オネエとヤクザ

ちんすこう

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第四章:The Catcher in the "Lie"

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 「うちのお店にも犠牲者の子がいるんです」

 「そうか」

 「あんな薬……今のうちに経路を断ててよかったわ」

 鳳凰組が手にしたUSBメモリを元に、水無月一派が保管していた【禁じられた果実】は即日警察に押収された。

 関係者もいもづる式にしょっぴかれており、歌舞伎町に蔓延しかけていた闇は徐々に落ち着きを見せ始めているのだった。

 大鳥は難しい顔で顎を擦る。

 「あの薬は東南アジアかどこかの国で製造されてる物らしくてな。複数の国が関わってるんで、結構ややこしい話になりそうだ。
 それで面倒になったか彩極の奴ら、案の定トカゲの尻尾切りに出やがったよ」

 「というと、水無月は破門にされたんですか?」

 ミフユが訊ねると、大鳥は首を振る。

 「絶縁だそうだ。勾留中にさっそくな」

 絶縁とは、文字通り『組はその者と金輪際縁を切る』ということだ。業界追放にも近しい措置で極道界においてはもっとも重い処分にあたる。

 「まぁ、警察に向けたアピールだな。
 『この件は組員個人が勝手に働いた狼藉で、彩極組としては全くあずかり知らないところだ――こんな不届き者とは縁を切るから、組のほうは勘弁してください』っつうことだな。
 俺のところにも重岡しげおかから連絡があった」

 大鳥は彩極組組長の名を挙げて、忌々しげに顔を顰めた。

 「『今回は組員が独断でとんでもないことをしでかして申し訳なかった』だとよ。なんのつもりか知らねえが金まで包んできやがって……」

 やはり、という感想ではあったが、ミフユも相手の行動の速さには舌を巻かされた。

 「自分の部下が何をやってるかなんて、承知してたでしょうに」

 「ああ、だろうよ。昔からあの男は気に喰わねえ……一組織のアタマのくせに小賢しい野郎だ」

 大鳥は頷き、それから思案げに眉根を寄せた。

 「しかしこれで、水無月の奴にはもう失うものがねえな。
 ウチのシマを乗っ取ろうなんざ大胆なこと考える野郎が、このまま引き下がるかね」

 「下がらねえと思いますが。ああいう変に頭のキレる輩は」

 伊吹が口を挟んだとおりのことをミフユも思っていた。

 『遥斗』という第二の顔がある以上は、水無月はどこででも生きていけるだろう。

 ミフユは後ろを振り返って、後方で控えていた狗山に声をかけた。

 「あの男がぬけぬけと新宿に戻ってくることだけは、アタシは許さないわ。
 そっちの進捗はどうかしら、狗ちゃん」

 「はい」

 応えた狗山に皆の視線が集まる。

 「姐さんに言われた通りに動いてますよ。
 ようは、表ヅラの良い遥斗の正体がヤクザの水無月春悟で、アイツが一般人を喰いものにするような男だと周知されればいいんすよね」

 水無月の最大の弱点が遥斗としての顔を失うことだと気付いたミフユは、今回の大捕り物を起こす前に狗山に依頼していた。


 『カリスマホストの遥斗』という虚像を、跡形もないほど粉々に壊すようにと。
――二度とその偶像を掲げて、人を誑かすことができないように。


 「地元を当たってみれば、水無月春悟の悪評は掘れば掘るほど出てきましたよ。
 学生時代から暴行・レイプ・中絶強要、喧嘩や恐喝までなんでもやって、不良集団のトップを張ってたみたいです」

 「よくもまあそれでホストなんかやってたわね」

 「ですね」と同意して、狗山が続ける。

 「女の転がし方がうまいのはこの頃からだったみてえで。
 強引に関係を持った女性のなかにはそのまま付き合い始めたのもいて、そういう人らに身体を売らせたりもしていたらしいです。
 そうして稼がせた金を自分の懐に入れる――つまりは売春あっせんですよね。
 美人局まがいのこともやってたようで、逮捕歴もありました」

 『女の敵』という言葉がこれほどふさわしい人間もそういない。

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