上 下
37 / 43

第36話「元最強陰陽師、魔王を復活させる」

しおりを挟む
 魔王調査隊が学院近傍の森で魔王信者を捕縛している頃から、俺はカナデ達と元の世界に戻るための魔術を進めていた。

 俺が元の世界に戻って陰陽道の当主になるために、儀式を行うのに適切な時期が過ぎるのが迫っているので時間が惜しいし、転移魔術ゲートの効果を高めるために使用するヒヒイロカネは、エルフの国の国宝である。いくら貸与の許可を得ているとはいえなるべく早期に返すよう努力するのが筋だからだ。

 そして予想通りに問題なく、魔王調査隊が怪しい奴らを捕縛したという知らせが入ってきて、安心していた。魔王調査隊がこの世界における最高峰の戦闘集団だ。彼らが敗れるようなことは想像出来なかったので、特に手助けをしなかったが、それで正解だったといえよう。

「さて、これで準備は完了。あとはゲートの魔術を発動するだけだ」

 準備はすぐに整った。要領はずっと検討してきたし、元の世界で陰陽師の俊英達に最適な方法を研究させていたのだ。あとはそれを実現するだけだったので、やってみれば簡単な事だ。

「……じゃあ、これで帰るとしよう。これまで世話になったな」

 時間がたつと色んな感情が押し寄せてくるので、手短に別れの挨拶を述べる。

 この場には、共にこの世界における陰陽道を研究したカナデ、ダイキチ、アマデオ、そして最初に決闘したクロニコフが見送りに来ている。

 他にもこの学院で生活していた時に世話になった人たちはいるが、名残惜しくなるので特に呼び寄せる事はしないつもりだ。

「この世界で強力な陰陽道を行使するための方法は、これまでの研究を元に色々方向性は書き残したから、俺がいなくなっても是非完成させて欲しい」

「分かったニャー」

 俺から書付の束を受け取りながら、ダイキチとアマデオが頷いた。

 カナデは黙ったままだ。

 やはり、もう陰陽道は辞めなくてはならないという推測は正しいのだろう。カナデの嘘の付けない性格が表れている。

「言っておくけど、これが今生の別れだとは思わないことだ。なんてったってこの世界には俺自身の魔術で来訪したんだ。これからもっと研究を重ねれば、もっと確実にこの世界に来ることが出来るだろうし、その時には魔力切れにならないように、色々魔術具とか霊薬を準備してくるからな。その時こそ陰陽道の奥義を伝授してやろう」

 なるべく明るく言って見せたが、半分本当で半分嘘である。

 元の世界で研究を重ねて、様々な準備をすればもっと簡単にゲートを開くことが出来るのは本当だ。それだけの魔術の力が本来の俺にはある。帰還して当主継承の儀が終わったら、すぐにゲートを開くことだって可能だ。

 しかし、だからと言ってこの世界に来れるかどうかは、全くもって分からない。

 カナデが俺の部屋に通じるゲートを開いたのは全くの偶然だし、俺がこの世界に通じるゲートを開くことが出来たのは、カナデの魔術の余韻が残っていたからである。そして、俺が毎度毎度元の世界の俺の部屋にゲートを開くことが出来るのは、これまでの人生をその部屋で寝泊まりしていたから、それだけ縁が強いからだ。

 ならば、元の世界に帰還した後、この世界に正確にゲートを開くことが出来るか?

 それは否である。

 多少この学院で過ごしてきたが、それだけでは縁が薄すぎる。例えゲートを開いたとしても、この世界に繋がるかどうかは分からず、全く別の世界に通じてしまうかもしれない。

 下手をすると魔界等の危険な世界とつながってしまい、どの様な危険な存在が溢れ出してくるか分かったものではない。

 故に、安全確実にゲートの魔術が行使できるための研究を終えるまで、この魔術は封印するつもりである。研究に何日、何か月、何年、何十年かかるかは誰にも分からない。

「では行くぞ。木行、火行、土行、金行、水行! 陰気、陽気を鍵として。開け異世界への扉!」

 何時ものように口訣を唱えて精神を集中させる。これまでの間、カナデの作った魔力回復料理を食べ続けていたため、魔力はこれまでになく高まっている。そして、部屋に配置されたヒヒイロカネが魔術と共鳴して効果を高めてくれるはずだ。

 いや、何かがおかしい。

「魔力の流れが変だ! 中止するぞ!」

「ヒヒイロカネを使っているから何時もと違う魔力の流れなのでは?」

 アマデオがもっともな意見を述べるが、何かが違う事を俺の勘は感じ取っている。

「主よ。魔力がヒヒイロカネで増幅した後、部屋の外に奔流となって流れています。この方向は私と主が出会った森の方です」

 魔力を直感的に感じ取る能力が高い蠱王が、不安な様子でそう言った。

 学院の近くの森、そこはついさっき魔王信者が何かを企み捕縛されたところである。

 嫌な予感が脳裏に満ち溢れ、突き動かされるように部屋の外に飛び出た。

 そして、外の広場に出た時、魔王調査隊の一団と彼らに捕らえらえて縛についている魔王信者達を見つけた。

 魔王信者たちは捕縛された惨めな姿であるが、そんな様子は微塵も見せずに高らかに叫んでいた。

「魔王復活万歳!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...