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第4章 ニクジン編
第102話「三対一」
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伊部鉄郎との再戦は、先ほどの一方的なものとは違い、互角のものとなった。
その原因は当然、太刀花則武の参戦によるものだ。太刀花則武は当代の武芸者の中では最強を誇っており、その実力を遺憾なく発揮すれば当然のことと言えよう。
それに加えて修と千祝の連携も磨きがかかっている。修や千祝の実力は、太刀花則武や伊部鉄郎、そして以前戦った鞍馬の様な達人にはまだ個々では及ばないが、ひとたび協力して戦えば、狼の群れや軍隊、はたまたプロレスのタッグの様に息の合った戦いをする事が出来る。その時は達人の域に達する程だ。
そして、太刀花則武は二人の師匠である。赤の他人が二人の連携に入り込もうとした場合、かえってその連携を崩してしまいかねないが、二人の戦い方の癖を良く知る太刀花則武は別である。二人の連携をより活かす様に立ち回り、チームとしての戦力を最大限に発揮させている。
伊部鉄郎は転の秘技により即座に攻撃を返そうとするが、この三人を相手にしてはそうはいかない。カウンターを繰り出そうとした瞬間に、実に嫌なタイミングで別の角度から攻撃を仕掛けられるのだ。
ならばと積極的に実力の劣る修や千祝を狙おうとするが、これも上手くはいかない。攻撃しようとした瞬間に太刀花則武が割って入り、剣は全て弾かれてしまう。その時間を使って二人は縮地で間合い取り、別の角度から攻撃を再開してくるのだ。
実に性質が悪い。
「ハハッ。本当に恐るべき奴等よな。太刀花と鬼越の血と言うのは。儂が外つ者に魂を売って手に入れたこの力に、こうも簡単に肉薄するとはな。本当に忌々しい!」
「……」
太刀花則武はそれに答えず、黙々と剣を振るい続けた。伊部鉄郎が言うほど簡単に対抗出来ているわけではない。伊部鉄郎の老練の剣技は太刀花則武を上回っているのは確実であるし、肉体的にもニクジンの肉を食らう事により、まさしく人外の力を手に入れている。
生前の伊部鉄郎と太刀花則武は総合的には互角か、肉体的なものにより太刀花則武の方が上だったと言えるだろう。しかし、今は完全に伊部鉄郎の方が上回っており、修と千祝の助力が無ければ既に膾切りにされているところだ。
人外の脅威である外つ者と、それを武芸の技術により狩る事を営々と続けてきた武芸者、これらの力が合わさった時、どれだけ恐ろしい事になるのか太刀花則武は身をもって知った。
少し前に、修と千祝が斎藤一の幽霊と一緒に外つ者と戦ったなどと言う、怪物を屠り続けてきた太刀花則武にとっても信じがたい話を聞かされた。その話が本当であるなら、その斎藤一の幽霊が外つ者と化していなくて本当に良かったと思う。伝説の剣豪が外つ者の力を得て復活していたならば、その脅威は伊部鉄郎よりも恐るべきものだったかも知れない。
そして、実力ある武芸者と、外つ者の力を融合してしまおうと言う恐るべき事を思いついた者に対し、怒りの念が湧き出てくるのであった。
もしも、この様な事を繰り返されたなら、外つ者と対峙する態勢に大きな綻びが生じるだろう。
伊部鉄郎の様に、優れた武芸の技術を持ちながら、老齢によりもう引退した者は数多くいる。彼らの死後に、外つ者として復活し、敵として立ちはだかって来るならば、これは大きな脅威となる。いや、中には生前から外つ者の力を得ようとする者だって現れてもおかしくはない。長く苦しい修行の果てに得た力を、老いにより失っていく事に耐えられない者は多いはずだ。優れた武芸者ほど自らの劣化に対して、失望の念は比例して大きいだろう。
早々にこの様な事態を引き起こした黒幕を暴き出し、始末をしなくてはならないだろう。
そして、先ずは目の前の敵を倒さなければ、何も始まらない。
「何を考えておる? 今は儂との戦いの最中ぞ!」
太刀花則武が色々な事に思いを抱きながら戦っているのに目ざとく気付いた伊部鉄郎は、その隙を見逃さずにこれまでよりも鋭い、強烈な一撃を放って来た。通常の武芸者ならこれで脳天から股間まで一刀両断にされるだろう。しかし、太刀花則武は並みの武芸者ではない。これも予測済みの事だ。
「やれっ!」
短く二人に命じたその時には、伊部鉄郎の刀は大きく上方へ弾かれていた。刀から手を離してはいないが、その態勢は大きく崩れている。とは言っても伊部鉄郎も並みの武芸者ではない。刹那の後にはすぐに態勢を整えてしまうだろう。
だが、その刹那の隙を、修と千祝は見逃さない。
「くらえ!」
「てやぁ!」
伊部鉄郎の両脇に、刀が深々と突き刺さった。縮地による瞬足の間合い詰めと、藤田五郎直伝の体重のこもった突き技の融合である。先程の戦いでは修練が不十分だったために伊部鉄郎には返されてしまったが、態勢が崩れた今なら別である。
外つ者は、強力な肉体を有しているが、弱点もある。所謂「神聖な力」には弱いので神社などの神域では弱体化するし、正式に作成された日本刀も弱点となる。
外つ者となった伊部鉄郎も、同じ様に日本刀を弱点としているはずで、それを深々と食らったのだ。勝負は決まったも同然だろう。
二人はその様に勝利を確信した。
その原因は当然、太刀花則武の参戦によるものだ。太刀花則武は当代の武芸者の中では最強を誇っており、その実力を遺憾なく発揮すれば当然のことと言えよう。
それに加えて修と千祝の連携も磨きがかかっている。修や千祝の実力は、太刀花則武や伊部鉄郎、そして以前戦った鞍馬の様な達人にはまだ個々では及ばないが、ひとたび協力して戦えば、狼の群れや軍隊、はたまたプロレスのタッグの様に息の合った戦いをする事が出来る。その時は達人の域に達する程だ。
そして、太刀花則武は二人の師匠である。赤の他人が二人の連携に入り込もうとした場合、かえってその連携を崩してしまいかねないが、二人の戦い方の癖を良く知る太刀花則武は別である。二人の連携をより活かす様に立ち回り、チームとしての戦力を最大限に発揮させている。
伊部鉄郎は転の秘技により即座に攻撃を返そうとするが、この三人を相手にしてはそうはいかない。カウンターを繰り出そうとした瞬間に、実に嫌なタイミングで別の角度から攻撃を仕掛けられるのだ。
ならばと積極的に実力の劣る修や千祝を狙おうとするが、これも上手くはいかない。攻撃しようとした瞬間に太刀花則武が割って入り、剣は全て弾かれてしまう。その時間を使って二人は縮地で間合い取り、別の角度から攻撃を再開してくるのだ。
実に性質が悪い。
「ハハッ。本当に恐るべき奴等よな。太刀花と鬼越の血と言うのは。儂が外つ者に魂を売って手に入れたこの力に、こうも簡単に肉薄するとはな。本当に忌々しい!」
「……」
太刀花則武はそれに答えず、黙々と剣を振るい続けた。伊部鉄郎が言うほど簡単に対抗出来ているわけではない。伊部鉄郎の老練の剣技は太刀花則武を上回っているのは確実であるし、肉体的にもニクジンの肉を食らう事により、まさしく人外の力を手に入れている。
生前の伊部鉄郎と太刀花則武は総合的には互角か、肉体的なものにより太刀花則武の方が上だったと言えるだろう。しかし、今は完全に伊部鉄郎の方が上回っており、修と千祝の助力が無ければ既に膾切りにされているところだ。
人外の脅威である外つ者と、それを武芸の技術により狩る事を営々と続けてきた武芸者、これらの力が合わさった時、どれだけ恐ろしい事になるのか太刀花則武は身をもって知った。
少し前に、修と千祝が斎藤一の幽霊と一緒に外つ者と戦ったなどと言う、怪物を屠り続けてきた太刀花則武にとっても信じがたい話を聞かされた。その話が本当であるなら、その斎藤一の幽霊が外つ者と化していなくて本当に良かったと思う。伝説の剣豪が外つ者の力を得て復活していたならば、その脅威は伊部鉄郎よりも恐るべきものだったかも知れない。
そして、実力ある武芸者と、外つ者の力を融合してしまおうと言う恐るべき事を思いついた者に対し、怒りの念が湧き出てくるのであった。
もしも、この様な事を繰り返されたなら、外つ者と対峙する態勢に大きな綻びが生じるだろう。
伊部鉄郎の様に、優れた武芸の技術を持ちながら、老齢によりもう引退した者は数多くいる。彼らの死後に、外つ者として復活し、敵として立ちはだかって来るならば、これは大きな脅威となる。いや、中には生前から外つ者の力を得ようとする者だって現れてもおかしくはない。長く苦しい修行の果てに得た力を、老いにより失っていく事に耐えられない者は多いはずだ。優れた武芸者ほど自らの劣化に対して、失望の念は比例して大きいだろう。
早々にこの様な事態を引き起こした黒幕を暴き出し、始末をしなくてはならないだろう。
そして、先ずは目の前の敵を倒さなければ、何も始まらない。
「何を考えておる? 今は儂との戦いの最中ぞ!」
太刀花則武が色々な事に思いを抱きながら戦っているのに目ざとく気付いた伊部鉄郎は、その隙を見逃さずにこれまでよりも鋭い、強烈な一撃を放って来た。通常の武芸者ならこれで脳天から股間まで一刀両断にされるだろう。しかし、太刀花則武は並みの武芸者ではない。これも予測済みの事だ。
「やれっ!」
短く二人に命じたその時には、伊部鉄郎の刀は大きく上方へ弾かれていた。刀から手を離してはいないが、その態勢は大きく崩れている。とは言っても伊部鉄郎も並みの武芸者ではない。刹那の後にはすぐに態勢を整えてしまうだろう。
だが、その刹那の隙を、修と千祝は見逃さない。
「くらえ!」
「てやぁ!」
伊部鉄郎の両脇に、刀が深々と突き刺さった。縮地による瞬足の間合い詰めと、藤田五郎直伝の体重のこもった突き技の融合である。先程の戦いでは修練が不十分だったために伊部鉄郎には返されてしまったが、態勢が崩れた今なら別である。
外つ者は、強力な肉体を有しているが、弱点もある。所謂「神聖な力」には弱いので神社などの神域では弱体化するし、正式に作成された日本刀も弱点となる。
外つ者となった伊部鉄郎も、同じ様に日本刀を弱点としているはずで、それを深々と食らったのだ。勝負は決まったも同然だろう。
二人はその様に勝利を確信した。
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