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第41話「最強陰陽師、魔王を倒す」

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 勢い込んで魔王に突撃してみたものの、魔王との決戦は予想よりも熾烈なものとなった。

 部下の陰陽師達は陰陽曼荼羅陣を維持するのが精いっぱいで、実際に戦えるのは俺一人だ。単独でこれだけ強大な敵と戦うのはやはり厳しいものがある。しかし、陰陽曼荼羅陣の効果で俺の陰陽道の威力を増幅させねばまともに効果があるか怪しいものだし、相手の能力を制限させねば一撃で殺されてしまう恐れがある。

 そして、この空間の中に閉じ込めておかねば、戦いの余波で周囲に被害が出るだろうし、敵が危機に陥った時に逃げられてしまうかもしれない。

 それらの要素を考えると、結局は直接戦うのは俺の役目でると割り切り、根気よく孤独に戦うしかやり様がない。以前の元の世界の戦いで似たような敵を倒した経験があるので、何とかなると考えていた。

 だが、それは甘い考えであった。

 前に世界魔術啓蒙団の団長と決戦をした時には、俺が戦う前にアメリカやEUの魔術師達が文字通り命を賭して戦い、その命と引き換えにかなり消耗させてくれていた。今回はそれがなく、戦うのは俺だけだ。

 攻撃を仕掛けても仕掛けても、魔王の動きが鈍る様子は無い。手ごたえはあるので、全く効果が無いのではない。ただ、魔王の耐久力が底なしすぎて、効果があるように見えないのだ。

 しかも、世界魔術啓蒙団の団長は巨大な獣の姿にその身を変じていたので、攻撃を重ねればその毛皮が裂け血を流していたので、攻撃の成果の蓄積が見ることが出来たのだ。

 だが、今相手にしている魔王は、闇を凝縮したような外見である。攻撃しても攻撃しても傷ついているようには見えないのだ。

 また、魔王は巨人の姿をしていて一見鈍そうに見えるが、実際は違う。巨体の攻撃とは遠めにこそ緩やかに思えるのだが、近くで見ると通常サイズの敵の何倍も速いのである。つまりは体格の倍率の分だけ攻撃の速度も上昇しているのだ。

 その様な攻撃を完全に回避し続けられるものではない。ほとんどの攻撃は動きを先読みして回避行動をとることで何とか被弾を免れているが、何十回に一発はどうしても食らってしまう。陰陽曼荼羅陣の効果で即死だけは避けられるので、即座に回復魔術を使っているので止めを刺されることは無い。

 それでも、どれだけ攻撃しても効果が見えず、死ぬことは無くてもそのまま戦う事を放棄したくなるような攻撃を食らい続けると、精神的に参ってくる。

 こんな状況が続くと、転移魔術ゲートを開いて元の世界に逃げ出してしまおうかなどど、弱気な考えが頭にもたげてくる。

 だが、当主に就任したばかりの未熟な自分の我儘に付き合い、この様な異世界にまでついてきてくれた部下の前で無様な姿は見せられないし、ここで諦めたらこの世界もカナデも滅びてしまうのだ。弱気になりそうな自分の心を奮い立たせて、痛みに耐えながら戦いを継続する。

 どれだけ戦い続けただろうか? 未来永劫とも思える戦いの中で、何度となく打ち込み続けてきた錫杖がこれまでよりも深く魔王の右腕に突き刺さった。

「……! くらえ! 陰陽発破!」

 突き刺さったままの錫杖の先から無属性の魔力を迸らせ、それを魔王の体内で爆発的に浸透させる。

「おおっ!」

 陰陽曼荼羅陣を維持し続けていた陰陽師達から歓声が上がる。ついに俺の攻撃で魔王の右腕が千切れて吹き飛んだのだ。

 初めての目に見える成果に俺も皆も湧きたった。

 魔王の右腕が無くなってからの戦いは、これまでよりも楽なものとなった。

 攻撃の頻度が低下し、パターンも単調なものとなったので、被弾することは無くなった。また、楽に回避出来ることから攻撃に集中でき、両手があった時よりも手ごたえを感じるのだ。

「火尖鎗!」

 頭上に現れた丸太大の燃え盛る長大な槍が、目にも止まらぬ速度で魔王に飛んで行き、その胸に深々と突き刺さる。これも今までにない手ごたえである。

「この機を逃さん! 五行相生撃!」

 魔王の体内に入り込んだ火尖槍に向けて、魔力を放出する。

 すると、魔王が炎に包まれ体の内外が焼き尽くされ、続いて土が生じて固まり動きを封じる。更に魔王の体内に金属製の巨大な刃が数多に生じて切り裂き、水が激流となって押し寄せ打ちのめす。そして最後には巨大な木の蔓が魔王の体から生えてきて、五体を締め付けていき――残された四肢、更には首を捩じ切った。

 木火土金水の五行が相生するというのは、陰陽道の基本である。相手に五行の一つの気を打ち込み、それを起点にして五行相生の順で気を呼び起こして攻撃するのが五行相生撃なのだ。

 勝機と見たため、持てる魔力のほとんどをこの攻撃を注ぎ込んだのだ。効果があってくれなければ困る。

「やったぞ!」

 五体を散らしながら崩れ落ちる魔王を見て、思わずガッツポーズをする。部下たちも喜んで万歳を叫んだり言葉にならない雄たけびを上げている。

 勝利に湧きたち、歓喜の声が陰陽曼荼羅陣の空間に木霊したが、それはすぐに驚愕の声に変った。

 四肢と首を失った魔王の胴体から、失われた首と四肢が生えてきたのである。それも、今までより太く逞しく、力強いものがだ。更には腕は左右合わせて4本生えてきた。

 戦いが再度始まった。

 だが、今度の戦いは絶望的だ。

 渾身の魔力をぶつけた一撃は徒労に帰し、敵の攻撃は激しさを増している。それに魔力は底を尽き掛けている。

 自然と守りに入ってしまいこちらから攻撃する機会が減少してしまうし、消極的な戦いは敵の攻撃を激化させてしまう。このままでは最終的に敗北してしまうことは必至だろう。

 それでも何とか攻撃の機会を伺い、最後の力を振り絞って頭部を叩き潰してみるが、すぐに二つの首が生えてきた。キリがない。

 絶望の空気が皆を包みかけていた時、異変が起きる。

 二本生えた首の一つが、弾けるようにして自壊したのだ。

 魔王は決して不死身ではないし、体の強化に何の代償も払っていないわけではない。つまり、魔王の再生能力に限界が見えている今のうちに完全に消滅させてしまえば、勝利できるはずだ。

 そう考えた俺は、最後の攻撃を決意する。魔王を完全に消滅させるための高威力の秘技を、まだ残している。

 十二天将降神撃――陰陽道における高位の式神である十二天将を、すべて自分の身に宿して攻撃する奥義である。

 十二天将はそれぞれ陰陽五行のそれぞれの気を司っている。つまり、彼らの全てを使って攻撃することは、相手の五行全てを相克することが出来るため、完全に消滅させることが可能なのだ。

 この奥義がもし発動に失敗したり、命中せずに終わってしまった場合、魔力を使い果たして戦いを続けることは不可能になってしまう。この世界には魔王と戦えるだけの魔術師は最早いないので、その様なリスクを負うことがためらわれたので温存していたが、かくなる上はこの一撃に全てを賭けるしかあるまい。

「来たれ十二天将! わが身に宿りてその大いなる力を貸せ!」

 前にこの世界で十二天将を呼び出そうとした時、この世界は十二天将の担当外であったため召喚に失敗した。しかし、この陰陽曼荼羅陣の空間は陰陽道を最も友好的に行使することが出来る。つまりこの空間なら十二天将を呼び出すことが可能なのだ。

 しかし、ここで予想外の事が起きた。魔力が足りないのである。

 これまでの永い永い戦いで、魔力を消耗し過ぎたのだ。十二天将を召喚すること自体は、事前に契約して準備した札を使用することで、魔力をほとんど使わずにすることが出来る。

 問題はそれを自分の身に宿す事だ。一体でも強大な彼らの力を制御するには、かなりの魔力が必要なのだ。かれらを憑依させることなく戦わせれば魔力を使うことは無い。しかし、それでは魔王を完全に消滅させることが出来るか分からない。

「だめだ! 魔力が足りない!」

 それでも何とか魔力を絞り出して憑依させた十二天将の力を制御しようとするが、それは敵わず全身に激痛が走り、目や口から血が流れだしてくる。十二天将の力に体が耐えられないのだ。

 激痛のあまり体をまともに動かすことも出来ない。

 折角、魔王が頭部の一つを破裂させて動きが鈍っている好機なのに、それを活かす事が出来ない。このままでは勝てない。

 そう思った時、俺の目の前にカナデが現れた。

「アツヤ。魔力を受け取って」

 カナデはそう言うと俺の唇に己の唇を重ねてきた。前回の軽く重ねるだけのものと違い、長く、舌と同時に唾液らしい液体が入ってくる。

 人生二度目の口付けである。

 この窮地にそんな場違いな事を考えてしまったが、体の中が熱くなり、丹田から力が沸き起こってきた。

 口付けは魔術的な絆を結ぶ事が出来る。つまり、魔力の受け渡しも可能と言う事だ。

 カナデは膨大な魔力を有した強力な魔術師であり、その魔力の総量は俺を上回るほどだ。

「ありがとう。カナデ。さあ! 今こそ滅びるがいい!」

 魔力が回復したことを感じ取ると、カナデの体を押しやって引き離し、魔王を睨みつける。

 そして、魔力の全てを込めて魔王に向かって突撃する。

 溢れ出す魔力の光に包まれながら魔王の体を殴りつけると――全てが光に包まれた。
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