31 / 43
第30話「元最強陰陽師、エルフの宝物庫へ向かう」
しおりを挟む
「実はお願い事がありまして、国宝の……」
「ああ。言わずとも良い。カナデから手紙で要件は聞いている。朱い鋼を貸与してほしいのだったな。名前は伝わってはいないが、我々の先祖が昔に手に入れて、それ以来保管している。それがおアツヤ君の欲しているヒヒイロカネだとか?」
事前に事情が説明されているとは、これは話が早い。と言うよりも当然のことかもしれない。一国の代表が時間を取ってくれているのだから、急な要件ならともかく長々と説明するのもおかしな話だ。陰陽師の代表である祖父も対外的な会見の際は、事前のアポイントメントや要件の事前調整を可能な限り行っていた。もちろん急な要件には即座に対応するだけの柔軟性は持っているが、この辺は社会人としての常識の範疇だろう。
例えカナデが娘であるとしても、その辺の事は怠らず例外扱いしないのがこの国のやり方なのだろう。となると、特別扱いで国宝の貸与の許可が下りない可能性があるので、その辺はお手柔らかに願いたいのだが。
「ヒヒイロカネかどうかは、実のところ確証がありませんが、実物は元の世界で見たことがありますのでお見せいただければ判定して見せます」
「ふむ……」
族長は考え込む様子を見せた。だが、事前に事情を説明していたのにも関わらず、今考えるのは妙な話である。俺がそんなに大した説得をしたわけでもないので、考慮要件が増えた訳でもない。
俺の事を直接見て、その印象の好悪などを考えて再検討している可能性もあるが、流石に見ただけでそこまで考え込むとは思い難い。
恐らく会話の間合いを切って、有利な態勢を取ろうとしているのだろう。俺の頼み応じるにしても、拒否するにしても、すぐに応じたのでは言動が軽くなってしまう。それでは一国の主としての威厳や、言葉の重みが保てないのだろう。
「アツヤ君。あまり相手の心中に入り込むのは良くないぞ。いや、入り込んでも良いが、そのことを顔に出してしまうと相手からどう思われるか分かったものではないからな」
どうやら俺の考えていたことは、族長からして見ればお見通しだったらしい。確かに言われる通りであり、自分の考えていることが相手に見透かされているのは、あまり気持ちの良いものではない。
ただ、俺は顔に出したつもりは一切ない。陰陽道の一門の跡継ぎとして、これまで他の勢力の魔術師とも折衝したことがあるが、過去の経験からもポーカーフェイスを保つくらいは心得ている。
これは、族長の人生経験や様々な修羅場の数が、桁外れに凄い事の表れだろう。流石人間の寿命の何倍も生きるエルフである。一筋縄ではいかぬようだ。
「まあ、若いのだからそこまで気にしなくても良いのだがな。娘も関わることではあるし、手短にいこうか。さて、本来国宝は見せるだけでもなかなか許されるものではない。もちろん貸与するなど遥かに困難だし、それを他種族になどあり得ぬ話だ。しかし、族長家の者であるカナデが研究のために持ち出すという形式をとれば、話は別だ。最終的に返してくれれば特に条件を付けずとも貸し出すことを許可しよう」
「寛大な処置、ありがとうございます。何か条件を出されたらどうしようかと思っていましたが、これは助かります」
「金銭的に困っている訳ではないし、条件と言えば、この前アスモデウスという強力な魔神を退散させたとの報告を受けている。仮にそのまま放置されていたら、周辺の町に住む我が同胞達が被害を受けていたかもしれない。それを防いでくれた恩を考えれば多少の無理は聞こうではないか」
アスモデウスを魔界に送り返したのは、風水を陰陽道のために整えるのに必要だったからであり、エルフや町の住民のためではない。それでも、結果的に評価されているのであればありがたいことだ。情けは人の為ならずとはよく言ったものだ。
「もし本当のヒヒイロカネでしたら、その利用方法についてレクチャー出来るでしょう。陰陽道での使い方は専門ですので詳しく説明できますし、一応元素魔術や精霊魔術、錬金術での利用方法も心得ています。エルフの方々にはこちらの方が活用し易いでしょう。決して損はさせません」
「それはありがたいな。そうであれば私情で国宝を娘に貸し出したなどと批判されずに済むというものだ。期待しておこうではないか」
「はい。ですが、それもまずは国宝がヒヒイロカネかどうかを確認せねば、取らぬ狸の皮算用です。早速確認させて頂きます」
すぐに宝物庫に入れてくれることになったので、ダイキチとアマデオ、そしてカナデと共に部屋を出ようとした時、族長が呼び止めた。
「ああ、カナデは待ちなさい。お前には話がある。宝物庫への案内は部屋の外にいる侍従に申し付けてある。ダイキチとアマデオはそのまま行ってよいぞ」
久しぶりの親子の再開である。積もる話もあるのだろう。カナデを応接室に残し、侍従のエルフに連れられて宝物庫に向かうことにした。
その時何となく嫌な予感がしたのだが、気のせいだと思い深く考えることはなかった。
「ああ。言わずとも良い。カナデから手紙で要件は聞いている。朱い鋼を貸与してほしいのだったな。名前は伝わってはいないが、我々の先祖が昔に手に入れて、それ以来保管している。それがおアツヤ君の欲しているヒヒイロカネだとか?」
事前に事情が説明されているとは、これは話が早い。と言うよりも当然のことかもしれない。一国の代表が時間を取ってくれているのだから、急な要件ならともかく長々と説明するのもおかしな話だ。陰陽師の代表である祖父も対外的な会見の際は、事前のアポイントメントや要件の事前調整を可能な限り行っていた。もちろん急な要件には即座に対応するだけの柔軟性は持っているが、この辺は社会人としての常識の範疇だろう。
例えカナデが娘であるとしても、その辺の事は怠らず例外扱いしないのがこの国のやり方なのだろう。となると、特別扱いで国宝の貸与の許可が下りない可能性があるので、その辺はお手柔らかに願いたいのだが。
「ヒヒイロカネかどうかは、実のところ確証がありませんが、実物は元の世界で見たことがありますのでお見せいただければ判定して見せます」
「ふむ……」
族長は考え込む様子を見せた。だが、事前に事情を説明していたのにも関わらず、今考えるのは妙な話である。俺がそんなに大した説得をしたわけでもないので、考慮要件が増えた訳でもない。
俺の事を直接見て、その印象の好悪などを考えて再検討している可能性もあるが、流石に見ただけでそこまで考え込むとは思い難い。
恐らく会話の間合いを切って、有利な態勢を取ろうとしているのだろう。俺の頼み応じるにしても、拒否するにしても、すぐに応じたのでは言動が軽くなってしまう。それでは一国の主としての威厳や、言葉の重みが保てないのだろう。
「アツヤ君。あまり相手の心中に入り込むのは良くないぞ。いや、入り込んでも良いが、そのことを顔に出してしまうと相手からどう思われるか分かったものではないからな」
どうやら俺の考えていたことは、族長からして見ればお見通しだったらしい。確かに言われる通りであり、自分の考えていることが相手に見透かされているのは、あまり気持ちの良いものではない。
ただ、俺は顔に出したつもりは一切ない。陰陽道の一門の跡継ぎとして、これまで他の勢力の魔術師とも折衝したことがあるが、過去の経験からもポーカーフェイスを保つくらいは心得ている。
これは、族長の人生経験や様々な修羅場の数が、桁外れに凄い事の表れだろう。流石人間の寿命の何倍も生きるエルフである。一筋縄ではいかぬようだ。
「まあ、若いのだからそこまで気にしなくても良いのだがな。娘も関わることではあるし、手短にいこうか。さて、本来国宝は見せるだけでもなかなか許されるものではない。もちろん貸与するなど遥かに困難だし、それを他種族になどあり得ぬ話だ。しかし、族長家の者であるカナデが研究のために持ち出すという形式をとれば、話は別だ。最終的に返してくれれば特に条件を付けずとも貸し出すことを許可しよう」
「寛大な処置、ありがとうございます。何か条件を出されたらどうしようかと思っていましたが、これは助かります」
「金銭的に困っている訳ではないし、条件と言えば、この前アスモデウスという強力な魔神を退散させたとの報告を受けている。仮にそのまま放置されていたら、周辺の町に住む我が同胞達が被害を受けていたかもしれない。それを防いでくれた恩を考えれば多少の無理は聞こうではないか」
アスモデウスを魔界に送り返したのは、風水を陰陽道のために整えるのに必要だったからであり、エルフや町の住民のためではない。それでも、結果的に評価されているのであればありがたいことだ。情けは人の為ならずとはよく言ったものだ。
「もし本当のヒヒイロカネでしたら、その利用方法についてレクチャー出来るでしょう。陰陽道での使い方は専門ですので詳しく説明できますし、一応元素魔術や精霊魔術、錬金術での利用方法も心得ています。エルフの方々にはこちらの方が活用し易いでしょう。決して損はさせません」
「それはありがたいな。そうであれば私情で国宝を娘に貸し出したなどと批判されずに済むというものだ。期待しておこうではないか」
「はい。ですが、それもまずは国宝がヒヒイロカネかどうかを確認せねば、取らぬ狸の皮算用です。早速確認させて頂きます」
すぐに宝物庫に入れてくれることになったので、ダイキチとアマデオ、そしてカナデと共に部屋を出ようとした時、族長が呼び止めた。
「ああ、カナデは待ちなさい。お前には話がある。宝物庫への案内は部屋の外にいる侍従に申し付けてある。ダイキチとアマデオはそのまま行ってよいぞ」
久しぶりの親子の再開である。積もる話もあるのだろう。カナデを応接室に残し、侍従のエルフに連れられて宝物庫に向かうことにした。
その時何となく嫌な予感がしたのだが、気のせいだと思い深く考えることはなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ブラフマン~疑似転生~
臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。
しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。
あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。
死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。
二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。
一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。
漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。
彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。
――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。
意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。
「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。
~魔王の近況~
〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。
幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。
——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる