オネエとヤクザ

ちんすこう

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第三章:ボロアパートとワンピースと“アタシ”

3−26

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(いっそ、遥斗の正体が何だってかまわないんだわ)

 アキの心を最優先に考える。

 「だからね、アタシたちは黙ってあの二人を見守――あれっ?」

 ぐっと拳を握って熱く語っていたミフユだが。

 気付くと、周りはみんな各自の作業に戻っていた。

 「ちょ、ちょっと。今アタシがめちゃくちゃカッコイイ名言を吐きまくってたでしょうが。なんで何か『スンッ……』て感じなの? ねえ」

 突き刺さるミフユの視線もそしらぬふりで、全員淡々と仕事をこなしている。

 「ママ、古いわぁ」

 モモの言葉に他の二人も同意して、うんうんと頷いた。

 「そりゃ自己解決力は大事だけどさ、『子が道を誤ったら親がぶっ飛ばせばOK』って突飛だわよね」

 「それって、体罰ですよね」

 「いま令和よ?」

 「……な、なによアンタたち……」

 愕然とするミフユに、キャメロンが追い打ちをかける。

 「ママ、平成生まれのくせに頭が昭和」

 「昭和生まれのメロンちゃんに言われたくないんだけど……」

 仲間なはずの皆に冷たくあしらわれて凹みつつ。

 こちらのやりとりにも気付かず、楽しそうにしているアキたちの様子を片目に入れて、小さく笑った。

 (大丈夫。
 オネエさんたちが見守ってるから、アキちゃんは若さに任せて恋してたらいいわ)

 まだ幼い子供だったアキが、自分のアイデンティティに悩んで泣いていた昔の日を思い出す。

 「アタシの店の子には幸せになってもらいたいのよ。
 特に、アキちゃんにはね」

 「それは同意」「さんせーい」「末永く爆発してろって感じですね」

 うんうんと頷く仲間たちに微笑む。

 『必ず幸せになれる』なんて容易く言えはしないけれど。

 (ちょっとうまくいきそうだったら、応援したいのが親心ってものよね)

 店のキッチンをぴかぴかに磨き上げながら、ミフユは上機嫌に鼻歌を歌った。


・・・


 「アキちゃん、それ飲んだら今日は上がっていいわよ」

 「え?」

 ミフユたちのはからいで、遥斗と二人で飲んでいたアキにそう言うと、丸い目がさらに丸くなった。

 「いいんですか?」

 時刻は零時を過ぎ、店は盛り上がりのピークに達している。
 と言っても、今日明日と平日なのでさほど混み合ってはいない。

 「アキちゃんいつも頑張ってくれてるし。たまにはね」

 それに、と遥斗のほうを見遣る。

 「彼が、うちの一日分くらいの売上に貢献してくれたし」

 「ほんのお気持ちですよ」

 と謙遜する遥斗は、さきほど一本ウン十万もするボトルを涼しい顔で入れた。
 数時間飲んでもまるでシラフな見た目といい、さすが、夜の街を統べる男は違うというか。

 というわけで、アキを早々に上がらせてやり、二人を見送った後で。


 カラン、と鳴ったベルのもとに、伊吹が現れた。

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