氷血辺境伯の溺愛オメガ

７

◇

　数日後。

　部屋で数学の教科書を読んでいると、扉が数回ノックされてユージーンが顔を覗かせた。

「カナン、ちょっと来てくれる？」
「うん。どうしたの？」

　本を置いて立ち上がると、ユージーンはいつもと変わらない顔であいまいに濁した。

「ちょっとね」

　部屋を出てついていくと、エントランスを挟んでジギタリスの向かい側にある扉の前に立った。書斎だ。
　ユージーンがそこで仕事をしているのは知っていたけれど、僕がそこに足を踏み入れたのは初めてだった。扉を開けると、整理整頓された仕事部屋が現れる。

「うわぁ、ユージーンの部屋って何か落ち着いてるね」

　華美な調度品が多く、どこか客をもてなすような造りをしているジギタリスに比べて、リベラ邸の主の部屋は実用的なデザインだった。
　正面の大きな窓の手前に執務机とふかふか椅子が置かれていて、壁は本棚で囲まれている。
　物珍しくてきょろきょろしていると、ユージーンが意外そうに言った。

「カナン、ここに来たことなかったっけ？」
「うん。会う時はいつもユージーンが僕の部屋に来てくれてたから」

　答えると、ユージーンは軽く眉を上げてぷいっと視線を逸らした。……最近気づいたんだけど、ユージーンは照れると顔を逸らす癖がある。

「そうか……。僕はそんなに君の元に通い詰めてたのか」

　それで何をしてたかっていうと、え……えっちなことばっかりだから、なんだか僕まで恥ずかしくなってくる。二人して顔を赤くしていると、ユージーンが目元を染めたまま僕に向き直った。

「言われてみれば、まともに屋敷を案内したこともなかったかもしれない。気が回らなくてすまなかった」
「ううん、ユージーンだって仕事が忙しいだろうし」
「今度ちゃんと時間を取ろう」

　そう言ってから、本題に入った。

「ルームツアーは改めてきちんとやるとして、今日は君に渡したいものがあって来てもらったんだ」
「渡したいもの？」

　執務机に向かったユージーンが引き出しを開ける。そこから、白い小箱を取り出した。

「これを、君に」

　差し出されて、受け取る。――なんだろう？
　箱にかかっていた赤いリボンを解き、蓋を開けると。

「――あ」

　薄紫のクッションの上に、黒いチョーカーが入っていた。