機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
89 / 146
第四章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 前編

書斎探索①

しおりを挟む
「うーん……特に何も見つかりませんねえ……」

 本棚から取り出した本をパラパラとめくりながら、僕はそう呟く。

 先代伯爵様の書斎に来た僕達は、早速四人で手分けしてソフィア様の言う『天国への階段』の手掛かりを探してもう数刻が過ぎ、お蔭で外もすっかり暗くなっていた。

「とりあえずこんな時間ですので、夕食にいたしましょう……」

 少し肩を落とし、ライラ様がそう告げる。

「では、すぐにご用意いたしますので、お嬢様とソフィア様はそれまでおくつろぎくださいませ」

 ハンナさんが優雅にカーテシーをすると。

「「あれ? アデル様は?」」

 ライラ様とソフィア様が口を揃えて不思議そうに尋ねる。

「あ、あはは……僕は侍従ですので……」

 僕は苦笑しながら頭を掻く。
 というか、ライラ様は僕がそういう設定・・・・・・だということはご存知ですよね?

「うふふ、お二人を待たせてもいけませんので、早く準備に取り掛かりましょう」
「わ! ハンナさん!?」

 そう言うと、ハンナさんは微笑みながら僕の右腕をグイ、と引っ張り、僕は少しよろけてしまい……。

 ——ムニュ。

「あ……うふふ♪」

 咄嗟とっさに出した左腕が、ハンナさんの胸をつかんでしまった!?

「あ、あああああ!? すいませんすいません!」

 僕は慌てて左手を引っ込める。

「うふふ、大丈夫ですよ……アデル様なら(ボソッ)」

 頬を赤くしたハンナさんがはにかむ。
 うう……何というか、その……申し訳ないと思いつつも、ハンナさんが可愛くて仕方ない……。

 すると。

「むううううううううううううううう!」

 あ、はい、ライラ様が頬をプクーと膨らませておりました。

「アデル様、私の胸も負けておりません」

 何故か対抗意識を燃やしたソフィア様が、見事な双丘をグイ、と突き出した……って、何してるんですか!?

「そそ、それでは失礼します!」
「「あ!」」

 僕はハンナさんの手を取り、声を上げるライラ様とソフィア様を無視して書斎を出た。

「ふう……あ、あははー、参りましたね……」

 僕は額を流れる冷や汗をグイ、と腕でぬぐい、苦笑しながらハンナさんに話し掛ける。

「……わ、私の胸でよろしければ、いつでも……」
「ああああああああああ!?」

 潤んだ瞳で、グッと両腕で胸を持ち上げるハンナさんに恥ずかしくなり、僕は一人ダッシュで厨房へ逃げた。

 ……まあ、結局はハンナさんと合流するんだけどね。

 ◇

「ご馳走様でした」

 食事を終えたソフィア様が、ナプキンで口を拭く。

「ふふ、ソフィア様のお口に合いましたでしょうか?」
「はい、大変美味しかったです」

 ライラ様が尋ねると、ソフィア様はニコリ、と微笑みながら賛辞を述べた。

「ですが……」

 すると、ソフィア様はチラリ、と僕の顔を覗き込む。
 その表情は、少し心配をしているように見受けられた。

「ああ、僕達は後でいただきますので。ね、ハンナさん」
「うふふ……はい」

 ティーカップに紅茶を注ぎながら、ハンナさんが頷く。

「それよりも、この後も書斎で手掛かりを探しますか?」
「はい。一刻も早く、『天国への階段』の調査に乗り出したいですので」

 僕の問い掛けに、さも当然とばかりにソフィア様は頷く。
 そしてそれは、ライラ様も同じ思いらしく、ソフィア様と同様にウンウン、と頷いていた。

「分かりました。僕とハンナさんも後片づけが終わり次第、そちらに加わりますので」
「「はい!」」

 ライラ様とソフィア様が嬉しそうに返事する。
 というかこの二人、意外と仲が良い?

 ということで、ライラ様とソフィア様は席を立ち、また書斎へと向かって行った。

「うふふ、お嬢様も必死ですね」

 二人が出て行った扉を見つめながら、ハンナさんがクスリ、と微笑みながらそう呟いた。

「ええと……それはどういうことですか?」

 僕は意味が分からず、ハンナさんに尋ねる。

「お嬢様は、早くその『天国への階段』というものを見つけて、ソフィア様にここから立ち去って欲しいのですよ」
「ああー……」

 そうかー、だからライラ様はこんなに頑張ってたのかー……って。

「ですが、見ている限りは二人共仲が良さそうですけど?」
「あくまでも表面上は、ですね。二人共、隙あらばアデル様に手を出そうとするので、お互い牽制し合っている、といったところでしょうか?」
「あ、あははー……」

 ハンナさんの言葉に、僕は苦笑するしかなかった。

「それにしても……ソフィア様はなんでそこまで僕に興味を持ったのでしょうか?」
「さあ……」

 これには僕もハンナさんも首を傾げるばかりだ。
 あの王都の噴水での一件があったとはいえ、それだけでここまであの[聖女セイント]様に懐かれるなんて到底思えない。

 それに……。

「……ハンナさん。いずれにせよ、あのソフィア様からは目を離さないようにしましょう」
「……それはどうしてですか?」

 ハンナさんが訝し気な表情で尋ねる。

「はい……なんとなく、ではあるのですが……どうしても気になってしまって……」
「そうですか……」

 ハンナさんはそれ以上僕に聞いてくることはなかったが、どこか腑に落ちないといった感じだった。
 僕もハッキリと説明できればいいんだけど、応接室を出る時のソフィア様の表情……だけではさすがに説明もつかない。

 とはいえ、警戒しておくに越したことはない。

 万が一、ソフィア様がライラ様とハンナさんに危害を加えるような真似をするのであれば……。

 ——その時は、容赦はしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...