World of Fantasia

神代 コウ

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それぞれの手段と頼りになる背中

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 人知れず森の中を駆けて行くケネトは、野営からは遠く離れたところで彼は周囲を見渡し、一番幹の太い木を探すとそれに近づき手を添える。すると木の幹の表面に幾つかの火種が走り、魔法陣のような模様を描き始める。

 模様を描き終えると火種は消え、焼けたラインが青白く不気味に光り始める。次第にケネトが仕掛けを施した木に、周囲の魔力が集まり始める。

「まずはこれでどこまで通用するか・・・」

 難しい顔をしたケネトは木を見上げながら想いに耽ると、直ぐに彼はその場を離れ先程の木が見えるギリギリのところまでやって来る。木の上に飛び上がると、そこで気配を消して周囲の魔力を集める木の仕掛けを観察する。

 ここでケネトが何をしようとしていたのか。それは精気を纏ったモンスターを誘き出す為の囮だった。モンスター達は人の気配や強い魔力反応に誘われてやって来る性質があるのは、これまでの道中で確認していた。

「精気の流れが濃くなれば自然に漂う魔力も多くなる。何も俺達にデメリットのあるものばかりじゃねぇってこった。問題は・・・」

 何かを危惧する様子のケネトの前に、彼の作り出した囮に誘われて一体の大型のモンスターがやって来る。

「ちッ・・・おいおい、よりにもよってデカいのかよ。こりゃあんまり参考にはならなそうだな」

 静かにモンスターをやり過ごしたケネトは、その行方を視界に捉えながら様子を見る。地響きを立てながら歩く大型モンスターがケネトの囮の前にやって来ると、顔を近づけて匂いを確認しながら様子を伺い、問題ないと判断したのか、大型のモンスターは数歩後ろへ下がると勢いをつけてその大きな尻尾を振り回し、囮の木に攻撃を仕掛ける。

 その凄まじい勢いの攻撃に耐えきれず、ケネトの仕掛けを施した木は最も簡単に折られてしまった。木に記した魔法陣に亀裂が入り、魔力を集めていた仕掛けが解かれてしまう。

 やられたといった様子で手をおでこに添えて悩ましい表情を浮かべるケネトは、溜め息を吐きながら静かにその場を去る。

「次はもっと丈夫な物を探さねぇとな・・・。だが囮に使えそうなのは分かった、これは収穫だな」

 曇り続けていた表情を浮かべていたケネトだったが、狙い通りの報酬を得られた事に口角を上げて笑みを溢す。

 場面は変わり、シンとツクヨの二人体制で野営の周囲の警戒にあたる彼らの前にも、別の大型モンスターが姿を現した。

「シン、来たよ・・・」

「あぁ。けど試し斬りには少しタフそうなのが来ちゃったな」

「問題ないさ。どの道あのくらい大きいのを落とせないようじゃ、到底君達の代わりは務まらないでしょ?」

 頼り甲斐のある言葉と表情でシンの心配を振り払うツクヨ。握り締める刀に力が入る。その刀はリナムルの研究所で拾った、不思議な力を宿した刃に獣人族の鍛治師達が加工を施し、まともに扱えるようになった何ともシンプルな見た目の刀だった。

「それを使うのか?確か不思議な能力があるとかって言ってた・・・」

「うん、まぁそうなんだけど、実際どんな能力が眠ってるのか私にもまだよく分からないんだ・・・」

「そんなんで大丈夫なのか?」

「刀自体は立派な物だから安心して良いよ。峰打ちには影響ないから」

 当初の目的通り、峰打ちをするだけなら武器に備わる能力は関係ない。強度に関して言えば、獣人族の鍛治師が鍛えてくれた事もあり、そんじょそこらの刀よりも数段上の性能を誇っている。

 後はそれを扱う者次第という訳だ。

「そろそろ行くよ!シン、手筈通りに頼む」

「お手並み拝見だな、くれぐれも命は奪うなよ!」

 先に動き出したシンが気配と物音を完璧に消して、大型のモンスターへと忍び寄る。そして射程範囲内に捉えると、周囲の影を集めてモンスターの影へと繋げる。

 突如身体が動かなくなった事に戸惑うモンスターが、その場で必死の抵抗を見せる。だが真夜中で一面影だらけの戦場において、シンのスキルは通常の何倍も強化されている。

 如何に光脈に精気によって強化されたモンスターであっても、その束縛から逃れることは出来ない。

 そして身動きを封じられたモンスターを確認したツクヨは、力を最大限に振るう為に木々の枝を飛び上がって行くと、モンスターの頭上それも視界に入るギリギリの高さに陣取る。

 刀を構えて勢いよく飛び降りたツクヨ。落下の速度も加わり、通常の彼の力では出せない凄まじい抜刀術で、モンスターの後頭部に目にも止まらぬ一閃を放つ。

 刀がモンスターに接触した音や衝撃、空を切る瞬間が時が止まったようにそこにあった光景に追い付こうと駆け抜ける。これまで以上に研ぎ澄まされたツクヨの刀捌きに、口を開けて圧倒されるシン。

 流れるような剣技を得意としていたツクヨに、これ程までに力強い一撃が放てるのだと、頼り甲斐のある姿と男子なら一度は憧れるであろう見事な刀捌きに、シンの表情が驚きから憧れへと変わる。
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