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待ち望んでいた展開
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五号目に設けられたギルドの野営には、既に捜索隊を探し出し連れ戻す事に成功したシン達が戻って来ていた。しかしそこには、ツクヨとアクセル、そしてケネトとカガリの姿はなかった。
唯一ミネから事情を聞かされていたシンは、ここ五号目も必ずしも安全ではないかも知れないというミネの危惧を受け、更に山を下る事を提案する。ギルドの関係者達は概ねその提案に賛成したが、一部ライノ隊長が戻らぬ事で探しに行くべきだという者と、本人の意思を尊重するべきだというもので、僅かばかりの討論が起きた。
だがそれも、避難が最優先という理由で後回しにされ、荷物をまとめて山を下る事になった。ツクヨが帰らぬ事に関しては、シンが危ない真似だけはしないと固く約束をしたとして、それ以上深くは聞かずミアがツバキを説得してくれた。
「ユリアが見つかったという事は・・・。無茶だけはしないでくれよ、ツクヨ」
ミネの救出の為、山頂を目指すツクヨを心配するシン。その一方でそれぞれアクセルを助けたいと動くケネトと、ツクヨと同じくミネを心配するカガリもまた、山頂方面へ向けて山を登っていく。
ツクヨからアクセルが黒衣の人物と対立し、戦闘を行っていると聞かされていたケネトは、森の奥から聞こえて来る大きな物音を頼りに、し整備された山道とは程遠い獣道を駆け抜けて行く。
そんな彼の不安を煽るように、聞こえて来る物音は激しさを増す。黒衣の人物の実力が未知数であるが故に、戦況の予想も立たない。気配を探るケネトの能力でも、まだアクセルと相手の気配を探るには至らない。それだけ彼自身も落ち着いてなどいないとも取れるが。
ケネトがアクセルを追って、山頂への一直線のルートを外れて行ったおかげで、彼の気配感知の範囲外へと出ることが出来たカガリは、まだ遠くに感じる行列の最後尾付近の気配を追って、気配も消さずに一目散に駆けていく。
それぞれがそれぞれの動きを見せる中、最重要となる神饌の儀に向けて山頂を目指していた、山のヌシことミネは山の神の思惑通り山頂の祭壇へと、遂に到着してしまった。
大行列を引き連れたミネは、無言のまま祭壇の前までやって来ると、そのまま神に祈りを捧げるように地に膝を着き、胸の前で両手を合わせて指を絡ませる。
参列していた人間や動物、そしてモンスター達はそんな彼を取り囲むように集まり、隙間なくビッシリとその命を並べるように配置に付いていく。ただその行動も、あまりにも数が多くまだ少し神饌まで時間が掛かるようだった。
一行にとっては、神饌までの時間が延びれば延びるほどプラスではあった。だが唯一、神饌の儀が近づいた事によって僅かばかりの焦りを見せた者がいた。それはアクセルが対峙していた黒衣の男だった。
「山頂に着いたか。いよいよ本番って訳だな・・・。唐突な予定変更だったが、“コレ”が成功すれば大きな切り札になる。絶対に失敗はさせない・・・!」
「俺を無視して考え事か?随分と余裕だなッ!」
何処からともなく聞こえて来るアクセルの声に、黒衣の男は周囲を見渡す。アクセルは黒衣の男に言われた通り、中距離から長距離の攻撃をメインにした戦法へと変更し、黒衣の男を翻弄出来るくらいには善戦していた。
というのも、アクセルはソウルハッカーのクラスを活かし、自分の魂を周囲に大自然に紛れ込ませ、黒衣の男に本体の位置を探られぬよう、範囲内にある凡ゆる木々や草木から自分の気配を放ち、黒衣の男の出方を伺っていた。
「初めからお前は、俺の準備運動の相手だと言っているだろ。だが良い予行練習になった。この展開は俺にとっても、望んでもいなかった展開だ。恩に切るぞ」
「嫌味のつもりかぁ?」
すると黒衣の男はその場で膝を折り低い体勢を取ると、目を瞑り刀に手を添える。その様子は今までとは違い、今度こそ刀を抜かんとする気配すら感じさせるほど張り詰めていた。
「何だ・・・?空気が変わった・・・」
「俺は元々、気配を探る能力には長けていない方でな。だが今にして思えば、こうなる事を予期して俺がここに向かわされたんだとハッキリ分かる・・・。だからこそ、正確な発生位置を突き止める予行練習がしたかった。本物が何処にいるかという、まさにこの状況だ・・・」
暫く話した後、黒衣の男は沈黙しその気配を徐々に消していった。肉眼では男の姿は確認出来るものの、魂で相手の位置を確かめていたアクセルにさえ、黒衣の男の気配がまるで自然に溶け込んでいくように消えるのを感じた。
「何だ・・・?奴の気配が完全に周囲に溶け込んだ。周りの木々や草木に魂の一部を送り込んでるのに、その感知にすら引っかからねぇなんてッ・・・!?」
気配の消えた男を再び探ろうとするアクセルだったが、男が直前に言っていた事を思い出し踏み止まる。本物が何処にいるか分からない状況ということは、裏を返せば今黒衣の男はアクセルの位置を見失っている事になる。
お互いに現在の位置が分からぬ状況、先に動けばそれが相手に居場所を知らせてしまう事になる。だが、直前まで黒衣の男の位置を知っていたアクセルの方が、大凡の場所が分かるだけ有利と言える。
このアドバンテージを失う訳にはいかない。そう、頭の中を過った瞬間、アクセルの身体はその場から動けなくなった。唾を飲み込む音が、外に漏れているのではないかという程、大きく聞こえたその刹那だった。
大きな大木越しに、黒衣の男がいた位置を見ていたアクセル。その目の前の大木に、切れ込みが入るように一瞬の細い光が駆け抜ける。これが何を意味しているのか、アクセルの脳は瞬時に状況を飲み込み、身体を突き動かした。
そこにアクセルの意思などはなく、これまでの経験や蓄積が脳内から意識を介する事なく、全身に今直ぐ動けと直接身体へ命令が伝達された。謂わゆる“身体が勝手に動いた”というものだった。
唯一ミネから事情を聞かされていたシンは、ここ五号目も必ずしも安全ではないかも知れないというミネの危惧を受け、更に山を下る事を提案する。ギルドの関係者達は概ねその提案に賛成したが、一部ライノ隊長が戻らぬ事で探しに行くべきだという者と、本人の意思を尊重するべきだというもので、僅かばかりの討論が起きた。
だがそれも、避難が最優先という理由で後回しにされ、荷物をまとめて山を下る事になった。ツクヨが帰らぬ事に関しては、シンが危ない真似だけはしないと固く約束をしたとして、それ以上深くは聞かずミアがツバキを説得してくれた。
「ユリアが見つかったという事は・・・。無茶だけはしないでくれよ、ツクヨ」
ミネの救出の為、山頂を目指すツクヨを心配するシン。その一方でそれぞれアクセルを助けたいと動くケネトと、ツクヨと同じくミネを心配するカガリもまた、山頂方面へ向けて山を登っていく。
ツクヨからアクセルが黒衣の人物と対立し、戦闘を行っていると聞かされていたケネトは、森の奥から聞こえて来る大きな物音を頼りに、し整備された山道とは程遠い獣道を駆け抜けて行く。
そんな彼の不安を煽るように、聞こえて来る物音は激しさを増す。黒衣の人物の実力が未知数であるが故に、戦況の予想も立たない。気配を探るケネトの能力でも、まだアクセルと相手の気配を探るには至らない。それだけ彼自身も落ち着いてなどいないとも取れるが。
ケネトがアクセルを追って、山頂への一直線のルートを外れて行ったおかげで、彼の気配感知の範囲外へと出ることが出来たカガリは、まだ遠くに感じる行列の最後尾付近の気配を追って、気配も消さずに一目散に駆けていく。
それぞれがそれぞれの動きを見せる中、最重要となる神饌の儀に向けて山頂を目指していた、山のヌシことミネは山の神の思惑通り山頂の祭壇へと、遂に到着してしまった。
大行列を引き連れたミネは、無言のまま祭壇の前までやって来ると、そのまま神に祈りを捧げるように地に膝を着き、胸の前で両手を合わせて指を絡ませる。
参列していた人間や動物、そしてモンスター達はそんな彼を取り囲むように集まり、隙間なくビッシリとその命を並べるように配置に付いていく。ただその行動も、あまりにも数が多くまだ少し神饌まで時間が掛かるようだった。
一行にとっては、神饌までの時間が延びれば延びるほどプラスではあった。だが唯一、神饌の儀が近づいた事によって僅かばかりの焦りを見せた者がいた。それはアクセルが対峙していた黒衣の男だった。
「山頂に着いたか。いよいよ本番って訳だな・・・。唐突な予定変更だったが、“コレ”が成功すれば大きな切り札になる。絶対に失敗はさせない・・・!」
「俺を無視して考え事か?随分と余裕だなッ!」
何処からともなく聞こえて来るアクセルの声に、黒衣の男は周囲を見渡す。アクセルは黒衣の男に言われた通り、中距離から長距離の攻撃をメインにした戦法へと変更し、黒衣の男を翻弄出来るくらいには善戦していた。
というのも、アクセルはソウルハッカーのクラスを活かし、自分の魂を周囲に大自然に紛れ込ませ、黒衣の男に本体の位置を探られぬよう、範囲内にある凡ゆる木々や草木から自分の気配を放ち、黒衣の男の出方を伺っていた。
「初めからお前は、俺の準備運動の相手だと言っているだろ。だが良い予行練習になった。この展開は俺にとっても、望んでもいなかった展開だ。恩に切るぞ」
「嫌味のつもりかぁ?」
すると黒衣の男はその場で膝を折り低い体勢を取ると、目を瞑り刀に手を添える。その様子は今までとは違い、今度こそ刀を抜かんとする気配すら感じさせるほど張り詰めていた。
「何だ・・・?空気が変わった・・・」
「俺は元々、気配を探る能力には長けていない方でな。だが今にして思えば、こうなる事を予期して俺がここに向かわされたんだとハッキリ分かる・・・。だからこそ、正確な発生位置を突き止める予行練習がしたかった。本物が何処にいるかという、まさにこの状況だ・・・」
暫く話した後、黒衣の男は沈黙しその気配を徐々に消していった。肉眼では男の姿は確認出来るものの、魂で相手の位置を確かめていたアクセルにさえ、黒衣の男の気配がまるで自然に溶け込んでいくように消えるのを感じた。
「何だ・・・?奴の気配が完全に周囲に溶け込んだ。周りの木々や草木に魂の一部を送り込んでるのに、その感知にすら引っかからねぇなんてッ・・・!?」
気配の消えた男を再び探ろうとするアクセルだったが、男が直前に言っていた事を思い出し踏み止まる。本物が何処にいるか分からない状況ということは、裏を返せば今黒衣の男はアクセルの位置を見失っている事になる。
お互いに現在の位置が分からぬ状況、先に動けばそれが相手に居場所を知らせてしまう事になる。だが、直前まで黒衣の男の位置を知っていたアクセルの方が、大凡の場所が分かるだけ有利と言える。
このアドバンテージを失う訳にはいかない。そう、頭の中を過った瞬間、アクセルの身体はその場から動けなくなった。唾を飲み込む音が、外に漏れているのではないかという程、大きく聞こえたその刹那だった。
大きな大木越しに、黒衣の男がいた位置を見ていたアクセル。その目の前の大木に、切れ込みが入るように一瞬の細い光が駆け抜ける。これが何を意味しているのか、アクセルの脳は瞬時に状況を飲み込み、身体を突き動かした。
そこにアクセルの意思などはなく、これまでの経験や蓄積が脳内から意識を介する事なく、全身に今直ぐ動けと直接身体へ命令が伝達された。謂わゆる“身体が勝手に動いた”というものだった。
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