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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ
拉致
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「ふふ、美味しいですね」
ヘイドンの街に滞在して五日目。
僕達は今日もあの屋台で買ったお菓子を食べている。
「ですが、二人共本当にそのお菓子を気に入りましたね」
「「はい♪」」
うん、まあ……二人が幸せそうで何よりです……って。
「ライラ様、ちょっと失礼しますね」
「? ……………………あ」
僕はライラ様の口の周りに付いていた生クリームを指で拭き取ると、その指をくわえて舐め取った。
「あう……アデル様はいつも無自覚にそうやって……」
するとライラ様は、顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
少し子ども扱いしてしまったから、怒ってしまったのかな……。
「……お嬢様、少々あざといのではないのでしょうか」
指で眼鏡をクイ、と持ち上げ、ハンナさんがジト目でライラ様を見るけど、何で!?
その時。
「はむ!」
「「「あっ!」」」
突然現れたメルが、僕のお菓子にかぶりついた。
「へへーん! 油断するニーチャンが悪いんだよ!」
「コノヤロー!」
鼻をこすりながら笑顔で逃げるメルに、僕は笑いながら抗議した!
メルもあの日以降、かなり明るくなったような気がする。
初めて出会ったあの時は、メルの瞳に余裕なんて何一つなかったからなあ……。
「……メルには少々お仕置きが必要ですね」
「同感です、お嬢様」
だけど、どうやら二人には子どもの無邪気ないたずらはお気に召さなかったようだ……。
「ま、まあまあ、男の子のいたずらなんて、可愛いものじゃないですか……」
「「ハア!? 何を言っているのですか!?」」
な、何故か二人に怒られてしまった……。
「はあ……アデル様には、もう少し目を養っていただく必要がありますね……」
「本当です……そうでないと、私達は休まることができませんから……」
二人から、非常に残念なものを見るような視線を送られてしまった。
じょ、女性のことはよく分からない……。
あ、そうだ。
「ライラ様、ハンナさん、せっかくなのでこのお菓子をあの子達にも食べさせてあげてはいかがでしょうか? メルも美味しそうにしてましたし」
「お嬢様、そうしましょう。そして、もう二度とあんな真似をしないよう、メルに釘を刺しておくのです」
「それは妙案です!」
も、目的は違うけど、どうやら二人共賛成みたいだ。
ということで。
「すいませんが、お菓子をあと八……「「私も食べます!」」……十個作ってもらっていいですか……?」
「あいよ!」
親父さんは威勢よく返事すると、手際よく次々と小麦粉の生地を焼いていく。
そして、あっという間にお菓子を十個用意してくれた。
「へい! お待ち!」
「あ、ありがとうございます」
お代を払ってお菓子を受け取ると、僕達は屋台を後にして地下水路へと向かう。
「あれ? あの子は……」
地下水路の入口のところに男の子……テオが一人立っていた。
「やあ、テオ」
「っ!? あ、は、はい……」
声を掛けると、テオは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、どこか気まずそうに俯いてしまった。
前もおどおどしていたし、結構人見知りなのかな……。
「ええと、メルや他のみんなは中にいる?」
「あ、うん……た、多分……」
「そっか。あ、これ」
僕はテオにお菓子を一つ渡す。
「これは……」
「あはは、おすそ分けだよ」
そう言うと、何故かテオは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「あ、ありがとうございます……!」
「あ、テオ……」
テオはお菓子を持ったまま、ここから走り去ってしまった。
「どうしたんだろう……?」
僕はテオが消えた建物の角を眺めながら、首を傾げた。
「アデル様、早く行きましょう」
「あ、はい」
ライラ様に促されて僕も地下水路の中へと入り、子ども達のねぐらへと目指した。
だけど。
「誰もいない……」
どういうことだ?
子ども達は人攫いの連中を警戒して、メルとテオ以外はここで隠れている筈……。
「お嬢様! アデル様!」
ハンナさんが突然僕達を呼んだ。
「どうしました!?」
「これを……!」
ハンナさんが指差すところに明かりを照らしてみると……これは、血痕……!?
「っ!? ま、まずい! 子ども達が攫われた!」
「やっぱり……! 急ぎましょう!」
僕達は大急ぎで地下水路から出ると。
「僕は北門を見てきます! ライラ様は南門を! ハンナさんは街の人に聞き込みをお願いします!」
「「はい!」」
そう指示を出すと、僕達は弾かれたようにそれぞれの場所に向かう。
そして、街の北門に着いた僕は、辺りをくまなく見回すが……クソツ! どこにもそれらしき連中は見当たらない!
「す、すいません! この門を怪しい男達か、もしくは大型の馬車が通ったりしませんでしたか?」
「い、いや、そんな連中は見てないが……お前は知ってるか?」
「俺も見てないなあ……」
北門を護る衛兵二人に尋ねるが、二人共目撃していないようだ。
その様子からも嘘を言っているようには見えないし……。
「あ、ありがとうございました!」
「「お、おう……」」
衛兵に礼を言うと、今度は街の広場へと向かう。
住民の誰かに目撃者がいるかもしれない……とにかくハンナさんと合流しよう。
「あ! アデル様!」
「ハンナさん! どうですか?」
「駄目です! 誰も目撃している人はいません! そちらは?」
「こちらも同じです! 衛兵にも聞いてみましたが、そんな連中は門を通過していないと!」
クソツ! 誰か一人くらい目撃してると思ったのに……!
その時。
「アデル様! ハンナ!」
ライラ様も広場へとやって来た。
ただし……その白銀の手でテオを引きずって。
ヘイドンの街に滞在して五日目。
僕達は今日もあの屋台で買ったお菓子を食べている。
「ですが、二人共本当にそのお菓子を気に入りましたね」
「「はい♪」」
うん、まあ……二人が幸せそうで何よりです……って。
「ライラ様、ちょっと失礼しますね」
「? ……………………あ」
僕はライラ様の口の周りに付いていた生クリームを指で拭き取ると、その指をくわえて舐め取った。
「あう……アデル様はいつも無自覚にそうやって……」
するとライラ様は、顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
少し子ども扱いしてしまったから、怒ってしまったのかな……。
「……お嬢様、少々あざといのではないのでしょうか」
指で眼鏡をクイ、と持ち上げ、ハンナさんがジト目でライラ様を見るけど、何で!?
その時。
「はむ!」
「「「あっ!」」」
突然現れたメルが、僕のお菓子にかぶりついた。
「へへーん! 油断するニーチャンが悪いんだよ!」
「コノヤロー!」
鼻をこすりながら笑顔で逃げるメルに、僕は笑いながら抗議した!
メルもあの日以降、かなり明るくなったような気がする。
初めて出会ったあの時は、メルの瞳に余裕なんて何一つなかったからなあ……。
「……メルには少々お仕置きが必要ですね」
「同感です、お嬢様」
だけど、どうやら二人には子どもの無邪気ないたずらはお気に召さなかったようだ……。
「ま、まあまあ、男の子のいたずらなんて、可愛いものじゃないですか……」
「「ハア!? 何を言っているのですか!?」」
な、何故か二人に怒られてしまった……。
「はあ……アデル様には、もう少し目を養っていただく必要がありますね……」
「本当です……そうでないと、私達は休まることができませんから……」
二人から、非常に残念なものを見るような視線を送られてしまった。
じょ、女性のことはよく分からない……。
あ、そうだ。
「ライラ様、ハンナさん、せっかくなのでこのお菓子をあの子達にも食べさせてあげてはいかがでしょうか? メルも美味しそうにしてましたし」
「お嬢様、そうしましょう。そして、もう二度とあんな真似をしないよう、メルに釘を刺しておくのです」
「それは妙案です!」
も、目的は違うけど、どうやら二人共賛成みたいだ。
ということで。
「すいませんが、お菓子をあと八……「「私も食べます!」」……十個作ってもらっていいですか……?」
「あいよ!」
親父さんは威勢よく返事すると、手際よく次々と小麦粉の生地を焼いていく。
そして、あっという間にお菓子を十個用意してくれた。
「へい! お待ち!」
「あ、ありがとうございます」
お代を払ってお菓子を受け取ると、僕達は屋台を後にして地下水路へと向かう。
「あれ? あの子は……」
地下水路の入口のところに男の子……テオが一人立っていた。
「やあ、テオ」
「っ!? あ、は、はい……」
声を掛けると、テオは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、どこか気まずそうに俯いてしまった。
前もおどおどしていたし、結構人見知りなのかな……。
「ええと、メルや他のみんなは中にいる?」
「あ、うん……た、多分……」
「そっか。あ、これ」
僕はテオにお菓子を一つ渡す。
「これは……」
「あはは、おすそ分けだよ」
そう言うと、何故かテオは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「あ、ありがとうございます……!」
「あ、テオ……」
テオはお菓子を持ったまま、ここから走り去ってしまった。
「どうしたんだろう……?」
僕はテオが消えた建物の角を眺めながら、首を傾げた。
「アデル様、早く行きましょう」
「あ、はい」
ライラ様に促されて僕も地下水路の中へと入り、子ども達のねぐらへと目指した。
だけど。
「誰もいない……」
どういうことだ?
子ども達は人攫いの連中を警戒して、メルとテオ以外はここで隠れている筈……。
「お嬢様! アデル様!」
ハンナさんが突然僕達を呼んだ。
「どうしました!?」
「これを……!」
ハンナさんが指差すところに明かりを照らしてみると……これは、血痕……!?
「っ!? ま、まずい! 子ども達が攫われた!」
「やっぱり……! 急ぎましょう!」
僕達は大急ぎで地下水路から出ると。
「僕は北門を見てきます! ライラ様は南門を! ハンナさんは街の人に聞き込みをお願いします!」
「「はい!」」
そう指示を出すと、僕達は弾かれたようにそれぞれの場所に向かう。
そして、街の北門に着いた僕は、辺りをくまなく見回すが……クソツ! どこにもそれらしき連中は見当たらない!
「す、すいません! この門を怪しい男達か、もしくは大型の馬車が通ったりしませんでしたか?」
「い、いや、そんな連中は見てないが……お前は知ってるか?」
「俺も見てないなあ……」
北門を護る衛兵二人に尋ねるが、二人共目撃していないようだ。
その様子からも嘘を言っているようには見えないし……。
「あ、ありがとうございました!」
「「お、おう……」」
衛兵に礼を言うと、今度は街の広場へと向かう。
住民の誰かに目撃者がいるかもしれない……とにかくハンナさんと合流しよう。
「あ! アデル様!」
「ハンナさん! どうですか?」
「駄目です! 誰も目撃している人はいません! そちらは?」
「こちらも同じです! 衛兵にも聞いてみましたが、そんな連中は門を通過していないと!」
クソツ! 誰か一人くらい目撃してると思ったのに……!
その時。
「アデル様! ハンナ!」
ライラ様も広場へとやって来た。
ただし……その白銀の手でテオを引きずって。
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