19 / 528
Part1
А.в ヘルバート伯爵領コトレア - 02
しおりを挟む
だが、現実的で合理的なセシル――現世の転生をしてしまった自分――には、さほどの興味のわかない状況ばかりだった。
現代っ子で、小説も読む。ゲームもする。乙女ゲームも楽しんだ。文句はない。
現代版の洋服だって、文句はない。海外生活が長かったから、ドレスを着るようなパーティーにも参加したことはある。
それでも、ひらひらや、ふりふりの宮殿スタイルドレスなど、考えたこともなかった。
現世――前世の自分は、すっきりとしたシンプルなデザインが好きだった。それで、しっとりとした女らしさを見せるところがポイントだったり。
食事も現代の食事に全く問題はない。スイーツも大好きである。
自動車、列車、飛行機、移動手段、交通手段だって現代っ子である。乗馬はしたことがあっても、それはただの趣味程度。
携帯電話無しでは生きられない世界なのに、電話一つもない異世界で、一体、どうやってコミュニケーションを保てるというのだろうか。
セシルは、ずっと昔、ここは、パラパラとめくって、早読みしたことのある小説の世界なんじゃないのか……!? ――と、キチガイじみた考えが頭に過って、一気に目を覚ました、あの運命の一瞬を今でもはっきりと覚えている。
大ショックではあった。
でも、顔をつねっても、腕を叩いても、その痛みは変わらない。だから、ペーパーナイフで指を切ってみた。血は止まらなかった。
指を流れ落ちていく血を見ながら、
(赤い色だ…………)
なぜか、そこで、ものすごい安堵してしまっていたことを覚えている。
異世界に飛ばされて――転生? させられて――も、異星人、ではなかったのだ。
これが、緑色の血でも出ていたのなら、「きゃあぁ」 などと叫び声をあげて、あの場で失神していたかもしれない。
(小説の中に――異世界転生しても――人間なのねぇ……)
それで、あまりにショックを受けていたにも関わらず、冷静に、その状況を分析していた自分がいたのを覚えている。
ある意味、ショックで感覚が麻痺していただけに、冷静な状況分析は、悲鳴を上げて泣き叫ぶより、遥かに効率的、生産的な行動だったといえよう。
異世界転生者。
まさか自分自身がそんな――悲惨な――状況に引きずり込まれるなど、一体、誰が考えようか。
それに、セシルは――現世での自分が死んだ記憶を全く覚えていない。いつ、どこで亡くなったのかさえも知らないほどだ。
典型的な異世界物語では、トラックや車に轢かれて――というパターンが多い。お風呂場で溺死もあった。
だが、そのどちらの死亡パターンでもない。
それを考えていって、
• 攻略者対象4人:✖
• 王子、または皇子の出現:✖
• ほわほわの“可愛らしい”“清楚”なヒロイン:〇 (まあ、そういうことにしておいてやろう)
• 悪役令嬢:✖
• 公爵家令嬢:✖
• 学園、学校に通う:〇
• 魔法、魔術、魔物:✖ (ファンタジーの王道ではないらしい)
• 王子の婚約者:✖
• お家断絶:?
• 断罪で処刑:? (だが、ノーウッド王国にはギロチンの死刑はない)
• 攻略対象の心変わり、浮気:〇
• 攻略対象への執拗な愛情:✖ (全くなし)
• 転生者の前の記憶:〇
• 前世の記憶:〇
• 死亡した際の記憶:✖
• 家庭内の不仲:✖ (家庭内はいたって家族円満である)
• 高慢で、我儘きわまりない身勝手な令嬢:✖
• モブ?:✖
• ヒロインのファンクラブ、または追っかけ:✖
• 喪女:✖
• ヒーローの暗い過去:✖
色々リストを組み立ててみたが、その結果を見ても、〇があるアイテムは、特別、セシルに害がでるような問題があるものでもない。
それよりも、はっきり言って“王道”を行く異世界転生者の典型的なストーリー構成が、自分にはほとんど当てはまっていなかったのだ。
ヒロインでもない。悪役令嬢でもない。付き人でもない。モブでもない。追っかけでもない。
では、一体、セシルは、物語での役割は、一体、なんなんだろうか?
大きな疑問にぶつかったものだった。
だが、その程度の問題だったのなら、いちいち、ストーリー通りだとか、強制力が入るだとか、そんなことを気にして、ビクビク暮らしていく生活は、セシルの性に合っていなかった。
ここで、一番の問題で、必ずといっていい物語の共通点は――転生者は、現世には戻れない。
その事実だけは、すぐに理解していた。
それなら、全く見知りもしない異世界だろうと、生きている以上、その空間が、セシルの“現実”となってしまったのだ。
「マスター、どうなさいました?」
「ううん、なんでもないわ。さあ、帰りましょう」
「はい」
セシルは王宮の長い廊下を進み外に出ていくと、もう、二度と来ることはない王城を少しだけ振り返っていた。
その豪奢で壮大なお城を見ても、全く何の感情も上がってこない。未練もない。
ふっと、セシルは小さく笑って、フィロと共に王城を後にしていた。
現代っ子で、小説も読む。ゲームもする。乙女ゲームも楽しんだ。文句はない。
現代版の洋服だって、文句はない。海外生活が長かったから、ドレスを着るようなパーティーにも参加したことはある。
それでも、ひらひらや、ふりふりの宮殿スタイルドレスなど、考えたこともなかった。
現世――前世の自分は、すっきりとしたシンプルなデザインが好きだった。それで、しっとりとした女らしさを見せるところがポイントだったり。
食事も現代の食事に全く問題はない。スイーツも大好きである。
自動車、列車、飛行機、移動手段、交通手段だって現代っ子である。乗馬はしたことがあっても、それはただの趣味程度。
携帯電話無しでは生きられない世界なのに、電話一つもない異世界で、一体、どうやってコミュニケーションを保てるというのだろうか。
セシルは、ずっと昔、ここは、パラパラとめくって、早読みしたことのある小説の世界なんじゃないのか……!? ――と、キチガイじみた考えが頭に過って、一気に目を覚ました、あの運命の一瞬を今でもはっきりと覚えている。
大ショックではあった。
でも、顔をつねっても、腕を叩いても、その痛みは変わらない。だから、ペーパーナイフで指を切ってみた。血は止まらなかった。
指を流れ落ちていく血を見ながら、
(赤い色だ…………)
なぜか、そこで、ものすごい安堵してしまっていたことを覚えている。
異世界に飛ばされて――転生? させられて――も、異星人、ではなかったのだ。
これが、緑色の血でも出ていたのなら、「きゃあぁ」 などと叫び声をあげて、あの場で失神していたかもしれない。
(小説の中に――異世界転生しても――人間なのねぇ……)
それで、あまりにショックを受けていたにも関わらず、冷静に、その状況を分析していた自分がいたのを覚えている。
ある意味、ショックで感覚が麻痺していただけに、冷静な状況分析は、悲鳴を上げて泣き叫ぶより、遥かに効率的、生産的な行動だったといえよう。
異世界転生者。
まさか自分自身がそんな――悲惨な――状況に引きずり込まれるなど、一体、誰が考えようか。
それに、セシルは――現世での自分が死んだ記憶を全く覚えていない。いつ、どこで亡くなったのかさえも知らないほどだ。
典型的な異世界物語では、トラックや車に轢かれて――というパターンが多い。お風呂場で溺死もあった。
だが、そのどちらの死亡パターンでもない。
それを考えていって、
• 攻略者対象4人:✖
• 王子、または皇子の出現:✖
• ほわほわの“可愛らしい”“清楚”なヒロイン:〇 (まあ、そういうことにしておいてやろう)
• 悪役令嬢:✖
• 公爵家令嬢:✖
• 学園、学校に通う:〇
• 魔法、魔術、魔物:✖ (ファンタジーの王道ではないらしい)
• 王子の婚約者:✖
• お家断絶:?
• 断罪で処刑:? (だが、ノーウッド王国にはギロチンの死刑はない)
• 攻略対象の心変わり、浮気:〇
• 攻略対象への執拗な愛情:✖ (全くなし)
• 転生者の前の記憶:〇
• 前世の記憶:〇
• 死亡した際の記憶:✖
• 家庭内の不仲:✖ (家庭内はいたって家族円満である)
• 高慢で、我儘きわまりない身勝手な令嬢:✖
• モブ?:✖
• ヒロインのファンクラブ、または追っかけ:✖
• 喪女:✖
• ヒーローの暗い過去:✖
色々リストを組み立ててみたが、その結果を見ても、〇があるアイテムは、特別、セシルに害がでるような問題があるものでもない。
それよりも、はっきり言って“王道”を行く異世界転生者の典型的なストーリー構成が、自分にはほとんど当てはまっていなかったのだ。
ヒロインでもない。悪役令嬢でもない。付き人でもない。モブでもない。追っかけでもない。
では、一体、セシルは、物語での役割は、一体、なんなんだろうか?
大きな疑問にぶつかったものだった。
だが、その程度の問題だったのなら、いちいち、ストーリー通りだとか、強制力が入るだとか、そんなことを気にして、ビクビク暮らしていく生活は、セシルの性に合っていなかった。
ここで、一番の問題で、必ずといっていい物語の共通点は――転生者は、現世には戻れない。
その事実だけは、すぐに理解していた。
それなら、全く見知りもしない異世界だろうと、生きている以上、その空間が、セシルの“現実”となってしまったのだ。
「マスター、どうなさいました?」
「ううん、なんでもないわ。さあ、帰りましょう」
「はい」
セシルは王宮の長い廊下を進み外に出ていくと、もう、二度と来ることはない王城を少しだけ振り返っていた。
その豪奢で壮大なお城を見ても、全く何の感情も上がってこない。未練もない。
ふっと、セシルは小さく笑って、フィロと共に王城を後にしていた。
1
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約破棄されたので貴族街で薬屋を始めました
マルローネ
恋愛
「お前の技術は盗めた。もう用なしだ、婚約破棄してもらおう」
子爵令嬢のアリッサは婚約者で侯爵令息のトトメスにこんなことを言われた。
自らの持つ調合技術を盗まれ、婚約破棄を言い渡されたのだ。
悲しみに暮れながら彼女だが、家族の支えもあり貴族街で小さな薬屋を始めることにした。
その薬屋は驚くほどの盛況となっていく傍ら、トトメスの方は盗めたと思っていた技術は陰りが見え始め……。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
君は、妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる