オネエとヤクザ

ちんすこう

文字の大きさ
上 下
134 / 191
第四章:The Catcher in the "Lie"

4−4

しおりを挟む
 「【禁じられた果実】を一般人に売って稼ぎたいんでしょう。夜の街ってのは薬物売買の温床にするにはちょうどいい……。
 それに【EDEN】は歌舞伎でもピカイチの繁盛店っすから、ここを起点に他の店を合併なり吸収なりして拡大していけば、俺らに気付かれず水面下で彩極のシマを拡げていける」

 「それにしても、わざわざ影武者を立てて身分を隠してまでかしらみずからが働くってのは……」

 奇妙な話ね、と言うミフユに狗山も同意する。

 「ホストなんて、顔売ってなんぼの商売ですからね。
 遥斗ホストとして有名になればなるほど水無月ヤクザの顔を出すわけにはいかなくなって、裏の世界では影武者なしじゃ身動きもとれない状態だったんです。
 うちの稼ぎを奪おうとしたにせよ、効率が悪すぎる。

 半分道楽でやってるのか、何か理由があるのか分かりませんが」

 不自然な点があり、突飛な話に聞こえるが、辻褄は合う。
 竹下の射殺についても、あのとき店にいた遥斗なら撃てたはずなのだ。【EDEN】のオーナーなら竹下を狙撃した後にうまく逃げることもできただろう。

 クスリと性を売ることによる、鳳凰組領域の乗っ取り作戦。

 それが水無月の目的だったのだ。


――ただ、そんなことよりも。


 (アキちゃん)

 その男をひたむきに想っていた彼女が脳裏に浮かんだ。

 事情を知らない狗山は淡々と語るが、二人の関係を間近で見ていたミフユはアキが気がかりでならなかった。

 そんなアキは今日、まだ出勤していない。
 具体的な証拠は何もないにもかかわらず、嫌な予感がした。

 「伊吹ちゃんは、その話をアタシに伝えるって言ってたのね」

 抑揚を抑えた声で問う。
 この話を聞いた伊吹は、どう思っただろう。

 (アキちゃんを心配したに決まってる。あいつは優しいから)

 だから、遥斗とアキの関係を知っている彼本人からこのことをミフユに伝えようとしたのだろう。

 「ええ。明朝に俺のもとに報告が上がったんで、その後に兄貴に電話で報告しまして、そのときに……」

 「それ、何時頃の話?」

 剣呑な口調で尋ねると、狗山はややのけぞって両手を挙げる。『降参』みたいなポーズだ。

 「えっと、ちょっと曖昧なんすけど、まだ朝でした。昼前くらい」

 「来てないのよ。アタシのところには」

 その時間ミフユは眠っていたが、玄関のベルを鳴らされれば目が覚めたはずだ。それに……。

 「もし何かの理由があって、途中で予定を変更したにしろ……携帯に留守電くらい残せるわよね」

 狗山もそれは考えていたようで、不安をちらつかせる。

 遥斗の正体と、欠勤したアキ。伊吹の失踪。

 三つの点が浮かび上がる。


 詳細は分からないにしろ、何かが起きている。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...