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第3章 ワイラ編
第71話「オトロシ討伐」
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科学博物館における怪異の原因となっている外つ者を討伐するため、修達の探索は続く。科学博物館の警備員である藤田に率いられた一行は、階段を昇って上を目指した。上の階からより強い外つ者の気配がするからだ。
「そういえば藤田さん。この博物館のどのあたりに元凶がいるか、心当たりはあるんですか?」
階段を昇りながら千祝は尋ねた。修と千祝はこの博物館に来るのは初めてである。そのため、この博物館の職員である藤田の知識は、探索をする上で有効なはずである。
「さあ? 俺はあまりどこに何が展示されているか詳しくないんだ」
藤田から帰って来た返事は、期待外れなものであった。警備員である藤田が、自分の警備する施設について詳しくないことを二人は訝しんだが、警備と展示は別物だから、藤田は所掌である施設の警備以外について知識が乏しいのだろうと推察した。
上の階にたどり着いた修達は、外つ者の気配を強く放つ展示室に向かった。
展示室の中は日本の動植物が陳列されており、動物はその多くが剥製である。普段なら何とも思わないところであるが、この様な状況なので不気味なものを修は感じた。
しかし、剥製に対して異様なものを感じていたのは単なる気のせいではなかった。よく見ると剥製の中に混じって下の階で戦ったのと同じような外つ者が混じっている。
展示室に蠢く数多の外つ者の中、一際大きな体格の外つ者が、修達に確認できた。これまでの経験から、奴がこの博物館の外つ者の大将であることが予測できた。おそらく象級の上位種である。
修達が以前倒したヤトノカミやダイダラボッチの様な将級よりも一つ下の階級であるが、今回は神剣や神域の加護が無いため、油断してよい相手ではない。
「ふん。あれが大将だな。悪いが道を開いてもらおうか」
藤田が修と千祝に向かって指示をする。別に藤田の手下になったわけではないのだが、もとよりそうするつもりだった二人は、反発することなく素直に外つ者達に向かって切り込んだ。
象級という上位種に直接指揮されているためか、外つ者達は下の階での戦いに比べて統制が取れている。
しかし、この程度では修達は怯まない。展示室の狭さのため、同時に並べるのは二人程度、そして、2対2の連携なら修と千祝に勝てる者などこの世にはいないのだ。
修達一行と象級の外つ者との間には、無数の外つ者がひしめいていたが、時間とともにその数を減らしていく。まるで、食料品の工場のベルトコンベヤーで運ばれてきた食材が、スライサーや粉砕機に運ばれて行き、処理されていくかのごとくであった。
修と千祝のこれまでもの能力の発揮は、二人の実力もさることながら、後ろに藤田という実力者が控えているため、敵に後ろを取られることや負けた時の心配が必要ないという事も原因である。
ついに、敵の大将格の外つ者との戦いを邪魔する者達がいなくなった。この建物の別の場所からはまだまだ気配がするが、今この戦いに介入してくることは無いだろう。
「よし! 後は俺に任せろ!」
二人の後ろから藤田が刀を構えて飛び出してきた。
迎え撃つ外つ者は、ヒグマよりも二回りは大きい巨体であった。すぐ横にヒグマの剥製があるため、それとの比較で大きさが良く分かる。その体は長い毛に覆われているため、実際にどんな形をしているのかは分からない。豊富な毛の間から除く眼光は爛々と輝いて修達を捉えており、同じく毛の間からは巨大で鋭い牙が顔をのぞかせていた。
毛に覆われたその姿は、藤田が話していた妖怪「オトロシ」に似ていると思ったため、修はこの外つ者のことを、オトロシと呼ぶことを心の中で決めた。
修と千祝は、藤田とオトロシの戦いを大人しく見守りながら、その推移を予測する。もし、藤田一人で苦戦するようなら、掩護するためだ。
見たところオトロシの攻撃方法として警戒すべきなのは、巨大な牙である。また、この狭い展示室で巨体による体当たりをされたら回避するのが困難だろう。そして、毛に隠れて見えないが、鋭い爪も備えているかもしれない。更には炎を吐き出してくることもあるだろう。
この様なことを、修と千祝は考えて取るべき行動を案出していた。そして、これ位の攻撃なら、藤田は難なく捌いて見せるであろうことも、予測していたため安心していた。
しかし、オトロシの行動は二人の予想を超えていた。
その身に纏う大量の毛が、まるで意思を持っているかのごとくいつもの束になって、迫る藤田めがけて襲い掛かって来たのだ。
オトロシの毛にどれだけの威力があるのかは分からない。針や槍の様に体に突き刺さるのか、もしくは体に絡みついて身動きを取れなくしてしまうのかも知れない。
どちらにせよオトロシの正面の空間を全て覆いつくすかの様な攻撃であり、如何な達人でもこれを躱すのは困難であろう。
二人は藤田を助けるべく、刀を構え直した。しかし、
「ツゥキェァァーー!」
響いたのは藤田の悲鳴ではなく、裂帛の気合であった。気合が入りすぎていて最早何と言っているのかは分からないが、並みの剣術家ならこの気合だけで動けなくなるであろう凄まじい気合であった。
藤田は、オトロシの攻撃など一切気に懸けることなく、最初の勢いそのままに突撃し、剣を繰り出したのだ。彼の得意技である左片手一本突きである。
オトロシの攻撃により、藤田の前進にはオトロシの毛が突き刺さっている。しかし、藤田の攻撃が早すぎたせいで深く刺さる前に、致命傷を負わされてしまったのだ。
藤田の刀はオトロシの眉間深く突き刺さっている。
もし、藤田がオトロシの攻撃に少しでも怯んだり、攻撃で倒せなかったらどうしようなどと迷いがあったとしたら、この様な戦果をあげることは出来なかっただろう。
修と千祝は藤田の剣技もさることながら、その精神力に感服した。まさに剣鬼と呼ぶにふさわしいふるまいである。
「藤田さん。やりましたね」
「おう。ま、こんなもんだろ。久方ぶりの戦だったからヒヤヒヤしたがな」
顔色一つ変えない藤田だったが、口調は少し軽いものが感じ取れた。
「あれ? これは……」
修は藤田の目の前に転がっている物に注目した。通常、外つ者は倒されると霧のように消えてしまう。しかし、今回はオトロシの体がぼやけたかと思うと、それまでの巨躯の代わりに小さな犬の剥製が姿を現した。
「ほう? どうやらこいつが外つ者の依り代となっていたようだな」
「藤田さん。これってもしかして展示品なんじゃ……」
「だろうな」
警備員でありながら展示品を傷つけてしまった藤田であるが、そんな事は全く気に留めてなさそうである。
「これ見て。この土偶、密売人が持っていた物に似てない?」
千祝が目ざとく床に転がっていた土偶を見つけて、修に示した。土偶は一つ一つ手作りなので、完全に一致するものではないが、その形は密売人が持っていた外つ者を封じたものに酷似していた。
「なるほど、これに封じられていた外つ者が、ここで解放されてこの犬の剥製に乗り移ってこの事態を引き起こしたってわけだな」
「そんなところだろう」
修の推測を藤田が認めてくれた。ということなら今回の事件はこれで解決なのかもしれない。
「待って! 何か足音が近づいて来ない?」
千祝が注意を促す声を上げた。耳を澄ませてみると確かに足音が近づいて来る。
「これは、人間の足音だろうな。察するに、そこそこ鍛えてはいるようだが……坊主達ほどじゃないな」
藤田は敵ではないと看破したのか、それほど警戒してはいないようだ。
「あっ、ここに居たんですか!」
近づいて来た足音の主、それは藤田の予想した通り人間であり、警官の大久保であった。
「そういえば藤田さん。この博物館のどのあたりに元凶がいるか、心当たりはあるんですか?」
階段を昇りながら千祝は尋ねた。修と千祝はこの博物館に来るのは初めてである。そのため、この博物館の職員である藤田の知識は、探索をする上で有効なはずである。
「さあ? 俺はあまりどこに何が展示されているか詳しくないんだ」
藤田から帰って来た返事は、期待外れなものであった。警備員である藤田が、自分の警備する施設について詳しくないことを二人は訝しんだが、警備と展示は別物だから、藤田は所掌である施設の警備以外について知識が乏しいのだろうと推察した。
上の階にたどり着いた修達は、外つ者の気配を強く放つ展示室に向かった。
展示室の中は日本の動植物が陳列されており、動物はその多くが剥製である。普段なら何とも思わないところであるが、この様な状況なので不気味なものを修は感じた。
しかし、剥製に対して異様なものを感じていたのは単なる気のせいではなかった。よく見ると剥製の中に混じって下の階で戦ったのと同じような外つ者が混じっている。
展示室に蠢く数多の外つ者の中、一際大きな体格の外つ者が、修達に確認できた。これまでの経験から、奴がこの博物館の外つ者の大将であることが予測できた。おそらく象級の上位種である。
修達が以前倒したヤトノカミやダイダラボッチの様な将級よりも一つ下の階級であるが、今回は神剣や神域の加護が無いため、油断してよい相手ではない。
「ふん。あれが大将だな。悪いが道を開いてもらおうか」
藤田が修と千祝に向かって指示をする。別に藤田の手下になったわけではないのだが、もとよりそうするつもりだった二人は、反発することなく素直に外つ者達に向かって切り込んだ。
象級という上位種に直接指揮されているためか、外つ者達は下の階での戦いに比べて統制が取れている。
しかし、この程度では修達は怯まない。展示室の狭さのため、同時に並べるのは二人程度、そして、2対2の連携なら修と千祝に勝てる者などこの世にはいないのだ。
修達一行と象級の外つ者との間には、無数の外つ者がひしめいていたが、時間とともにその数を減らしていく。まるで、食料品の工場のベルトコンベヤーで運ばれてきた食材が、スライサーや粉砕機に運ばれて行き、処理されていくかのごとくであった。
修と千祝のこれまでもの能力の発揮は、二人の実力もさることながら、後ろに藤田という実力者が控えているため、敵に後ろを取られることや負けた時の心配が必要ないという事も原因である。
ついに、敵の大将格の外つ者との戦いを邪魔する者達がいなくなった。この建物の別の場所からはまだまだ気配がするが、今この戦いに介入してくることは無いだろう。
「よし! 後は俺に任せろ!」
二人の後ろから藤田が刀を構えて飛び出してきた。
迎え撃つ外つ者は、ヒグマよりも二回りは大きい巨体であった。すぐ横にヒグマの剥製があるため、それとの比較で大きさが良く分かる。その体は長い毛に覆われているため、実際にどんな形をしているのかは分からない。豊富な毛の間から除く眼光は爛々と輝いて修達を捉えており、同じく毛の間からは巨大で鋭い牙が顔をのぞかせていた。
毛に覆われたその姿は、藤田が話していた妖怪「オトロシ」に似ていると思ったため、修はこの外つ者のことを、オトロシと呼ぶことを心の中で決めた。
修と千祝は、藤田とオトロシの戦いを大人しく見守りながら、その推移を予測する。もし、藤田一人で苦戦するようなら、掩護するためだ。
見たところオトロシの攻撃方法として警戒すべきなのは、巨大な牙である。また、この狭い展示室で巨体による体当たりをされたら回避するのが困難だろう。そして、毛に隠れて見えないが、鋭い爪も備えているかもしれない。更には炎を吐き出してくることもあるだろう。
この様なことを、修と千祝は考えて取るべき行動を案出していた。そして、これ位の攻撃なら、藤田は難なく捌いて見せるであろうことも、予測していたため安心していた。
しかし、オトロシの行動は二人の予想を超えていた。
その身に纏う大量の毛が、まるで意思を持っているかのごとくいつもの束になって、迫る藤田めがけて襲い掛かって来たのだ。
オトロシの毛にどれだけの威力があるのかは分からない。針や槍の様に体に突き刺さるのか、もしくは体に絡みついて身動きを取れなくしてしまうのかも知れない。
どちらにせよオトロシの正面の空間を全て覆いつくすかの様な攻撃であり、如何な達人でもこれを躱すのは困難であろう。
二人は藤田を助けるべく、刀を構え直した。しかし、
「ツゥキェァァーー!」
響いたのは藤田の悲鳴ではなく、裂帛の気合であった。気合が入りすぎていて最早何と言っているのかは分からないが、並みの剣術家ならこの気合だけで動けなくなるであろう凄まじい気合であった。
藤田は、オトロシの攻撃など一切気に懸けることなく、最初の勢いそのままに突撃し、剣を繰り出したのだ。彼の得意技である左片手一本突きである。
オトロシの攻撃により、藤田の前進にはオトロシの毛が突き刺さっている。しかし、藤田の攻撃が早すぎたせいで深く刺さる前に、致命傷を負わされてしまったのだ。
藤田の刀はオトロシの眉間深く突き刺さっている。
もし、藤田がオトロシの攻撃に少しでも怯んだり、攻撃で倒せなかったらどうしようなどと迷いがあったとしたら、この様な戦果をあげることは出来なかっただろう。
修と千祝は藤田の剣技もさることながら、その精神力に感服した。まさに剣鬼と呼ぶにふさわしいふるまいである。
「藤田さん。やりましたね」
「おう。ま、こんなもんだろ。久方ぶりの戦だったからヒヤヒヤしたがな」
顔色一つ変えない藤田だったが、口調は少し軽いものが感じ取れた。
「あれ? これは……」
修は藤田の目の前に転がっている物に注目した。通常、外つ者は倒されると霧のように消えてしまう。しかし、今回はオトロシの体がぼやけたかと思うと、それまでの巨躯の代わりに小さな犬の剥製が姿を現した。
「ほう? どうやらこいつが外つ者の依り代となっていたようだな」
「藤田さん。これってもしかして展示品なんじゃ……」
「だろうな」
警備員でありながら展示品を傷つけてしまった藤田であるが、そんな事は全く気に留めてなさそうである。
「これ見て。この土偶、密売人が持っていた物に似てない?」
千祝が目ざとく床に転がっていた土偶を見つけて、修に示した。土偶は一つ一つ手作りなので、完全に一致するものではないが、その形は密売人が持っていた外つ者を封じたものに酷似していた。
「なるほど、これに封じられていた外つ者が、ここで解放されてこの犬の剥製に乗り移ってこの事態を引き起こしたってわけだな」
「そんなところだろう」
修の推測を藤田が認めてくれた。ということなら今回の事件はこれで解決なのかもしれない。
「待って! 何か足音が近づいて来ない?」
千祝が注意を促す声を上げた。耳を澄ませてみると確かに足音が近づいて来る。
「これは、人間の足音だろうな。察するに、そこそこ鍛えてはいるようだが……坊主達ほどじゃないな」
藤田は敵ではないと看破したのか、それほど警戒してはいないようだ。
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