機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
72 / 146
第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ

高みの見物

しおりを挟む
■ハリー=カベンディッシュ視点

 次の日の早朝。

 私は王宮へと向かい、陛下への謁見を求める。

「少々お待ちください」

 侍従に案内された待合室の椅子に腰掛け、謁見の時を待つ。

 窓には朝の陽の光が差し込んでいるが、家具や調度品から伸びる影はまだかなり長い。
 さすがに早すぎたかな……。

 すると。

「お待たせいたしました。陛下はすぐにお会いになるそうです」
「うむ」

 意外にも、陛下への謁見はすぐに認められた。
 まあ、こんな早朝に来たから陛下も何事かと思われたのかもしれない。

 とはいえ、陛下のその判断は間違いではないが。

「失礼いたします」

 謁見室の扉が開き、私はうやうやしく一礼した後、室内へと入る。

「うむ。それでこんな朝早くに何用だ?」
「はっ! 実は、ライラ=カートレット伯爵及びその一味について、陛下のお耳にはさんでおきたいことがございます」
「ふむ……何だ?」

 ライラ=カートレットの名前を出した途端、陛下は自慢の顎髭あごひげをいじりながら、ほんの僅か身を乗り出して興味深そうに話の続きを促した。

「はっ! ライラ=カートレット伯爵の失った両腕及び両脚の製作者が判明いたしました」
「……何だと?」

 陛下はジロリ、と私を睨む。
 だが非常に興味を惹かれたのか、その瞳は爛爛らんらんと輝いていた。

「ライラ=カートレット伯爵の一味を監視していた“ジャック”からの報告です。彼女の傍にいる元冒険者の男が、不思議な能力を使ったとのことです」
「具体的には?」
「はっ! その男は、ライラ=カートレット伯爵がジャックと会敵した際にも傍におり、突然、床から壁を出現させたとのことです。他にも、ジャックの仕掛けた罠を一瞬で無効化、一味の一人である侍女が持つ武器も、あり得ない程の性能を有していたとのことです」
「うーむ……」

 ここまで一気に説明すると、王は髭を撫でながら深く考え込む。

 確かに、普通に聞いていればただの与太話に聞こえなくもない。
 だが、この情報があの・・ジャックからもたらされたとなれば、話は別だ。

 “仕事”に関しては絶対であるあの男の言葉なのだから、それは間違いなく事実なのだ。

「……そして、昨日私も王都にあるレストランでライラ=カートレット伯爵達とたまたま・・・・遭遇しましたが、やはり彼女の白銀の腕は、常人と何ら変わらないものでした」
「そうか……」

 追い打ちをかけるように続けた言葉に、陛下は静かに目を閉じた後、軽く頷いた。

 そして。

「相分かった。ならば、そのライラ=カートレットの傍にいるという冒険者崩れの男を、何としても確保せよ」
「かしこまりました。それで……」
「無論、どのような手段を用いても構わん」
「はっ!」

 私は陛下に深々と頭を下げると、謁見室を出ようとして。

「失礼いたします」

 そこへ、何故か[聖女セイント]であるソフィア=アルベルティーニ殿が謁見室へと入ってきた。

「おお……これはソフィア殿、いかがなされた」
「はい。お二人がお話をされている中、大変失礼だとは思ったのですが、どうしてもお伺いしたいことがございまして」

 そう言うと、ソフィア殿は陛下と私を交互に見やった。

「それで?」
「はい。例のアイザックの街の領主様とご一緒されている冒険者の方について、ぜひとも私とお引き合わせいただきたいのです」
「「っ!?」」

 ソフィア殿の言葉に、私と陛下は同時に息を飲んだ。
 一体何故ソフィア殿はあの男の情報を知って……っ!?

 ……そうか、ソフィア殿もジャックと通じていたのだったな。
 ならば、ジャックから聞かされたと考えるのが自然、だな……。

「……何故そのようなことを?」
「はい。アイザックの街に眠る『天国への階段』……ここに至るためには、恐らくその方の持つ能力が必要になるものと考えております。これは、ファルマ聖法国が正式に依頼したものとして受け取っていただいて構いません」
「「…………………………」」

 そう言って微笑むソフィア殿に、陛下も私も、ただ無言を貫く。

 どうする……? あの男の能力は非常に魅力的だが、ここでファルマ聖法国と事を構える訳にもいかない。

 すると。

「……うむ。こちらでその者を迎えた暁には、ソフィア殿に引き合わせよう」
「っ!?」
「ありがとうございます」

 陛下が快諾すると、ソフィア殿はお礼の言葉と共に頭を下げる。
 だが……陛下は何をお考えなのか……。

「ただし」
「……ただし?」
「あくまでも、その者がソフィア殿に協力することを承諾した場合のみである」

 成程……さすがは陛下、ソフィア殿に引き合わせる前にその男を懐柔……あるいは洗脳し、ソフィア殿の協力を認めないおつもりか。

「はい、それで構いません」
「うむ。ではそのようにしようではないか」

 そして、陛下とソフィア殿はお互い微笑み合う。
 その間には、国家間の見えない応酬が繰り広げられていることを、私は肌で感じていた。

 ◇

「宮廷魔法師団長“ニール=カルドア”、参りました」
「同じく近衛騎士団長“ドナルド=クレブス”、参りました」
  
 宮廷魔法使いと近衛騎士の長が呼び出しに応じ、それぞれ王宮の入口で控えている私の元へとやって来た。
  
「うむ、ご苦労」
「それで、我々を呼ばれたご用件は?」
「先に伝えている通り、これから召集命令を受けたライラ=カートレット伯爵とその一味がこの王宮へとやって来る」
「「ハッ!」」
「それで、だ。ライラ=カートレット伯爵の一味のうち、男については保護するように」
「保護……ですか……?」
  
 私の指示に、二人は訝し気な表情を見せる。
  
「うむ。これは、『ライラ=カートレット伯爵に騙されている可能性が高いこの男は、無実の者として温情を与えよ』との勅命である」
「おお……陛下がそのようなことを……!」
  
 近衛騎士団長は、陛下の温情に心を打たれたようで、感嘆の声を漏らした。
 一方の宮廷魔法師団長はといえば、そんな話を信じていないのか、静かに目を瞑っている。
  
「それ以外は、既に伝えている通りである。ライラ=カートレット伯爵とその従者がこの門をくぐり次第、全力をもって粛清せよ!」
「「ハッ!」」
  
 二人は敬礼したのち、自分達の持ち場へと戻って行った。
 特に近衛騎士団長の意気込みはすごく、一歩一歩力強く踏み締めていた。
  
 まあ……彼も私と同じく、敬愛するゴドウィン配下の騎士団長がライラ=カートレットによって殺されたのだ。それも頷けるというもの。
  
「さあ……私は王宮の部屋の中から、高みの見物と参ろうか。ジェームスの仇、ここで取らせてもらうぞ!」
  
 私は万全の布陣を眺めながらゆっくりと王宮の中へと入り、王宮の正門が最もよく見える部屋の椅子に腰掛けた。
  
 そして。
  
 ——ライラ=カートレットと侍女、そして元冒険者の男が、白銀の馬車から降りて姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...