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第十二話 尋問

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「そうなんですかー、それは大変でしたねー。じゃあなぜ街を探していたんですかー?」

 これは返答次第では味方にも敵にもなりうるやつだな。慎重に解答をしなければならないが、なんの理由もなく街を探して森を歩いていた、なんて答えたら怪しすぎる。ここは、

「このようなことを言うのは恥ずかしいのですが、私、気づいたらこの森で目が覚めたのです。今まで私が何をしていたのか記憶もなく、途方にくれて街を探しておりましたところ、疲れてねてしまってのでしょう」

 ここはもう正直に話すことにした。咄嗟に体の良い嘘なんて言えないし、そもそも情報量で負けているんだ。嘘をついても見破られるのがオチだろう。

「ふーん、じゃあ貴方はどっちの方向から来たのー?」

 この質問にも正直に答えたいのだが、寝てたからそんなことは覚えていない。これを言えたら相手の信頼も微増したかもしれないが、仕方がないだろう。

「す、すみません。先ほどまで寝てましたのであまりはっきりとしたことが分かりませんが、ぱっと見でこっちから来たような気はします。はっきり言って分かりませんが……」

「そっかそっかー。うん、この人嘘ついてないみたいだよ、レン、良かったねー。レンガ声かけようって言ったくせに全部僕に任せちゃうから、怪しかったら殺してたよ?」

 え!? な、何言ってんのこの子。かわいい顔して恐ろしいことサラッと言っちゃったよ!? それに声を掛けようとしたのはこのイケメンではなくて、奥のイケメンだったのか。どちらもイケメンすぎて羨ましいよ全く。

 これでどうせ強いスキルと剣技を身につけているんだろ? 俺なんて、全く……

「どうしたの? なんか悲しそうな顔してるけど、殺して欲しかったの?」

 あ、こいつヤバい、サイコパスだ。どう見てもイっちゃってる。俺が嫉妬するのならばせめて奥に控えている、奥の黒髪クールだな。その人ならまだカッコ良いと言う印象だけだ。

「あ、今変なこと考えてる? まあ、いいや貴方は面白かったので街まで連れてってあげましょう! 話しているときに悪意も嘘も感じられなかったですし、よかったですね~。少しの間ですがよろしくお願いしますよー!」

 なんだろう、この人、丁寧で優しそうなんだけど全く目が笑っていないというか、やはりサイコパスなんだろうか?

 それに、この人は悪意とか嘘がわかるのか? それは地味に、いや、めちゃくちゃ強い能力なんじゃないのか? 嘘つかなくてよかったな、情報量の差なんて関係なく物理的に見破られていたとか、ほんと首の皮一枚繋がった、って感じだな。

 その二人は馬車に乗っていた。俺もそれに乗せてもらい揺れること数十分、街に着いた。ここでお別れと言うことらしいが、最後に一言、俺に声をかけてきてくれた人の方から、言われた。

「あの森は宿魔の森、って呼ばれてるんです。その街に記憶を失ったまま生き残れる人が何人いるでしょう? 貴方は、強い、もしくは運がある。だけど、そんな素振りは全く見せなかった。
 僕の目が正しかったらまたどこかでお会いすることがあるでしょう。その時を楽しみにしていますよ」

 そういった彼の目は笑っていたように見えた。

 それにしても宿魔の森か……なんてところに初期スポさせてくれてんだあのジジイ。今度会ったら鉄パイプでぶん殴ってやる!

 
 あ、街に着いたからもう消えちゃうのか……
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