オネエとヤクザ

ちんすこう

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第四章:The Catcher in the "Lie"

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 スカジャンのポケットに手を入れた狗山は、スマートフォンを取り出した。

 「いま話したようなことを、馴染みの記者にリークしました」

 ミフユたちに向かって提示された画面には、あるネット記事が表示されていた。
 見出しには、『歌舞伎町・カリスマホストの真の顔』とある。
 その下には完璧な笑みを作っている遥斗の写真が載っていた。

 「おい、結構な騒ぎになってんじゃねぇか?」

 伊吹の問いに狗山が頷いた。
 記事に対しては、四桁以上のコメントが寄せられている。

 「元々テレビなんかに出ていて知名度が高いのが災いしましたね。遥斗の客層にネットを見ない人間はいないでしょう。
 これで、世間が歌舞伎町ナンバーワンホストの正体を知ることになる」

 狗山はスマホを仕舞って、皮肉げな笑みを浮かべた。

 「過去に水無月からひどい目に遭わされたって被害者が大勢騒ぎ始めてます。
 今まで“姿名前が違って気付かなかった”って理由でずっとだんまりだった奴らが、一斉に声を上げてるんです。
 俺とは別口で、すでに【禁じられた果実】の件もニュースで出回り始めてます。
 そっちも主犯は水無月だと報道されているんで、奴が自分の店でシャレにならねぇ薬を広めようとしてたことは、誰の目にも明らかになる。
 もうあの男も首が回らねぇでしょう」

 「……過去も現在いまも、水無月春悟って男の経歴はボロボロなのね。だからこそ遥斗ととして振る舞ってたんだろうけど」


 本人がどういうつもりであれ――あの男の本当の顔が水無月ヤクザなのか遥斗カタギなのか、それを判断するのは他の人間だ。
 その結果は言わずもがなで、ミフユたちは視線を合わせた。


 「奴の理想の『遥斗』は、野郎自身と一緒に散っていったってことか」


 伊吹が呟いた言葉に、皆が納得する。


 「人がそう簡単に自分以外の誰かになれるなら、みんな苦労しないわよ……」


 自分が起こした問題は、いつか必ず自分自身にそのツケが回ってくる。
 ミフユは――それを痛感している。


 「ま、それじゃあ――マフィア連中もとっ捕まってるわけだし、【禁じられた果実】の件は本当に一段落ついたってわけか」


 まとめた伊吹に頷いて、大鳥が腕を組む。

 「重岡たち幹部のやり方に疑問はあるが――ひとまず、鳳凰組のシマ内でのヤクの経路は断たれた。
 今回のところはここらでよしとする。
 無駄にドンパチやる必要もなかろう」

 鳳凰組の頭首の言に、逆らう者はなかった。

 これで――

 ミフユにとっては、自分の同僚を苦しめた元凶への復讐。
 伊吹たち鳳凰組にとっては、自分たちのシマを荒らす者の排除と報復。

――互いの目的は、水無月を倒したことで無事果たされた。

 モリリンの事故を発端として始まった、ミフユと伊吹の真相究明までの長い道のりは、ここで完結したのだ。

 一連の事件はすべて解決した。



 「それで、だ」

 話を切り替えた大鳥は、ミフユを真剣な目で見据えた。

 「この一件では、組は美冬に相当世話になった。
 ウチの奴らの証言じゃ、おまえの活躍ぶりは現役時代からなんら衰えちゃいねえようだ。
 八年前の件もさっき和解を済ませて、互いに思い残すところはない。とすると――

――そんな状況でおまえをみすみす帰すのは、おしい」

 だから、と続けて、こちらの真意を探るような瞳を向けてくる。

 「美冬。
 おまえ、ウチに戻っちゃこねえか」


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