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第30話「元最強陰陽師、エルフの宝物庫へ向かう」

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「実はお願い事がありまして、国宝の……」

「ああ。言わずとも良い。カナデから手紙で要件は聞いている。朱い鋼を貸与してほしいのだったな。名前は伝わってはいないが、我々の先祖が昔に手に入れて、それ以来保管している。それがおアツヤ君の欲しているヒヒイロカネだとか?」

 事前に事情が説明されているとは、これは話が早い。と言うよりも当然のことかもしれない。一国の代表が時間を取ってくれているのだから、急な要件ならともかく長々と説明するのもおかしな話だ。陰陽師の代表である祖父も対外的な会見の際は、事前のアポイントメントや要件の事前調整を可能な限り行っていた。もちろん急な要件には即座に対応するだけの柔軟性は持っているが、この辺は社会人としての常識の範疇だろう。

 例えカナデが娘であるとしても、その辺の事は怠らず例外扱いしないのがこの国のやり方なのだろう。となると、特別扱いで国宝の貸与の許可が下りない可能性があるので、その辺はお手柔らかに願いたいのだが。

「ヒヒイロカネかどうかは、実のところ確証がありませんが、実物は元の世界で見たことがありますのでお見せいただければ判定して見せます」

「ふむ……」

 族長は考え込む様子を見せた。だが、事前に事情を説明していたのにも関わらず、今考えるのは妙な話である。俺がそんなに大した説得をしたわけでもないので、考慮要件が増えた訳でもない。

 俺の事を直接見て、その印象の好悪などを考えて再検討している可能性もあるが、流石に見ただけでそこまで考え込むとは思い難い。

 恐らく会話の間合いを切って、有利な態勢を取ろうとしているのだろう。俺の頼み応じるにしても、拒否するにしても、すぐに応じたのでは言動が軽くなってしまう。それでは一国の主としての威厳や、言葉の重みが保てないのだろう。

「アツヤ君。あまり相手の心中に入り込むのは良くないぞ。いや、入り込んでも良いが、そのことを顔に出してしまうと相手からどう思われるか分かったものではないからな」

 どうやら俺の考えていたことは、族長からして見ればお見通しだったらしい。確かに言われる通りであり、自分の考えていることが相手に見透かされているのは、あまり気持ちの良いものではない。

 ただ、俺は顔に出したつもりは一切ない。陰陽道の一門の跡継ぎとして、これまで他の勢力の魔術師とも折衝したことがあるが、過去の経験からもポーカーフェイスを保つくらいは心得ている。

 これは、族長の人生経験や様々な修羅場の数が、桁外れに凄い事の表れだろう。流石人間の寿命の何倍も生きるエルフである。一筋縄ではいかぬようだ。

「まあ、若いのだからそこまで気にしなくても良いのだがな。娘も関わることではあるし、手短にいこうか。さて、本来国宝は見せるだけでもなかなか許されるものではない。もちろん貸与するなど遥かに困難だし、それを他種族になどあり得ぬ話だ。しかし、族長家の者であるカナデが研究のために持ち出すという形式をとれば、話は別だ。最終的に返してくれれば特に条件を付けずとも貸し出すことを許可しよう」

「寛大な処置、ありがとうございます。何か条件を出されたらどうしようかと思っていましたが、これは助かります」

「金銭的に困っている訳ではないし、条件と言えば、この前アスモデウスという強力な魔神を退散させたとの報告を受けている。仮にそのまま放置されていたら、周辺の町に住む我が同胞達が被害を受けていたかもしれない。それを防いでくれた恩を考えれば多少の無理は聞こうではないか」

 アスモデウスを魔界に送り返したのは、風水を陰陽道のために整えるのに必要だったからであり、エルフや町の住民のためではない。それでも、結果的に評価されているのであればありがたいことだ。情けは人の為ならずとはよく言ったものだ。

「もし本当のヒヒイロカネでしたら、その利用方法についてレクチャー出来るでしょう。陰陽道での使い方は専門ですので詳しく説明できますし、一応元素魔術や精霊魔術、錬金術での利用方法も心得ています。エルフの方々にはこちらの方が活用し易いでしょう。決して損はさせません」

「それはありがたいな。そうであれば私情で国宝を娘に貸し出したなどと批判されずに済むというものだ。期待しておこうではないか」

「はい。ですが、それもまずは国宝がヒヒイロカネかどうかを確認せねば、取らぬ狸の皮算用です。早速確認させて頂きます」

 すぐに宝物庫に入れてくれることになったので、ダイキチとアマデオ、そしてカナデと共に部屋を出ようとした時、族長が呼び止めた。

「ああ、カナデは待ちなさい。お前には話がある。宝物庫への案内は部屋の外にいる侍従に申し付けてある。ダイキチとアマデオはそのまま行ってよいぞ」

 久しぶりの親子の再開である。積もる話もあるのだろう。カナデを応接室に残し、侍従のエルフに連れられて宝物庫に向かうことにした。

 その時何となく嫌な予感がしたのだが、気のせいだと思い深く考えることはなかった。
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