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第18話「元、最強陰陽師、町に向かう」
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「遅い。どういう事だ?」
異世界で陰陽道の研究をしながら過ごすある日、苛立ちからつい不満を口にしてしまった。
「遅いって何のことだニャ?」
一緒に天体観測をしていた猫妖精のダイキチが尋ねてきた。
「運河の事だよ。予定なら記念式典をやって、水を流して、完成しているはずじゃないか」
運河の完成に何故俺がこだわっているのかというと、風水に関係があるからだ。
運河が完成することにより、この学院は風水的に望ましい地形になり、陰陽道が行使しやすくなるはずなのだ。そして、そうなれば俺が元の世界に帰るための門を作り出す魔術も成功しやすくなるはずなのだ。
地形的な条件を満たすには、東の地域に川の流れがあればよいのだが、これは運河の開通で満たされるはずだったのだ。
「クロニコフ、そこら辺の事情を何か知らないか?」
ダイキチと同じく、天体観測をしていた少年であるクロニコフに何か知らないか確認してみる。クロニコフは名門貴族の魔術師の家系出身であるので、何かそういった行政的な経緯を知らないかと思ったのだ。
「さあ? 特に聞いたことが無いけど」
「本当か? 実は工事に失敗していたとかそういった噂は無いのか?」
「そういう噂話にはあまり関心が無いんだ」
どうやらクロニコフは坊ちゃん育ちである為か、そういう方面には疎いようだ。育ちが良いからこそ、最初は俺と反目して決闘をし、俺にぼろ負けしたのにも関わらずすぐに友人に慣れたのではあるが、今の状況では役に立たない。残念な事である。
「記念式典の費用を着服したとか? 運河の主要な地域を領有しているのはミリグラム伯で工事の責任者でもあるけど、確か贅沢暮らしをしていて色んな方面に借金があるはずよ。運河の工事費用には王国から支援があったはずだけど、それを着服して工事の規模に見合った式典が出来ない。場合によっては工事自体に手抜きがあってとてもじゃないけど放水できないとかもありえるかしら」
会話に加わってきたのは、この天体観測における紅一点、エルフの少女であるカナデ=ペペルイである。彼女は俺と同じくこの世界ではマイナーな陰陽道を志す者だが、その生まれは有力なエルフの部族の長の家である。
カナデはエルフのお姫様らしく、性格も良いし、可愛いし、魔術の才能に満ち溢れているしと、とても良い子なのだが、意外とお転婆なところがある。
それに加えて今の発言を考慮すると、意外と政治的な事も考えているのかもしれない。
お姫様というのは、政治抜きでは過ごしていけないのだろう。俺だって陰陽師を統べる一門の御曹司であるが、魔術の研究だけしていれば良いという訳にはいかず、色々と派閥争いだったり思想の違いによる殺し合いなど、世界の裏側を見てきたものである。
カナデの意外と世故長けた一面を見て、何となく好感を覚えた。
いや、好感を覚えたからどうだという事はないのだが。
「じゃあどうすりゃいいんだろう? 何か手回しとかして、出来るだけ早く運河を開通してもらえないかな?」
「そうね。もし、会計的な事で不正をしているのなら、そのことを王国に報告すると脅して、更にペペルイの森を通る交易路で荷留めをすると示唆してから、ペペルイ一族から融資をすると提案すれば何とかなるかも。そうすれば運河は開通するでしょうし、運河の利権の一部をうちの一族が握れるかもしれないわね」
「ふむふむなるほど」
えらく具体的で、エグイことを提案してくれた。しかし、結構効果がありそうで、やってみたいという欲求を刺激される。
「面白そうだな。でも、普通に技術的なトラブルの可能性もあるよね」
「確かにそうね。そうだったらお手上げじゃないかしら」
「そうでもないぞ。専門じゃないけど、俺には元の世界で得た科学的な知識やある。それで何か手助けが出来るかもしれない」
元の世界では陰陽道の名門である九頭刃家を継ぐものとして、魔術以外にもかなりの知識を詰め込んでいた。その時得た物理学や治水の歴史的な知識を用いれば、この世界での運河にも役に立つかもしれない。
さらに言えば、俺は元の世界ではネット小説を好んで読んでいたが、そこでの一大ジャンルである「知識チート」をやってみたいという欲求もある。
本当なら元の世界において最強と謳われた陰陽道の腕前で無双したいところなのだが、残念ながら俺の身につけていた陰陽道はこの世界の魔術法則と合わないらしく、弱体化してしまっているためそれは適わない。
「それじゃあ明日にでもそのミリグラム伯とかいう人のところに行ってみようか。ん? でも、貴族で領主何だろう? 急に行って会えるのか?」
俺は日本では従五位下の官位や陰陽助の職を与えられていた。しかし、当然のことながらこの世界では通用しないだろう。
また、カナデやクロニコフはこの世界の名門出身であるが、流石にまだ子供であるのでそこまでの権限は無いだろう。
「一応考えがあるの。任せておいて」
カナデが自信ありげに言うので、それを信用してミリグラム伯の居城のある町へと向かうことになった。
異世界で陰陽道の研究をしながら過ごすある日、苛立ちからつい不満を口にしてしまった。
「遅いって何のことだニャ?」
一緒に天体観測をしていた猫妖精のダイキチが尋ねてきた。
「運河の事だよ。予定なら記念式典をやって、水を流して、完成しているはずじゃないか」
運河の完成に何故俺がこだわっているのかというと、風水に関係があるからだ。
運河が完成することにより、この学院は風水的に望ましい地形になり、陰陽道が行使しやすくなるはずなのだ。そして、そうなれば俺が元の世界に帰るための門を作り出す魔術も成功しやすくなるはずなのだ。
地形的な条件を満たすには、東の地域に川の流れがあればよいのだが、これは運河の開通で満たされるはずだったのだ。
「クロニコフ、そこら辺の事情を何か知らないか?」
ダイキチと同じく、天体観測をしていた少年であるクロニコフに何か知らないか確認してみる。クロニコフは名門貴族の魔術師の家系出身であるので、何かそういった行政的な経緯を知らないかと思ったのだ。
「さあ? 特に聞いたことが無いけど」
「本当か? 実は工事に失敗していたとかそういった噂は無いのか?」
「そういう噂話にはあまり関心が無いんだ」
どうやらクロニコフは坊ちゃん育ちである為か、そういう方面には疎いようだ。育ちが良いからこそ、最初は俺と反目して決闘をし、俺にぼろ負けしたのにも関わらずすぐに友人に慣れたのではあるが、今の状況では役に立たない。残念な事である。
「記念式典の費用を着服したとか? 運河の主要な地域を領有しているのはミリグラム伯で工事の責任者でもあるけど、確か贅沢暮らしをしていて色んな方面に借金があるはずよ。運河の工事費用には王国から支援があったはずだけど、それを着服して工事の規模に見合った式典が出来ない。場合によっては工事自体に手抜きがあってとてもじゃないけど放水できないとかもありえるかしら」
会話に加わってきたのは、この天体観測における紅一点、エルフの少女であるカナデ=ペペルイである。彼女は俺と同じくこの世界ではマイナーな陰陽道を志す者だが、その生まれは有力なエルフの部族の長の家である。
カナデはエルフのお姫様らしく、性格も良いし、可愛いし、魔術の才能に満ち溢れているしと、とても良い子なのだが、意外とお転婆なところがある。
それに加えて今の発言を考慮すると、意外と政治的な事も考えているのかもしれない。
お姫様というのは、政治抜きでは過ごしていけないのだろう。俺だって陰陽師を統べる一門の御曹司であるが、魔術の研究だけしていれば良いという訳にはいかず、色々と派閥争いだったり思想の違いによる殺し合いなど、世界の裏側を見てきたものである。
カナデの意外と世故長けた一面を見て、何となく好感を覚えた。
いや、好感を覚えたからどうだという事はないのだが。
「じゃあどうすりゃいいんだろう? 何か手回しとかして、出来るだけ早く運河を開通してもらえないかな?」
「そうね。もし、会計的な事で不正をしているのなら、そのことを王国に報告すると脅して、更にペペルイの森を通る交易路で荷留めをすると示唆してから、ペペルイ一族から融資をすると提案すれば何とかなるかも。そうすれば運河は開通するでしょうし、運河の利権の一部をうちの一族が握れるかもしれないわね」
「ふむふむなるほど」
えらく具体的で、エグイことを提案してくれた。しかし、結構効果がありそうで、やってみたいという欲求を刺激される。
「面白そうだな。でも、普通に技術的なトラブルの可能性もあるよね」
「確かにそうね。そうだったらお手上げじゃないかしら」
「そうでもないぞ。専門じゃないけど、俺には元の世界で得た科学的な知識やある。それで何か手助けが出来るかもしれない」
元の世界では陰陽道の名門である九頭刃家を継ぐものとして、魔術以外にもかなりの知識を詰め込んでいた。その時得た物理学や治水の歴史的な知識を用いれば、この世界での運河にも役に立つかもしれない。
さらに言えば、俺は元の世界ではネット小説を好んで読んでいたが、そこでの一大ジャンルである「知識チート」をやってみたいという欲求もある。
本当なら元の世界において最強と謳われた陰陽道の腕前で無双したいところなのだが、残念ながら俺の身につけていた陰陽道はこの世界の魔術法則と合わないらしく、弱体化してしまっているためそれは適わない。
「それじゃあ明日にでもそのミリグラム伯とかいう人のところに行ってみようか。ん? でも、貴族で領主何だろう? 急に行って会えるのか?」
俺は日本では従五位下の官位や陰陽助の職を与えられていた。しかし、当然のことながらこの世界では通用しないだろう。
また、カナデやクロニコフはこの世界の名門出身であるが、流石にまだ子供であるのでそこまでの権限は無いだろう。
「一応考えがあるの。任せておいて」
カナデが自信ありげに言うので、それを信用してミリグラム伯の居城のある町へと向かうことになった。
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