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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
ハンナさんへのお願い
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「それでアデル様、本日はどのようになさるのですか?」
次の日の朝、朝食を食べながらライラ様が尋ねる。
「はい、今日もギルドに行って情報収集と、昨日製作した武器の性能の確認をしようかと。それと……」
「それと?」
言い淀む僕に、ライラ様が身を乗り出して聞いてくるけど……ど、どうしようか……。
「うふふ……お嬢様、早くお召し上がりになりませんと、時間がもったいないですよ?」
「わ、分かっています……」
ライラ様はプイ、と顔を背けると、ハンナさんがクスクスと笑った。
うん……ライラ様は表情こそ変わらないけど、表現は豊かだなあ……。
いつか……ライラ様も笑える日が来ればいいな……。
「(夜は私がお嬢様を引き留めておきますので……)」
お嬢様を眺めていた僕に、ハンナさんが耳打ちする。
どうやら、僕の意図を汲み取ってくれたようだ。
「(ありがとうございます)」
「(いえいえ……必要、ですものね)」
ハンナさんはクスリ、と含みのある笑みを浮かべ、そっと僕の傍から離れた。
あれ? 何か勘違いされてる気が……ま、まあいいか。
その後、手早く朝食を済ませた僕達は、ギルドへ……行けずにいた。
「……なんで“ジェイコブ”叔父様がいらっしゃるのですか……?」
「……どうやら、どこからか昨日のギルドでの一件を聞きつけたようです」
ライラ様とハンナさんがガッカリした様子で話しているけど……。
「あの……その“ジェイコブ叔父様“というのは、ひょっとして……」
「アデル様もご存知なのですか?」
「ああいえ、僕は噂程度ですが……」
そう……その名前は、あの依頼を受ける前に酒場のマスターとハンナさんに教えてもらった。
ご両親を亡くされ、手脚をもがれたライラ様に成り代わり、カートレット伯爵家を乗っ取ろうと画策していると。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「はい……さすがに、会わない訳にはいかないかと……」
表情こそ変わらないが、ライラ様は明らかに嫌がっている。
それは、隣にいるハンナさんも同様だ。
「それもそうなのですが、その……両腕と両脚のことは……?」
「そうですよね……」
僕の言葉に、二人は盛大にうなだれる。
「でしたら提案ですが……その腕と脚は、あくまで動かない義手と義足であることにしておきましょう」
「それは、どうしてでしょうか? むしろ健在であると知らしめたほうが、ジェイコブ様も諦めがつくかと思いますが……」
僕の言葉に、ハンナさんが難色を示した。
まあ、ハンナさんの言うことにも一理ある。
でも。
「いえ……ハンナさんもご存知ですよね? ライラ様の目的を」
「「っ!?」」
僕の言葉に、ライラ様とハンナさんが息を飲む。
そう……ライラ様の目的は、ご両親を殺し、ライラ様をこんな姿にした者全てを皆殺しにすること。
それが、たとえどんな相手であっても。
「……では、アデル様はジェイコブ叔父様が怪しい、と……?」
「いえ、まだはっきりとは……ですが、よく考えてください。ライラ様のご両親がお亡くなりになり、ライラ様自身もこのようになられた中、誰が一番得をするのか」
もちろん、何の確証もない話ではあるけど……それでも、疑ってかかるに越したことはない。
というか、僕の中では最も怪しいけどね。
「……私もそのように考えなかった訳ではありませんが、それでも、実の兄の家族を、平気で殺したりするようなものなのでしょうか……」
「お嬢様、それが“貴族”というものです」
ライラ様がポツリ、と呟くが、その言葉に答えたのは、僕ではなくハンナさんだった。
それも、さも当然と言わんばかりに。
「とにかく、あえてこちらの手の内を見せる必要はありません。動けないフリをして、その叔父のジェイコブ氏と面会するようにしましょう」
「「はい」」
僕の言葉に、二人が頷いた。
「そ、それで、もしよろしければ……アデル様もご同席いただけませんでしょうか……?」
ライラ様が、おずおずとお願いするけど。
「いえ、僕は隣の部屋におります。僕の姿を見て、変に誤解や警戒をされても困りますから」
「そ、そうですか……」
ライラ様の尻尾の幻影が思い切り垂れ下がってしまっている……。
「そ、そうですね、この面会が終わったら、せっかくですのでギルドに行く途中で美味しいお菓子でも食べに行きましょうか」
「! ほ、本当ですか!」
「え、ええ……」
ライラ様が急に右の瞳を輝かせて身を乗り出した。
はは……僕もライラ様には甘いなあ……。
「アデル様……」
すると、今度はハンナさんが不安そうな顔を見せていた。
「ああ、ハンナさん……実はお願いが……」
「お願い、ですか……?」
訝し気な表情で尋ねるハンナさん。
「ええ……(ゴニョゴニョ)」
「……ええっ!?」
僕はハンナさんに、そっと耳打ちすると、ハンナさんは驚きの声を上げた。
「で、ですがそのようなこと……!?」
「ハンナさん、ライラ様の想いを果たすためには、とても重要なんです。どうかお願いします!」
僕はハンナさんに深々と頭を下げる。
すると。
「はあ……仕方ありませんね……」
「! ありがとうございます!」
僕はハンナさんの手を取り、心からの感謝を述べた。
よし……これで少なくとも、前に進むことができる筈! ……って。
「え、ええと……?」
見ると、ハンナさんが頬を染めて恥ずかしそうに俯き、ライラ様は頬をパンパンに膨らませていた。
次の日の朝、朝食を食べながらライラ様が尋ねる。
「はい、今日もギルドに行って情報収集と、昨日製作した武器の性能の確認をしようかと。それと……」
「それと?」
言い淀む僕に、ライラ様が身を乗り出して聞いてくるけど……ど、どうしようか……。
「うふふ……お嬢様、早くお召し上がりになりませんと、時間がもったいないですよ?」
「わ、分かっています……」
ライラ様はプイ、と顔を背けると、ハンナさんがクスクスと笑った。
うん……ライラ様は表情こそ変わらないけど、表現は豊かだなあ……。
いつか……ライラ様も笑える日が来ればいいな……。
「(夜は私がお嬢様を引き留めておきますので……)」
お嬢様を眺めていた僕に、ハンナさんが耳打ちする。
どうやら、僕の意図を汲み取ってくれたようだ。
「(ありがとうございます)」
「(いえいえ……必要、ですものね)」
ハンナさんはクスリ、と含みのある笑みを浮かべ、そっと僕の傍から離れた。
あれ? 何か勘違いされてる気が……ま、まあいいか。
その後、手早く朝食を済ませた僕達は、ギルドへ……行けずにいた。
「……なんで“ジェイコブ”叔父様がいらっしゃるのですか……?」
「……どうやら、どこからか昨日のギルドでの一件を聞きつけたようです」
ライラ様とハンナさんがガッカリした様子で話しているけど……。
「あの……その“ジェイコブ叔父様“というのは、ひょっとして……」
「アデル様もご存知なのですか?」
「ああいえ、僕は噂程度ですが……」
そう……その名前は、あの依頼を受ける前に酒場のマスターとハンナさんに教えてもらった。
ご両親を亡くされ、手脚をもがれたライラ様に成り代わり、カートレット伯爵家を乗っ取ろうと画策していると。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「はい……さすがに、会わない訳にはいかないかと……」
表情こそ変わらないが、ライラ様は明らかに嫌がっている。
それは、隣にいるハンナさんも同様だ。
「それもそうなのですが、その……両腕と両脚のことは……?」
「そうですよね……」
僕の言葉に、二人は盛大にうなだれる。
「でしたら提案ですが……その腕と脚は、あくまで動かない義手と義足であることにしておきましょう」
「それは、どうしてでしょうか? むしろ健在であると知らしめたほうが、ジェイコブ様も諦めがつくかと思いますが……」
僕の言葉に、ハンナさんが難色を示した。
まあ、ハンナさんの言うことにも一理ある。
でも。
「いえ……ハンナさんもご存知ですよね? ライラ様の目的を」
「「っ!?」」
僕の言葉に、ライラ様とハンナさんが息を飲む。
そう……ライラ様の目的は、ご両親を殺し、ライラ様をこんな姿にした者全てを皆殺しにすること。
それが、たとえどんな相手であっても。
「……では、アデル様はジェイコブ叔父様が怪しい、と……?」
「いえ、まだはっきりとは……ですが、よく考えてください。ライラ様のご両親がお亡くなりになり、ライラ様自身もこのようになられた中、誰が一番得をするのか」
もちろん、何の確証もない話ではあるけど……それでも、疑ってかかるに越したことはない。
というか、僕の中では最も怪しいけどね。
「……私もそのように考えなかった訳ではありませんが、それでも、実の兄の家族を、平気で殺したりするようなものなのでしょうか……」
「お嬢様、それが“貴族”というものです」
ライラ様がポツリ、と呟くが、その言葉に答えたのは、僕ではなくハンナさんだった。
それも、さも当然と言わんばかりに。
「とにかく、あえてこちらの手の内を見せる必要はありません。動けないフリをして、その叔父のジェイコブ氏と面会するようにしましょう」
「「はい」」
僕の言葉に、二人が頷いた。
「そ、それで、もしよろしければ……アデル様もご同席いただけませんでしょうか……?」
ライラ様が、おずおずとお願いするけど。
「いえ、僕は隣の部屋におります。僕の姿を見て、変に誤解や警戒をされても困りますから」
「そ、そうですか……」
ライラ様の尻尾の幻影が思い切り垂れ下がってしまっている……。
「そ、そうですね、この面会が終わったら、せっかくですのでギルドに行く途中で美味しいお菓子でも食べに行きましょうか」
「! ほ、本当ですか!」
「え、ええ……」
ライラ様が急に右の瞳を輝かせて身を乗り出した。
はは……僕もライラ様には甘いなあ……。
「アデル様……」
すると、今度はハンナさんが不安そうな顔を見せていた。
「ああ、ハンナさん……実はお願いが……」
「お願い、ですか……?」
訝し気な表情で尋ねるハンナさん。
「ええ……(ゴニョゴニョ)」
「……ええっ!?」
僕はハンナさんに、そっと耳打ちすると、ハンナさんは驚きの声を上げた。
「で、ですがそのようなこと……!?」
「ハンナさん、ライラ様の想いを果たすためには、とても重要なんです。どうかお願いします!」
僕はハンナさんに深々と頭を下げる。
すると。
「はあ……仕方ありませんね……」
「! ありがとうございます!」
僕はハンナさんの手を取り、心からの感謝を述べた。
よし……これで少なくとも、前に進むことができる筈! ……って。
「え、ええと……?」
見ると、ハンナさんが頬を染めて恥ずかしそうに俯き、ライラ様は頬をパンパンに膨らませていた。
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