かして山に城を作る山城もあったようだが、近世の王城などでは、敵国を制圧しても、それから、王城にむかって凱旋がいせんする、などという事例はあるが、城そのものを攻め落とす、という歴史がない。

 それは、異世界であっても、このアトレシア大王国もそうであるし、近辺の王国諸国も同じことだった。

 “城攻しろぜめ”など――あまりに耳慣れない発想を出してくる子供が不穏で、王太子殿下も騎士団長のハーキンも、怪しまずにはいられなかったのだ。

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