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『簡単な仕事』
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仕事が終わった。いち早くあの坂を上がりたい衝動にかられた。
人を撃つことに躊躇いを感じなくなったのはいつからだろうか? 14年間生きてきてそれはほんのささいな疑問だった。生きるために殺した。恨みはない。仕事なんだ。恨むならそんなところにいた運命を呪え。
「今日の報酬だ」
そう言って、渡されたのは金貨1枚。
「これだけか?」
その言葉に、男がキレる。
「なんだ? 文句あるのか? いつからそんな偉くなったんだ? 仕事もらえるだけありがたいと思いやがれ」
俺は黙って報酬を受け取ると、そそくさと外へと出た。
いつまでも頭のない奴と思っていやがる。人1人を殺るのにどれだけ大金がでるかなんて、路上に寝転がっている小汚いガキだって知っている。その辺を歩いてる金持ちを襲うだけで、少なく見積もっても金貨3枚は手に入る。ただ非常にリスキーなのは、返り討ちと警察にしょっ引かれるくらいだ。その点、こっちは言われた時間と場所にいって引き金を弾くだけ。
今日も坂を上がり、寝床に帰る。周りに廃棄物が覆い、土壁がぼろぼろと崩れている軒並みの奥に、とたん屋根と厚手の布で覆われた小汚い小屋が見えた。中から少女が顔を出す
「おかえりなさい」
無邪気な笑顔で俺を迎えてくれた。
「スープあたためた」
「一人で、火は危ないよ」
「平気! いつも見てたから覚えたの」
俺はそれ以上、何も言わなかった。常に内紛が絶えないこの地域で、一人で生きて行くには、なんでも一人でできないといけない。だからこの女の子を拾ったのはほんの気まぐれ。犬や猫を飼うのと同じだ。
「慌てて食べるな。こぼしてはもったいないよ」
「お仕事、大変?」
「そうでもない。簡単さ」
「なんのお仕事をしてるの?」
俺はなぜか言葉につまった。どうしてなのだろう? 喉を流れ落ちるスープが、やったら引っかかるような気がする。
「知らなくていい」
少女はふーん、と言って残っているスープをたいらげた。
この少女を見ていると、思いだす。初めてこの仕事をした日のことを……。
あの坂から男が1人歩いてきて座っている俺に声をかけた。――この鞄を誰にも気づかれずに置いてくるだけの仕事だ。簡単だろ? 成功したら金貨1枚だ! 腹一杯食えるぞ。
俺は男に言われるまま坂を下りた。そして今でも人を殺すことを続けている。
「ねー!」
俺は我にかえり、少女をみた。
「明日何の日か知ってる」
「何の日だい?」
「明日は休日って日で、お仕事やすむ日なの」
俺はこの子が何か言いたいのかわからなかった。
「だから明日は一緒に遊ぼう!」
俺はおかしくて笑った。ああ、なんだろう生まれてきてよかったと初めて思う。
俺は、イエスとだけ言い。家を出て坂を下る。するとあの男が立っていた。
「よ! 今そっちに行くところだったんだ」
ニヤニヤと汚い笑いを浮かべながら男は、〝仕事だ〟とだけ言った。
簡単な仕事だ。屋敷から出てくる連中を片っ端から撃ち殺せばいい。それだけ。こんなにも仕事が嫌だと思った日はない。いつもなら何も考えず、感じず待っているだけなのに。今日の俺は変な焦燥感でいっぱいだった。早く帰り、あの子と遊ぶ。俺は拳銃のグリップを強く握る。
扉が開かれた。俺は草むらからかけ出し、開いたドア目掛けて撃つ。1人、2人……続け様に3人。中に押し入る。そこまでしなくてもよかったが、早く終わらせたかった。銃を構えると太っている男がいた。ここの家主だ。引き金を弾こうとした瞬間。俺の指は止まった。その太っている男に抱かれている少女と目が合ったのだ。あの子と同い年くらいの……銃声が鳴った。お腹に熱さと痛みがこみあげてきた。
俺は無我夢中で走ったが、激痛のあまり倒れた。這いつくばりながら転げ落ちるように、その場を逃げようとするが、銃を持った男たちに囲まれてしまった。
俺は初めて泣き叫んだ。死にたくないと腹の底から叫んだ。生への執着を示した。何発もの銃声が鳴り響き、目の前が真っ暗になった。
*
男は坂を上がり、ある少女に話かける。
「簡単な仕事だろ?」
そう言ってニヤニヤと笑い、男は少女の手を取り、坂を下っていった。
人を撃つことに躊躇いを感じなくなったのはいつからだろうか? 14年間生きてきてそれはほんのささいな疑問だった。生きるために殺した。恨みはない。仕事なんだ。恨むならそんなところにいた運命を呪え。
「今日の報酬だ」
そう言って、渡されたのは金貨1枚。
「これだけか?」
その言葉に、男がキレる。
「なんだ? 文句あるのか? いつからそんな偉くなったんだ? 仕事もらえるだけありがたいと思いやがれ」
俺は黙って報酬を受け取ると、そそくさと外へと出た。
いつまでも頭のない奴と思っていやがる。人1人を殺るのにどれだけ大金がでるかなんて、路上に寝転がっている小汚いガキだって知っている。その辺を歩いてる金持ちを襲うだけで、少なく見積もっても金貨3枚は手に入る。ただ非常にリスキーなのは、返り討ちと警察にしょっ引かれるくらいだ。その点、こっちは言われた時間と場所にいって引き金を弾くだけ。
今日も坂を上がり、寝床に帰る。周りに廃棄物が覆い、土壁がぼろぼろと崩れている軒並みの奥に、とたん屋根と厚手の布で覆われた小汚い小屋が見えた。中から少女が顔を出す
「おかえりなさい」
無邪気な笑顔で俺を迎えてくれた。
「スープあたためた」
「一人で、火は危ないよ」
「平気! いつも見てたから覚えたの」
俺はそれ以上、何も言わなかった。常に内紛が絶えないこの地域で、一人で生きて行くには、なんでも一人でできないといけない。だからこの女の子を拾ったのはほんの気まぐれ。犬や猫を飼うのと同じだ。
「慌てて食べるな。こぼしてはもったいないよ」
「お仕事、大変?」
「そうでもない。簡単さ」
「なんのお仕事をしてるの?」
俺はなぜか言葉につまった。どうしてなのだろう? 喉を流れ落ちるスープが、やったら引っかかるような気がする。
「知らなくていい」
少女はふーん、と言って残っているスープをたいらげた。
この少女を見ていると、思いだす。初めてこの仕事をした日のことを……。
あの坂から男が1人歩いてきて座っている俺に声をかけた。――この鞄を誰にも気づかれずに置いてくるだけの仕事だ。簡単だろ? 成功したら金貨1枚だ! 腹一杯食えるぞ。
俺は男に言われるまま坂を下りた。そして今でも人を殺すことを続けている。
「ねー!」
俺は我にかえり、少女をみた。
「明日何の日か知ってる」
「何の日だい?」
「明日は休日って日で、お仕事やすむ日なの」
俺はこの子が何か言いたいのかわからなかった。
「だから明日は一緒に遊ぼう!」
俺はおかしくて笑った。ああ、なんだろう生まれてきてよかったと初めて思う。
俺は、イエスとだけ言い。家を出て坂を下る。するとあの男が立っていた。
「よ! 今そっちに行くところだったんだ」
ニヤニヤと汚い笑いを浮かべながら男は、〝仕事だ〟とだけ言った。
簡単な仕事だ。屋敷から出てくる連中を片っ端から撃ち殺せばいい。それだけ。こんなにも仕事が嫌だと思った日はない。いつもなら何も考えず、感じず待っているだけなのに。今日の俺は変な焦燥感でいっぱいだった。早く帰り、あの子と遊ぶ。俺は拳銃のグリップを強く握る。
扉が開かれた。俺は草むらからかけ出し、開いたドア目掛けて撃つ。1人、2人……続け様に3人。中に押し入る。そこまでしなくてもよかったが、早く終わらせたかった。銃を構えると太っている男がいた。ここの家主だ。引き金を弾こうとした瞬間。俺の指は止まった。その太っている男に抱かれている少女と目が合ったのだ。あの子と同い年くらいの……銃声が鳴った。お腹に熱さと痛みがこみあげてきた。
俺は無我夢中で走ったが、激痛のあまり倒れた。這いつくばりながら転げ落ちるように、その場を逃げようとするが、銃を持った男たちに囲まれてしまった。
俺は初めて泣き叫んだ。死にたくないと腹の底から叫んだ。生への執着を示した。何発もの銃声が鳴り響き、目の前が真っ暗になった。
*
男は坂を上がり、ある少女に話かける。
「簡単な仕事だろ?」
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