オネエとヤクザ

ちんすこう

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第一章:裏社会の片隅で

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 二人の間にカウンターがあるのもお構いなしで引き寄せられ、腹が作業台にめり込む。うげぇ苦しい、と目を瞑ったミフユに、更なる弾劾がなされた。

 「てめぇこんな所で何してやがる!?」

 「ちが」

 「てめぇだろ!!」

――ガシャン!!

 カウンターを殴りつけた衝撃で、グラスが倒れる。大きな音に女性客が「ひっ」と息を呑んだのが聞こえたとき――プッツン、とミフユの中の何かが切れた。

 「……いい加減になさい」

 「あ?」

 カウンターを飛び越え、一息に男の上に乗り出たミフユは、掴まれた胸ぐらを握り返して――――

 「フンッ!」

 男を、背負い投げた。

 「おあ――――――!?」

 ズッダァアアンと今日一の騒音を立て、男は床に叩き付けられたのだった。

 「あーあ、もお……」

 自分は華麗に着地し、パッパッと手を払って、周りを見渡す。

 すっかり白けてしまった場の空気を憂い、「ごめんなさいね」と苦笑した。

 「この子はアタシが連れてくから。皆はここで飲んでて。
 今日は奢りよ、お騒がせしたお詫び」

 次にぽかんとしているキャストを見て、ひらりと片手をあげる。

 「じゃ、モモちゃん。アタシちょっと抜けるから。お店頼んだわね」

 「えっ? あ、ハイ!」

 突然声をかけられたモモは咄嗟に居住まいを正すが、ヤクザを引きずって店を出て行くママの背中に声をかけた。

 「いいですけど、帰って来たらぜったい詳しい話聞かせてくださいねー!」

 ミフユはそれに振り向かないまま手を振って応え、バタンとドアを閉じた。

 しぃんと静まり返っていた店内が、にわかにざわめきだす。

 「すっ……ごくなかった!? 今の!!」

 「ほんと! ママ身のこなし軽すぎ!」

 キャメロンがモモの肩を叩いて、そわそわと身を揺する。

 「怒らせたらやばいとは聞いたことあったけど……タダ者じゃないわね、あの動き」

 「しかもあのヤクザと知り合いっぽかったじゃない? ママがキサラギさんだって……」

 「気になるわぁ~」

 二人が去った後の店で、残された者たちが『うんうん』と神妙に頷き合った。
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