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依頼人の妻、本当の親
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更に場面は変わり、山のヌシとしての役割を果たす為、回帰の山の生物を連れて山頂を目指す大行列を追っていたツクヨ。彼はその中からアクセルとケネトが依頼を請け負っているトミという人物。
彼の依頼である、回帰の山に入ってしまって帰って来ない妻、ユリアを探して欲しいという依頼と、シンとツクヨだけがミネから聞かされた、カガリの本当の両親がトミとユリアであるという真実。
そんな彼女が山のヌシとなって連れ歩く生物の大行列に加わるだろうとツクヨに言い残していた。彼女を救出する為、ツクヨはその生物の大行列を後ろから確認していた。
大地を揺るがす程の地響きを鳴らす者や、木々の隙間を器用に飛び回る者、虚になりながらも一歩一歩しっかりと踏み締め歩く者など、千差万別の生物達が並ぶ大行列は、宛ら妖怪達の百鬼夜行のようだった。
当然その中には小さな動物もいれば大小様々な鳥もおり、巨大な大木にも引けを取らない大きなモンスターなども参列していた。中にはツクヨの探すユリアと同じように、虚となった瞳で歩くいつの時代の、何処から来たのかも分からないような者達も何人も並んでいた。
捜索に苦戦していたツクヨは、山頂に着くまでの間に何としてもユリアを探し出さなければならないのだが、一方向から覗くだけでは行列を確かめる事は出来ず、襲ってくる事のない大型のモンスターの肩や身体を伝いながら、一つ一つ丁寧に参列者を確認して行く。
「せめてどの辺りとかだけでも分かれば違うんだけど・・・。このままじゃ山頂に着いちゃうよ」
大きな木に登り、時折山頂への距離を確認すると、現状これまでにない程、山頂へと近づいている事が確認できる。つまり、一行が訪れた八号目よりも更に登った位置までやって来ている事になる。
ただでさえユリアを探し、五号目よりも低い位置まで連れて行かなければならない上に、ミネの救出方法さえもツクヨには全く思い浮かんでいない。
タイムリミットが迫るというプレッシャーの他にも、その後に控える焦りもあり、いつにもなくツクヨの心はざわついていた。それは特にツクヨが人の親だからというのも、大きく関わっているに違いない。
そんなプレッシャーと焦燥感の中、ツクヨは自身の持つ特別な力を持つ剣のことを思い出した。それはリナムルで手に入れた方の刀ではなく、海上レースの前にチン・シー海賊団とグレイス海賊団との共同作戦の際に報酬として受け取った剣、布都御魂剣だった。
使用者の空想の中で創造した景色を、使用者に現実に反映させるという能力を持ち、この能力でツクヨは海の中で呼吸が出来るようになるなど、常識を覆す力を秘めた宝剣だった。
その代わり使用者は目を閉じ、現実を見てはならないという制約が課せられる。しかしそれは大した問題ではなく、敵の攻撃や他の生命反応などは、その反応の大きさによって様々な濃さの炎の様な青白いオーラとなって、使用者であるツクヨの見ている景色に映し出される。
それを利用してユリアの居場所を突き止められないかと、ツクヨは考えたのだ。大型モンスターの背中に乗りながら、布都御魂剣を取り出したツクヨは早速その空想の力を使い目を閉じる。
「こッ・・・これはッ!?」
だがここで、見える筈の生命体の反応が裏目に出る結果となってしまう。それは、生物の百鬼夜行となっている大行列自体が、まるで青白い炎が敷かれた山頂への道の様に燃え盛ってしまっており、小動物の様な小さな反応が、巨大生物の反応に食われてしまっているのだ。
人の反応も同様に、周囲の人以上に大きな生物の反応が重なり、かなり見えづらくなってしまっている。多少生物同士の歩幅の違いにより、その隙間から反応を見ることができる様だが、目を慣らさなくては特定の人物を見つけるなど不可能に近い状態だった。
「クソッ!これじゃ肉眼で探すのとそんなに変わらないか・・・。いや、だが反応で探せる分、多少の時間短縮にはなるか・・・!」
多くの反応に目が眩みそうになりながらも、ツクヨは自分の苦痛など度外視にユリアの反応を探す。肉眼で見える範囲と同じ範囲内で人の反応を探し、反応が無ければ先に進みまた別の大型モンスターの背に乗り、人の反応を探す。
これを繰り返しながら行列を前へ前へと、現実世界で堅実に仕事をこなしていたツクヨ自身を体現するかの様に進んで行き、そして遂に彼の努力が報われる時が来た。
何度目かの全身で、人間の女の反応を見つけたツクヨが目を開き、その場へと向かう。するとそこには、汚れた服を身に纏いやや窶れた状態のユリアらしき人物を見つけた。
ツクヨはミネの記憶の中で、ユリアの姿を見ている。故にユリアの顔も見ているので、その表情を伺えばそれがユリアなのかの判断はつく。そして彼がその反応を発する人物に近づき、顔を覗き込むと漸くツクヨはユリアを見つけ出す事に成功したのだった。
「ユリアさん!ユリアさん!?大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
両肩を掴み身体を揺らすツクヨだったが、虚な目をしたユリアは彼の呼び声に応える事はなかった。事前に意識がないであろう事は、ミネの話からも分かっていたが、ただ無心で歩き続ける彼女をこのまま連れ出す事は出来ない。
女子供に手をあげる事に対し、過剰な拒否反応を示してきたツクヨだったが、ユリアを救うには大人しくさせるしかない。気絶させることすら憚られていたツクヨは、周囲を探し長めの蔦を取ってくると、それで彼女の足を縛りそのまま抱えて行列から離れた。
キツく縛らなかったせいで、多少足をバタつかせてはいるが運び出すのには問題ない。今度は別の蔦で自身の身体と縛り固定させると、急ぎシン達と別れた五号目付近のギルドの野営へ向けて走り出す。
彼の依頼である、回帰の山に入ってしまって帰って来ない妻、ユリアを探して欲しいという依頼と、シンとツクヨだけがミネから聞かされた、カガリの本当の両親がトミとユリアであるという真実。
そんな彼女が山のヌシとなって連れ歩く生物の大行列に加わるだろうとツクヨに言い残していた。彼女を救出する為、ツクヨはその生物の大行列を後ろから確認していた。
大地を揺るがす程の地響きを鳴らす者や、木々の隙間を器用に飛び回る者、虚になりながらも一歩一歩しっかりと踏み締め歩く者など、千差万別の生物達が並ぶ大行列は、宛ら妖怪達の百鬼夜行のようだった。
当然その中には小さな動物もいれば大小様々な鳥もおり、巨大な大木にも引けを取らない大きなモンスターなども参列していた。中にはツクヨの探すユリアと同じように、虚となった瞳で歩くいつの時代の、何処から来たのかも分からないような者達も何人も並んでいた。
捜索に苦戦していたツクヨは、山頂に着くまでの間に何としてもユリアを探し出さなければならないのだが、一方向から覗くだけでは行列を確かめる事は出来ず、襲ってくる事のない大型のモンスターの肩や身体を伝いながら、一つ一つ丁寧に参列者を確認して行く。
「せめてどの辺りとかだけでも分かれば違うんだけど・・・。このままじゃ山頂に着いちゃうよ」
大きな木に登り、時折山頂への距離を確認すると、現状これまでにない程、山頂へと近づいている事が確認できる。つまり、一行が訪れた八号目よりも更に登った位置までやって来ている事になる。
ただでさえユリアを探し、五号目よりも低い位置まで連れて行かなければならない上に、ミネの救出方法さえもツクヨには全く思い浮かんでいない。
タイムリミットが迫るというプレッシャーの他にも、その後に控える焦りもあり、いつにもなくツクヨの心はざわついていた。それは特にツクヨが人の親だからというのも、大きく関わっているに違いない。
そんなプレッシャーと焦燥感の中、ツクヨは自身の持つ特別な力を持つ剣のことを思い出した。それはリナムルで手に入れた方の刀ではなく、海上レースの前にチン・シー海賊団とグレイス海賊団との共同作戦の際に報酬として受け取った剣、布都御魂剣だった。
使用者の空想の中で創造した景色を、使用者に現実に反映させるという能力を持ち、この能力でツクヨは海の中で呼吸が出来るようになるなど、常識を覆す力を秘めた宝剣だった。
その代わり使用者は目を閉じ、現実を見てはならないという制約が課せられる。しかしそれは大した問題ではなく、敵の攻撃や他の生命反応などは、その反応の大きさによって様々な濃さの炎の様な青白いオーラとなって、使用者であるツクヨの見ている景色に映し出される。
それを利用してユリアの居場所を突き止められないかと、ツクヨは考えたのだ。大型モンスターの背中に乗りながら、布都御魂剣を取り出したツクヨは早速その空想の力を使い目を閉じる。
「こッ・・・これはッ!?」
だがここで、見える筈の生命体の反応が裏目に出る結果となってしまう。それは、生物の百鬼夜行となっている大行列自体が、まるで青白い炎が敷かれた山頂への道の様に燃え盛ってしまっており、小動物の様な小さな反応が、巨大生物の反応に食われてしまっているのだ。
人の反応も同様に、周囲の人以上に大きな生物の反応が重なり、かなり見えづらくなってしまっている。多少生物同士の歩幅の違いにより、その隙間から反応を見ることができる様だが、目を慣らさなくては特定の人物を見つけるなど不可能に近い状態だった。
「クソッ!これじゃ肉眼で探すのとそんなに変わらないか・・・。いや、だが反応で探せる分、多少の時間短縮にはなるか・・・!」
多くの反応に目が眩みそうになりながらも、ツクヨは自分の苦痛など度外視にユリアの反応を探す。肉眼で見える範囲と同じ範囲内で人の反応を探し、反応が無ければ先に進みまた別の大型モンスターの背に乗り、人の反応を探す。
これを繰り返しながら行列を前へ前へと、現実世界で堅実に仕事をこなしていたツクヨ自身を体現するかの様に進んで行き、そして遂に彼の努力が報われる時が来た。
何度目かの全身で、人間の女の反応を見つけたツクヨが目を開き、その場へと向かう。するとそこには、汚れた服を身に纏いやや窶れた状態のユリアらしき人物を見つけた。
ツクヨはミネの記憶の中で、ユリアの姿を見ている。故にユリアの顔も見ているので、その表情を伺えばそれがユリアなのかの判断はつく。そして彼がその反応を発する人物に近づき、顔を覗き込むと漸くツクヨはユリアを見つけ出す事に成功したのだった。
「ユリアさん!ユリアさん!?大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
両肩を掴み身体を揺らすツクヨだったが、虚な目をしたユリアは彼の呼び声に応える事はなかった。事前に意識がないであろう事は、ミネの話からも分かっていたが、ただ無心で歩き続ける彼女をこのまま連れ出す事は出来ない。
女子供に手をあげる事に対し、過剰な拒否反応を示してきたツクヨだったが、ユリアを救うには大人しくさせるしかない。気絶させることすら憚られていたツクヨは、周囲を探し長めの蔦を取ってくると、それで彼女の足を縛りそのまま抱えて行列から離れた。
キツく縛らなかったせいで、多少足をバタつかせてはいるが運び出すのには問題ない。今度は別の蔦で自身の身体と縛り固定させると、急ぎシン達と別れた五号目付近のギルドの野営へ向けて走り出す。
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