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「兄ちゃん……」

 間近で視線を交わす。奏は泣きそうな顔をしていた。

「あいつにちゅー、された?」
「ううん。されてない」

 すぐ傍まで迫り来ていた男の顔を思い出して、ぶわっと鳥肌が立つ。
 あのとき奏が来てくれなかったら、俺はあいつと唇を重ねていたんだろう。

「恐ろしいことを言うな」
「だって、俺が入ったときゆうくんは」

 ベッドの上で向き合って座る俺と奏。
 小屋を出た後に奏にかけてもらったコートを脱がされると、ズボンはともかくシャツがひどい状態になっていた。
 白い布地が割けて肌が露出している。デイビッドにダイナミック脱衣させられた名残だ。
 それを見て語気を荒らげる奏に、俺は深く息を吐き出した。

「寸止めだよ。あと二秒遅かったら上も下も行かれてたかも」
「兄ちゃん……そういう軽口、心臓に悪い」

 奏は安堵とも疲弊ともとれる溜め息をつきながら、また唇を合わせてきた。

 ――ああ、やっぱり……全然、嫌じゃない。

 かえってほっとするっていうか。
 生理的に無理な相手ではキス一つすら気持ち悪くて仕方ないんだと、知ってしまった。

 ――つまり俺は、奏を……。

 唇が離れると、両肩を強く掴まれて頬のあたりに顔を埋められた。

「はー……よかった。とりあえずそこは守れたんだ」
「うん。さんきゅな」

 奏は苦い笑みを見せながら俺を抱き締めようとして、真顔になった。

「なにこれ」

 奏の手が俺の髪を払う。
 首筋を指でたどられて、はっと思い至ることがあった。そこは、デイビッドにしゃぶられまくった部分だ。

「兄ちゃん、今朝までこんな跡無かった」
「あ……唇にはされてないけど、首とかうなじはやたら舐め回されたかも――ってうわ痛たたたた!!」

 白状しながら押し倒される。教えた箇所を噛まれて、皮膚が伸びるほど引っ張られた。

「い、痛いぃ……」
「ちょっと我慢して。これが俺の跡に変わるまで」

 起き上がろうとして暴れたが、簡単に抑え込まれる。

「痛っ、ぁう」

 そうして強引に噛まれていると、捕食されるんじゃないかと動物的な危機感を覚えた。奏はそんなことしないって分かってるけど……。

「ここも」

 不愉快そうに呟いた奏が、首の横に吸い付いて歯を立てる。

「ぁ……っ」

 薄い皮膚にピリ、と痛みが走った。
 デイビッドに施された怪しげな魔法のせいで、変に甘い痺れが生まれる。

「こんなので感じちゃうくらい、強い催淫かけられたんだね」

 奏が苛立ちを含んだ声で言い、残された跡を一つ一つ吸い直していく。

「お前さぁ……っ、そこ、あいつが舐め回したとこだぞ」

 軽く息を弾ませながら奏の頬を撫でると、びたりと動きが停まる。
 が、またすぐにキスが再開した。

「だから俺が上書きしてるんでしょ」
「デイビッドと間接ディープキスみたいになるぞ?」
「いいもん」

 拗ねた口調で言って、体を横向けられる。シャツの残骸を脱がされながら、あいつに舐められた覚えのない背中まで舌を這わされた。

「ぅあ……っ」
「兄ちゃんが他の男に汚されたままになるより、俺の舌が汚れたほうがまだマシ」
「んなとこ、触られてねぇっ」

 肩まで舌が這い上がり、丸みを帯びた骨を食むように歯を立てられる。
 きつく吸われてできた赤い鬱血痕を、労わるみたいに舌の表面で撫でられる。
 エロいっていうより、大型犬に舐め回されてる気分になってきた……。

「他は?」
「ほ、ほっぺも食べられた、痛いっ!」

 言うんじゃなかったと頬をかじられてから気付く。俺は何回やらかしても学ばない。

「痛いたいたい、噛むな!」
甘噛あまふぁみ、あまふぁみ」

 なにが甘噛みだ激烈に痛ぇわと奏の顔を押しのけると、胸の尖りを口に含まれた。

「ひっ! そ、そこも噛まれてないから!」

 左胸の小粒を薄桃色の唇に含まれて、ちゅっ、ちゅっ、と耐え難いほど可愛い音を立てながら吸われる。

「ぁっ、んぅ……っ」

 変態伯爵に塗られた液体が今になって活性化し、触れられてもいない孔がじんじん発熱する。その熱が奏に吸われている乳首にまで伝染して、甘く吸い上げられるたびにびりびりと微電流が走った。
 そのあいだに右胸にも手が伸ばされて、濡れた指がピンクに色付いた乳暈を撫でる。

「あぅ、お前、それ……っ!」
「うん。モーリスの奴が使ってた催淫魔法って、これでしょ?」

 なんでお前がその魔法を、と訊く前に乳首をぐちゅりと摘まれて、声がひっくり返った。


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