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Mr.Smile編
第三話
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数日後。
この日の仏国の繁華街は容赦ない無数の雨粒を地面に強く叩き落とされた。
湿気と蒸し暑さで水分を持っていかれた客人は今日もまた、仕事を終え疲れたその足で喉の水分を補給しに居酒屋へ立ち寄る。
「んぐ…んぐ…ぷはぁ!やっぱ仕事後のこの一杯の為に今日も頑張ったもんよな!」
「って、ヴァンさん最近来る頻度多くないですか?」
カウンター越しでグラスを磨きながら問いかける。
「えぇ、そのあんま来て欲しくない言い方はなに!?」
「いや、仕事後に思いっきり浴びるぐらい飲みたいならBarじゃなくて居酒屋の方がコスパが良いんじゃないかなと…」
するとヴァンは静かに握っていたグラスをテーブルへ置いた。
「俺ね…シュービアには行きつけはBarしか言ってないんだよ」
磨いていたグラスを置き、カウンター越しでヴァンが咥えた煙草にマッチを取り出し火を付けた。
「まぁはた迷惑な事を…他の居酒屋を行きつけとすれば良いのに…」
ヴァンの煙草に付けた火を消さず、そのままマスターも煙草を咥え火を付けて上へふぅと煙を吐いた。
「あのねぇ…」
ヴァンは何か言いかけたが、何言っても無駄だと思いその言葉を飲み込んだ。
「と、それよりマスター?情報網のマスターならご存知かもしれないが耳寄り情報だ」
カウンターに寄りかかり、周りに聞こえない様にマスターの顔に近づき囁く。
「新聞しか見ていない人間を情報網呼ばわりするのは大袈裟だと思うが…で、何だい?」
煙草を咥えたまま先ほど磨いていたグラスを持ち、ヴァンが少し顔を近づけたせいか、半歩後ろへ下がる。
「Mr.Smileを知っているか?」
ヴァンのその一言を聞いた瞬間、手に持っていたグラスを再び置き、咥えていた煙草を口から離し、煙草を持ったまま腕を組んだ。
「…名前だけはな」
「そのMr.Smileが昨晩出たんだ。しかも、隣町の大きい屋敷で一家総出でやられたらしい。」
「……」
マスターは話を聞くためか、黙り続ける。
「噂によると、そこの屋敷の家主は仏国議員の1人だそうだ。その議員も亡くなってたって今日の一面に出てたもんな。」
「あそこの屋敷の議員含む人間は、姓を偽っている。本当の姓は「ブラム」。」
マスターがボソッと呟く。
「…マスター?何でそれを…?」
「…知らなくていい、ただの余談だ」
マスターが再び持っていた煙草を咥える。
「そっか、さすがは情報網のマスターだな」
ヴァンはテーブルに置いていたグラスの酒を少し口に含んだ。マスターはヴァンのグラスの酒の量を確認した。
「ちょっと奥へ行きますね、すぐ戻ってきます」
マスターが奥へ入った時、ちょうど奥で立ち聞きしていたガバラスがいた。
「…あそこまで話してもいいんですか?」
ガバラスがマスターの顔を覗いて様子を見ながら言った。
「心配か?…まぁその時はその時ですよ」
そう言い、マスターは奥へ何か取りに行った。ガバラスは肩を竦め、ヴァンの前へ立った。
「?…あれ、君誰?」
ヴァンが目を細めガバラスをじっと見つめた。
「…ガバラス」
そう言うとヴァンは「はて、この子は前からいたのか?」という思いで首を傾げた。
ガバラスからしてみれば何回もある事なので気にはならなかった。と、ガバラスが何か思い出したかの様に棚を開け、ブレスレットを取り出し、ヴァンに差し出した。
「あっ、それ俺のブレスレット!そうか、ここで無くしてたんだな」
ヴァンは差し出されたブレスレットを受け取ろうとしたが、手を引っ込めた。
「いや、そのブレスレットは君にあげよう!君の名前も存在も忘れていたおじさんが悪い!それ君にあげちゃう!」
ヴァンがそう言い終わる矢先にマスターが奥から瓶を抱え帰って来る。
「え!?そ…そのブレスレット…高いんじゃないの…?」
マスターが青ざめた顔で言うと、ヴァンは大きな声で笑い、
「この子へのお詫び祝いさ!」
と言い、酒を口に含んだ。
「めでたいのやらそうでないのやら…」
マスターがそう言いながら、ヴァンのグラスが空いた事を確認し、続けて口を開いた。
「グラス空きましたね、実は新しいお酒を手に入れたんですが…試飲してみません?」
マスターが勧めながら瓶を開け、ヴァンのグラスに注いだ。
「え、良いの!?…でも、ケチなマスターの事だから試飲料取るんでしょ?」
「ケチは余計ですね、では試飲料の代わりに今までのツケを…」
「わ…分かった!ケチじゃない!マスターはケチじゃない!」
ヴァンが必死に抵抗をし、グラスを口に運ぶ。
「ん…?」
ヴァンの反応にマスターは目を光らせていた。
「何か…渋いな…というよりも、ほろ苦い…?」
マスターはその反応を見て目を顰めた。
「マスター?これちょっと客に出すにはちょっと…ねぇ?」
ヴァンがそう言った時、マスターははっとした。
「そ…そうか…参考になったよ…ちなみにシュービアさんにも飲んで欲しいんだけど…もうそろそろいつもの迎えが来るかな?」
マスターが詮索した時、ヴァンが握っていたグラスを置き、ボソッと口を開いた。
「シュービアは…今日来ないよ」
この日の仏国の繁華街は容赦ない無数の雨粒を地面に強く叩き落とされた。
湿気と蒸し暑さで水分を持っていかれた客人は今日もまた、仕事を終え疲れたその足で喉の水分を補給しに居酒屋へ立ち寄る。
「んぐ…んぐ…ぷはぁ!やっぱ仕事後のこの一杯の為に今日も頑張ったもんよな!」
「って、ヴァンさん最近来る頻度多くないですか?」
カウンター越しでグラスを磨きながら問いかける。
「えぇ、そのあんま来て欲しくない言い方はなに!?」
「いや、仕事後に思いっきり浴びるぐらい飲みたいならBarじゃなくて居酒屋の方がコスパが良いんじゃないかなと…」
するとヴァンは静かに握っていたグラスをテーブルへ置いた。
「俺ね…シュービアには行きつけはBarしか言ってないんだよ」
磨いていたグラスを置き、カウンター越しでヴァンが咥えた煙草にマッチを取り出し火を付けた。
「まぁはた迷惑な事を…他の居酒屋を行きつけとすれば良いのに…」
ヴァンの煙草に付けた火を消さず、そのままマスターも煙草を咥え火を付けて上へふぅと煙を吐いた。
「あのねぇ…」
ヴァンは何か言いかけたが、何言っても無駄だと思いその言葉を飲み込んだ。
「と、それよりマスター?情報網のマスターならご存知かもしれないが耳寄り情報だ」
カウンターに寄りかかり、周りに聞こえない様にマスターの顔に近づき囁く。
「新聞しか見ていない人間を情報網呼ばわりするのは大袈裟だと思うが…で、何だい?」
煙草を咥えたまま先ほど磨いていたグラスを持ち、ヴァンが少し顔を近づけたせいか、半歩後ろへ下がる。
「Mr.Smileを知っているか?」
ヴァンのその一言を聞いた瞬間、手に持っていたグラスを再び置き、咥えていた煙草を口から離し、煙草を持ったまま腕を組んだ。
「…名前だけはな」
「そのMr.Smileが昨晩出たんだ。しかも、隣町の大きい屋敷で一家総出でやられたらしい。」
「……」
マスターは話を聞くためか、黙り続ける。
「噂によると、そこの屋敷の家主は仏国議員の1人だそうだ。その議員も亡くなってたって今日の一面に出てたもんな。」
「あそこの屋敷の議員含む人間は、姓を偽っている。本当の姓は「ブラム」。」
マスターがボソッと呟く。
「…マスター?何でそれを…?」
「…知らなくていい、ただの余談だ」
マスターが再び持っていた煙草を咥える。
「そっか、さすがは情報網のマスターだな」
ヴァンはテーブルに置いていたグラスの酒を少し口に含んだ。マスターはヴァンのグラスの酒の量を確認した。
「ちょっと奥へ行きますね、すぐ戻ってきます」
マスターが奥へ入った時、ちょうど奥で立ち聞きしていたガバラスがいた。
「…あそこまで話してもいいんですか?」
ガバラスがマスターの顔を覗いて様子を見ながら言った。
「心配か?…まぁその時はその時ですよ」
そう言い、マスターは奥へ何か取りに行った。ガバラスは肩を竦め、ヴァンの前へ立った。
「?…あれ、君誰?」
ヴァンが目を細めガバラスをじっと見つめた。
「…ガバラス」
そう言うとヴァンは「はて、この子は前からいたのか?」という思いで首を傾げた。
ガバラスからしてみれば何回もある事なので気にはならなかった。と、ガバラスが何か思い出したかの様に棚を開け、ブレスレットを取り出し、ヴァンに差し出した。
「あっ、それ俺のブレスレット!そうか、ここで無くしてたんだな」
ヴァンは差し出されたブレスレットを受け取ろうとしたが、手を引っ込めた。
「いや、そのブレスレットは君にあげよう!君の名前も存在も忘れていたおじさんが悪い!それ君にあげちゃう!」
ヴァンがそう言い終わる矢先にマスターが奥から瓶を抱え帰って来る。
「え!?そ…そのブレスレット…高いんじゃないの…?」
マスターが青ざめた顔で言うと、ヴァンは大きな声で笑い、
「この子へのお詫び祝いさ!」
と言い、酒を口に含んだ。
「めでたいのやらそうでないのやら…」
マスターがそう言いながら、ヴァンのグラスが空いた事を確認し、続けて口を開いた。
「グラス空きましたね、実は新しいお酒を手に入れたんですが…試飲してみません?」
マスターが勧めながら瓶を開け、ヴァンのグラスに注いだ。
「え、良いの!?…でも、ケチなマスターの事だから試飲料取るんでしょ?」
「ケチは余計ですね、では試飲料の代わりに今までのツケを…」
「わ…分かった!ケチじゃない!マスターはケチじゃない!」
ヴァンが必死に抵抗をし、グラスを口に運ぶ。
「ん…?」
ヴァンの反応にマスターは目を光らせていた。
「何か…渋いな…というよりも、ほろ苦い…?」
マスターはその反応を見て目を顰めた。
「マスター?これちょっと客に出すにはちょっと…ねぇ?」
ヴァンがそう言った時、マスターははっとした。
「そ…そうか…参考になったよ…ちなみにシュービアさんにも飲んで欲しいんだけど…もうそろそろいつもの迎えが来るかな?」
マスターが詮索した時、ヴァンが握っていたグラスを置き、ボソッと口を開いた。
「シュービアは…今日来ないよ」
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