機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
124 / 146
第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

聖女の誤算

しおりを挟む
■ソフィア=アルベルティーニ視点

 ——ガアンッ!

「クソッ! あの男おおおおおおおおおお!」

 アデル様が私に一瞥もせずにこの地下水路から立ち去ってしまい、私はメイスを壁に思い切り叩きつけた。

 あの男……ジャックがアデル様を蹴飛ばして穴の中に落としたばかりか、そのせいで私はアデル様の信頼を一切失ってしまった。

 信じていたものに裏切られ、唯一の救いだったアデル様にも見捨てられた……!

 私は、これからどうすれば……。

「はあ……とんだ見込み違いだったわ」

 髪の毛をくしゃ、と掻きながら、カルラが溜息と共に呆れた表情で呟く。

「……どういう意味ですか?」
「どういう意味? 決まってるでしょ。アンタの立てた計画に乗ってみたら、アデルは完全にアンタと私を見限って、ここから立ち去ってしまったわ」

 私はカルラを睨みつけて問い質すと、恨みがましい瞳でこの私をねめつけながら、吐き捨てるように言った。

「全く……エリアル達を始末したところまでは良かったけど、あのジャックって男は結局裏切るし、オマケにあんなバケモノがいるなんて想定外だし……」

 そう……そうです!
 今回のことは私の予想の範疇を超えることばかり起こったのが原因です!

 “神の眷属”があんな昆虫モドキのバケモノだなんて経典には書いてませんでしたし、何より教皇猊下は、そんなこと一言も仰っておられませんでした!

 つまり、教皇猊下ですら知らないことを、この私が分かる訳がないのです!

 そして……ジャック。
 あの男は、せっかく私がお膳立てして彼女……あのメイドとの仲を取り持ってあげるといったのに、むしろ修復不可能となるような真似をしでかすなんて……。

 あまりの怒りに、ジャックをメイスでグチャグチャにしてやろうと思ったのに、メイドが穴の中に飛び込んでしまったら、あれ程ヘラヘラしてたアイツが急に真顔で、無言のまま逃げ去ってしまったのですから……。

 ですが。

「くふ♪ ……次に出会ったら、確実に潰してやりますけどね……」
「それより、これからどうするの? アデルもさっさと出て行っちゃったし、もうなりふり構ってられないんだけど」

 シラけた表情で、カルラが私を見やる。
 ……ただの捨て駒のくせに、少々生意気ですね。

「くふ……とりあえずこんなことになった以上、一度教皇猊下にご報告と今後の方針について相談しないといけません。なので、港湾都市“ブラムス”から海路で大陸に渡り、ファルマ聖法国に戻ります」
「あ、そう。じゃ、私はここまでね」

 そう言うと、カルラは手をヒラヒラさせてここから立ち去ろうとする。

「お待ちなさい」

 そんなカルラを、私は呼び止める。
 だって、彼女にはまだ何一つ役目を果たしてもらってないから。

「……何?」
「あなたにも、ファルマ聖法国まで一緒に来てもらいますよ」
「はあ?」

 私がそう告げると、カルラは小馬鹿にするような表情で私に詰め寄ってくると。

「なんで私がアンタのお守りをしなきゃいけない訳? 私は今すぐにでもアデルのところに行って、身の潔白を証明しなきゃいけないの」
「くふ♪ 身の潔白?」

 カルラの言葉があまりにも滑稽で、私は思わずわらってしまった。
 だって……今さらこの女に、私の・・アデル様が振り向く訳がないのに。

「……何がおかしいの?」
「くふ♪ だってそうじゃないですか。今アデル様の元に行ったところで、全く話も聞いてもらえないまま、それこそあのライラさんとハンナさんに酷い目に遭わされるのがオチですよ?」

 ジロリ、と睨むカルラに向け、私はクスクスとわらう。
 とはいえ、この女はまだ私がアデル様と一緒になるために必要であるのも事実。

 だから。

「なので、この私と共に行動したほうが、あの二人を排除しつつアデル様に振り向いてもらえる機会が来る可能性は高いと思いませんか? だって、この私は[聖女セイント]なのですから」

 そう……私は[聖女セイント]。
 ファルマ聖教のシンボルにして、全ての信者を神へと導く選ばれし者。

 この私の価値は、この世界では計り知れないのです。

 なら、聡明なるアデル様ならお分かりになる筈。

 アデル様にとって、誰が必要なのか。
 アデル様にとって、誰が救ってくれるのか。

「くふ♪ どうしますか?」

 私は口の端にピン、と立てた人差し指をそっと当て、この女に問い掛ける。

「……分かったわ。今はまだ、あなたに従ってあげる」
「くふ♪ 賢明です」

 さて……この女のせいで余計な時間をくってしまいました。
 早くこの街から離れ、急いでこの国を出ないと……。

 そう考えた瞬間、私の背中に悪寒が走る。

 あのバケモノが、本当に“神の眷属”だというのなら。

「“ア=ズライク”と“ベヘ=モト”……」

 アルビオニア島を統一した時に現れたという、二つの“神の眷属”。

 ——それが現れる可能性がある、ということなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。

珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...