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三冊目
よんじゅう•たいが
しおりを挟むムク犬がくれた大切なあんパンを食べながら二人で観戦し、腹も気持ちも満たされた俺は、どうにかダメージから立ち直る事が出来た。
そうしているうちに午前の部の最終競技、ムク犬の弁当を賭けた大勝負、クラブ対抗レースの出番がやってきた。
自陣を離れ集合場所に向かう俺に、ムク犬が笑顔でエールを贈ってくれる。
「宍倉くん!僕、力いっぱい応援するからねっ!頑張って!」
ムク犬からのあんパンに、笑顔での声援。
これで力を出せなきゃ男が廃るってもんだ。
「ああ、必ず一着を獲って見せるよ。弁当楽しみにしてる」
俺に向かって両手を振り、送り出してくれるムク犬。その姿に笑顔で手を振り返し、俺は決戦に挑むべく待機場所へと向った。
各クラブの精鋭達が集まるその場所には、当然九条と熊谷の姿もある。二人の傍まで来ると、話し声が聞こえてきた。
「ふふふ~、やっとレースが始まるね~。むっくんのお弁当どんなのかな~」
二人の話題は当然、ムク犬の弁当の事だ。
「さあ。だがムクの事だから朝早くから一生懸命作ったんだろうよ」
ストレッチしながら熊谷に答える九条が、ムク犬の事を解ったように言う。それが当たっている事が、癪に障る。
「俺がリクエストした筑前煮とお稲荷さん作ってくれたかなぁ~。あ~楽しみ~」
「ムクは優しいからな。きっと全員の好物を作って来たんじゃねえか?」
あの弁当箱のでかさとムク犬の性格からして、九条の言う通りなんだろう。
「そっかぁ~、むっくんらしいよねぇ。でもさ~、仮に九条の好物も作ってもらえてたとしても、食べられるのは勝った奴だけだよね~」
「ああ、ムクがてめえの為に作った料理があったとしても、俺がてめえの前で全部食ってやるよ」
「それはこっちの台詞~。ねぇ王子?」
二人の台詞に心の中で頷いてると、熊谷が俺の方を振り返り、鋭い視線を向けながらそう言って来た。
「ふふふ~、可愛いむっくんが作ってくれた、大事な大事なお弁当が掛かってるんだもんね~。手加減なんてしないからねぇ」
挑発するように言葉を続ける熊谷と、無言で俺を睨み付けて来る九条。
九条は、ムク犬との朝の登校を邪魔されているせいもあって、俺に相当敵意を募らせているようだ。
だが俺も本気でムク犬を落とすと決めた以上、一歩も引く気はねぇよ。
「手加減出来るほど余裕があればいいがな?悪いが俺も本気で行かせて貰うぜ」
普段の優等生然とした笑顔をしまい込み、俺は奴らに向かってそう宣言する。
それを見た奴らは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにニヤリと笑った。
「…それが王子さまの本性ってワケか」
「やっぱり猫被ってたんだぁ~。じゃあ、ますます負けてなんてやれないよねぇ」
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