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第二章:酒とクスリと男と男
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しおりを挟む雄々しい叫び声を上げて盛大につんのめった伊吹を、驚いたミフユが咄嗟に支える。あやうく顔からコンクリートにぶつかるところだ。
「危ないわね!」
「っな……な……」
支えた左胸がバクバクと波打っている。
さぁっと青褪めた伊吹をそっと立たせてやると、ミフユはふむ、と顎に指を当てた。
「やっぱり、ハジメテの子にはきつかったかしら?
ヒール」
「妙な言い方をすんな、……ったく」
くそ、と悪態をついた伊吹は、その場にかがみ、山吹色の『スカート』の下のナマ足を乱暴に擦った。
「今ので変な筋が攣った! だぁ! 踵は擦れるし爪先は痛ぇし!」
「それがオンナの努力ってやつよ」
「こんな努力ならいらねえ! ――じゃなくて」
シルバーのヒールを荒っぽく脱いで宙へ放っぽった伊吹は、長い黒髪を振り乱しながら怒鳴った。
「俺はオンナじゃねえ!!!」
そう。
一週間前、二人が早朝の喫茶店で取り決めた計画。
【禁じられた果実】の取引現場に、彼らが“違和感なく”潜入するために企てた作戦は。
「最悪だ! 誰だこんな無茶苦茶な計画立てたのはっ、――畜生が俺達じゃねぇか徹夜のテンションで決めるんじゃなかった!!」
“ホストクラブである【EDEN】のメインターゲット、女性を装って、客として入店する”というものだった。
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