World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,604 / 1,646

上空を覆う霧

しおりを挟む
 地上でカメラからの映像を受け取るデバイスのモニターを確認するツバキ。しかし彼の口から周囲の状況が告げられると、一行は山に慣れている筈の三人も含めて言葉を失う。

「なッ・・・!?」

「如何したんだツバキ、あれだけ息巻いてたんだから何か見つけたんだろうなぁ?」

 思わず声を漏らしたツバキの反応を見たアクセルが、彼の手元のモニターを覗き込む。するとそこには、まるでカメラに異常が起きているかのように灰色がびっしりと敷き詰められていた。

「何だこれ、上空から山頂の様子を見るんだろ?何処にカメラを向けてるんだ?」

「いや、コレが上空の様子だよ」

「は?んな訳・・・」

 ふざけて言っているのかと思ったアクセルに、ツバキがその証拠の映像を見せる。上空に飛んでいたカメラを地上に向けてゆっくりと降下させる。するとモニター、ゆっくりとボンヤリとしたシルエットが浮かび上がる。

 更に降下を続けると、そのシルエットが木である事がハッキリと分かった。ツバキはそのまま木々の間を抜けて、一行の様子が見える位置にまでカメラを持って来た。

 一行の頭上にツバキのガジェットが羽ばたく音が聞こえて来る。それを聞いた一行が音のする方を見ると、ツバキのモニターに一行の顔がくっきりと映り込む。

「何で・・・?霧なんか出てなかっただろ!?」

「おっ俺に言うなって!カメラは正常だったろ?だからさっきの様子は紛れもなくこの上空なんだって!」

「馬鹿言えッ!もっかいカメラを上空へ上げてみろ!」

「何だよ!じゃぁ自分でやってみろって!」

 一行がここまで山道を登って来るのに、霧が発生したと言う様子はなかった。それに地上では今も霧など発生していない。だがツバキのカメラには、確かに寸分先も見えない程の霧が映し出されていた。

「どういう事?機械には霧が掛かっているように映り込んでるって事かしら?」

「いや、それは如何だろうな。機械にだけ霧が映り込むようにするなんて、それこそ機械による妨害か、それともアタシら居る上空にだけ濃い霧が生み出されてるとしか・・・」

 不安がるアカリに考え得る状況を提示するミア。だが機械による妨害であれば、そもそもツバキのカメラが起動できている事にも疑問が生まれる。ミアの言うように、一行の上空にだけ濃い霧が発生しているというのが最も納得出来そうなものだが、そんなに都合よく彼らの上空にだけ霧が出るなど、まるで誰かが意図的にやっているとしか思えない。

「ケネトさん、周囲に魔力の反応は?誰かが私達の上空に霧を発生させてるんじゃ・・・」

「魔力の反応はおろか、周囲には俺達以外の生命体の反応すら無いよ・・・。モンスターによる仕業という線も消えたって訳だ」

「シンは何か感じない?」

 同じく周囲の気配を感知できるシンに尋ねるツクヨ。だがシンも、ツバキとアクセルのやり取りを見てから、その可能性を危惧して既に周囲の気配に気を張り巡らせていた。

「ダメだ、俺の方も何も感じない・・・。ここまで順調に登って来れたのに、何で急にこんな事が?」

 不気味な現象に見舞われる一行の表情は困惑と不安で、徐々に憔悴し始めていた。そこに再び、一行の視界を奪い去り何者かの記憶の映像が流れ込む。



 真っ暗な視界の中に、徐々に光が灯り始める。その光は金色に輝き、何処か心を落ち着かせてくれる様な温かな光だった。その瞳にボヤけて映っていた光は、少しずつ形を変えながら広大な川のようなものへと変わる。

「ここは何処だ・・・。俺は一体・・・」

 彼の身体は自分の意思に関係なく、その光り輝く川の方へと引き寄せられて行く。

「何て美しく温かな光だ・・・。まるでこれが、言い伝えの光脈のようだ」

 一見、シン達が体験したものと同じ体験をしているように感じるが、この男はこの謎の空間の中でも声を発していた。しかし、彼もまたシン達と同様にその空間が何なのかは分からないようだ。

 ただ“言い伝えの光脈”と発していることから、回帰の山に眠る光脈についてある程度知識のある人物だと思われる。

 男は手繰り寄せられるように川の淵へとやって来ると、光り輝く川に魅入られるようにそっとその水面を覗き込む。するとそこには、一組の男女が映り込んでいた。

 それを見た男は、あやふやになる意識を自分の中へと取り戻し、水面に映る二人へと手を差し伸べる。水面に触れた彼の腕は川に触れた途端、今度は濃い煙の中に手を入れたかのような感覚へと変わる。

 目に映るものと、肌で感じる感覚の違いに戸惑いながらも、彼は川に映っていた二人の元へ意を決して飛び込んで行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トラップって強いよねぇ?

TURE 8
ファンタジー
 主人公の加藤浩二は最新ゲームであるVR MMO『Imagine world』の世界に『カジ』として飛び込む。そこで彼はスキル『罠生成』『罠設置』のスキルを使い、冒険者となって未開拓の大陸を冒険していく。だが、何やら遊んでいくうちにゲーム内には不穏な空気が流れ始める。そんな中でカジは生きているかのようなNPC達に自分とを照らし合わせていった……。  NPCの関わりは彼に何を与え、そしてこのゲームの隠された真実を知るときは来るのだろうか?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

追放された8歳児の魔王討伐

新緑あらた
ファンタジー
異世界に転生した僕――アルフィ・ホープスは、孤児院で育つことになった。 この異世界の住民の多くが持つ天与と呼ばれる神から授かる特別な力。僕には最低ランクの〈解読〉と〈複写〉しかなかった。 だけど、前世で家族を失った僕は、自分のことを本当の弟以上に可愛がってくれるルヴィアとティエラという2人の姉のような存在のおかげで幸福だった。 しかし幸福は長くは続かない。勇者の天与を持つルヴィアと聖女の天与を持つティエラは、魔王を倒すため戦争の最前線に赴かなくてはならなくなったのだ。 僕は無能者として孤児院を追放されたのを機に、ルヴィアとティエラを助けるために魔王討伐への道を歩み出す。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...