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Part1

Б.б 見限るしかない - 09

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「ええ、一々、構ってやるだけ、無駄ですから」

 それで、全員が、無能中尉と兵士達を無視して踵を返す。

「後片付けが、大変になるわね」
「問題ありません。今の所、待機ばかりなので、あの程度、またすぐに作り直せますので」
「そう。本当に、あなた達は頼りになるのね」

 その後、そこら中に仕掛けられた罠に引っかかり、兵士達が悲鳴を上げ、時には、木で作られた槍が飛んできて死にかけもし、落とし穴に落ちて負傷し、緊急事態で大変な時に、更なる負傷兵を作り、駐屯地のその隅では、またまた違った意味で、地獄絵図と化していたのだった。

 翌日、ジャールとリエフを飛ばし、奪われた食糧確保の為に買い出しをさせる。
 そして、セシルからの指令も受けて。

 買い出しに出ていた二人の前で、どうやら、コロッカルからの援軍らしき兵士達が、ゾロゾロと、ブレッカに入ってきたというような報告も上がる。

 だが、ブレッカの入り口から商店街を抜けず、そのまま迂回した為、南東の砦に直行するような動きでもあるという。

 残念なことですねえ。

 もし、この駐屯地の前を通り過ぎていくのなら――あの無能中尉を前に引きずり出して、あまりに偉そうなあの頭を地面にでもなすりつけながら、今までの悪行を全部ばらしてやったことなのに。

 ジャール達は傭兵ということもあり、内門を通過する際には不審げに兵士達に睨まれていたようだが、ただ、それだけだ。

 むしろ、部族連合がいるかもしれないのに、今、外に出ていくなんて狂ってる――などと、兢々として兵士達から見られている方が大きいだろう。

 セシル達は事実上、この駐屯地で軟禁されているような状態だ。だからと言って、セシルの時間を無駄になど、絶対にしてやるものか。

 子供達だって、駐屯地の監視に入っている。

 すでに、何度となくセシルを侮辱され、不当な扱いを受け、子供達だってセシル以上に頭に来ているのだ。
 今まで以上の張り切りようで、全く抜け目のないあの子供達だって、中尉を叩き潰す気満々だ。

 ふふ。

 見ていなさいよ。
 私を本気で怒らせた罪は、あんな価値のない体でも、しっかりと払わせてあげますわ。

 ふふ。




 一見、何もしていないように見えて、無駄な時間ばかりが過ぎていく。
 だが、セシルは今の状況にかなり満足している。

 もう、完全に、あの無能中尉の足は掴んだ。
 後はほんの小さな機を待ち、徹底的に叩き潰すのみ!

 ブレッカとコロッカルを行ったり来たりのジャール達の報告も途切れず、あれから、コロッカルからやって来た兵士達も、南東で部族連合とぶつかったらしい。それで、早馬が飛ばされていった、とも。

 もう、追い詰められた無能集団には、王宮しか逃げ場はないでしょう? 行く先はないでしょう?

 ふふと、他人が見ていたら、あまりに背筋が凍り付きそうな薄い微笑だけが、セシルの口元に始終浮かんでいる。

 この駐屯地からも、何度も、何度も、南東側の砦に、援軍要請の兵士を飛ばしたようだ。だが、誰一人、帰って来る者はいない。

 それで、業を濁したのか、能無し中尉の部屋で、中尉が兵士と言い争いをしている場面だって目撃されている。

 それも、また、援軍の要請に、兵士を無理矢理飛ばそうとする中尉に対し、数人では足りるはずもない、と意見していた兵士がいるらしい。

 やーっと、口論の末に、100人近くの兵士が固まって、出陣まがいの援軍要請に向かったが、それから、丸二日、全くの音沙汰無し。
 誰一人、帰ってくる兵士達はいなかった。

 さて。

 戻らぬ兵士達の不穏な状況で、何を考えますか?
  1)兵士が逃げ去ったと考えるか?
  2)能無し中尉に見切りをつけて、兵士達が南東の砦に留まったか?
  3)南東の戦が激化して、戦争に繰り出されてしまったか。なにしろ、最初から、援軍の要請をしていたのは、南東の方だ
  4)または、殲滅せんめつさせられたか

 どうなったことやら?




 辺りが視界を防ぐほどの闇に包まれ、むせ返るような異臭が周囲一帯を覆い尽くしている。

 深淵しんえんに立ち、進む先も、戻る先も見えない、聞こえない、感じない――そんな黒闇にいるような気がしてしまうような、錯覚さえも感じてしまう。

 人の五感というものは、視界があっても、あまりの暗闇が続くと、平衡感覚も鈍ってしまい、今、どこに立っているのかも判らなく感じてしまう。それで、嫌な心拍数が上がってくる。

 ただの生理的な反応で、心理的な恐怖からくるものでもないし、脳が理解できない場所に立っている感覚がそうさせているだけのことであっても、全くいい気分はしない。

 チラッと、セシルは手に持っている燈篭とうろうに目をやった。セシルの領地で開発した、青銅製の持ち運びができる小さな燈篭とうろうだ。

 これは、外灯として照らすものが目的ではなく、光を漏らさないように、外側の青銅はほとんど閉じている。だから、筒の中がぼんやりと輝いている灯りが、筒の中だけで保たれているだけだ。

 それを紐で吊るし、持ち運びやすいようにしている。

 ゆらゆら、ゆらゆらと、小さな灯りが、筒の中でぼんやりと灯りと影を為し、それだけが、今この場にいるセシルの確かな視界に移るものだった。

 深夜遅く、闇が深まった時間、セシル達は、少々、危険を冒して、駐屯地から出ていた。そして、南東側に続く獣道を、気配を殺して進んでいたのだ。

 セシルの推測では、南と南東を繋ぐ陸路には、部族連合の敵兵が潜んでいるはずだと踏んでいる。だから、領壁の途中で、きっと穴があるはずなのだ。

 そこで気配を殺してひそみ、陸路を通過していく王国軍の兵士達を待ち伏せし、殲滅せんめつする。

 だから、連絡も途絶え、両方の砦からの援軍の要請とて、一度として成功をみせていない。

 伏兵がいるかもしれない可能性がある危険地域に足を踏み入れること自体、それだけで、セシル達にも命の危険を及ばす結果になってしまうかもしれないが、それでも、いい加減、目くらましの状態で閉じ込められている状態にも、うんざりなのだ。

 セシルの時間だけを無駄にし、役にも立たない無能集団に囲まれて、セシルの付き人達の命だって、危険にさらされている。

 セシルの護衛として、リアーガ、ジャール、そして、リエフが付き添ってきている。イシュトールとユーリカは、子供達と一緒に残してきている。

 子供達だけでも、十分役に立つ“精鋭部隊”でもあるが、それでも、あの能無し中尉にいちゃもんをつけられて、子供達も武力行使を余儀なくされてしまっては、逃げ道もない。
 それで、イシュトールとユーリカを、子供達と一緒に残してきたのだ。

 馬は、少し離れた場所で残してきた。

 一時間ほど――という前回の襲撃の情報に頼り、陸路の半分近くかしら? と、当たりをつけてきたセシルは、駐屯地を抜ける際には、騎馬を使用した。
 その後は、今は、真っ暗な闇が広がる獣道を、徒歩で進んでいた。

「すげえ匂いだ……」

 全員が覆面をしていても、その覆面越しにまで匂ってくる異臭。強力、なんていう次元ではなく、肌にまで、その異臭がこびりついてくるようなほどの、悪臭だ。

 セシル達が進んで行く獣道には――無残に殲滅せんめつさせられた兵士達のしかばねだけが辺り一面に転がっている。

 あの能無し中尉のせいで、援軍も出さず、兵士の回収もしなかっただけに、見殺しにされた兵士達は、あまりに無残な様子で、そこら中に転がったままだった。

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