1,585 / 1,646
他から育む労りの心
しおりを挟む
意識を取り戻したシンは、瞬く間にそこから一人で立ち上がれるくらいにまで回復し、まるでただの目眩だったのかと言わんばかりに、何事もなく捜索の続きをしようとしていた。
だがアクセルの判断で、これ以上進むのはやめた方がいいとの事。ケネトの帰りを待ち、揃い次第ギルドの者達を待たせている麓まで降りるらしい。と、そこで突然、アクセルの背後から男の声がした。
「アクセル、コレ・・・」
そこにいたのは、人影を追って森の奥へと向かったケネトだった。彼の手には何やらカードのような物があった。
「ぅおッ!?居るなら居るって言えよ!心臓に悪いだろ?」
「込み入った話をしていたようでな。それよりもコレを見てくれ」
そう言ってケネトに見せられたのは、ミネの調査隊のライセンスカードだった。どうやら先程の人影を追っていた際に、その人影が落とした物と思われる。
「じゃぁ何だ。さっきの人影はミネだったって事か?」
「分からない。だがシルエットは男のもののようだった。トミさんの奥さんという線はないと思うが・・・」
「結局、得られた手掛かりはこのライセンスカードと、アンタの見たという光脈の光景くらいか」
話の終わりの辺りから戻って来ていたケネトは、シンの見たという光脈の光景については聞いていなかった。一行は来た道を戻りながら、気を失っていた間のシンの経験を吟味する。
ヒーラーであり、精神的な現象について詳しいケネトでも、シンの体験したという現象については分からないし、記録や噂でも聞いた事はないのだと言う。それだけ異例の経験なのだということが、余所者のシンやツクヨでも分かる。
故に二人は、やはりWoFのユーザーであることが関係しているのではないかと睨んでいた。
森を抜け、ギルドの隊員達のところへ戻った一行は、山の中で遭遇した人影が落としていった、ミネのライセンスを彼らに手渡した。手掛かりとしてギルドの方で調査が行われるらしい。結果は後日に知らされ、そのまま彼らも新たに捜索隊を結成し、本格的に動き出すのではないかと隊員達は口にしていた。
ギルドが動くのであれば、一緒に捜索する事は出来ないのかと提案するツクヨだったが、それでは主導権をギルド側に握られてしまい、思い通りに捜索が行えない事に加え、依頼の達成の手柄がギルドのものになってしまうので、なるべくそれは避けたいとアクセルらは語る。
あくまで協力という形であればそれを回避出来るため、こちらは失踪したというギルドの隊員の手掛かりを提供し、ギルド側からはトミの依頼に関する情報を開示するという条件で取引出来るのだという。
明日になれば、多くの人手と共に捜索が行えるようになる為、今は大人しくギルド側の指示に従い、情報提供と協力の申請をして明日の準備を整えるのがいいと、アクセルらからアドバイスを受けるシンとツクヨ。
必要な物は、相変わらず精神的な状態異常に対応出来るアイテムらしい。それて可能であれば、捜索に役立つスキルの習得や、治療系の魔法の習得も出来ればしておいた方がいいらしい。
ギルドの前で別れたシンとツクヨは、漸くミア達の居る宿屋へと戻る。街はすっかり静まり返り、街灯や店先の灯りを頼りに宿屋へと戻った二人は、ミアに連絡して内側から鍵を開けてもらい中へと入った。
「随分掛かったな。その様子だと依頼人の女は見つからなかったか?」
「あぁ、それはそうだしギルドの行方不明者の手掛かりもなかった」
「唯一見つかったのが、ミネさんって人の調査隊のライセンスだったね」
ツクヨの言葉に僅かに驚いた表情を浮かべるミア。そこで二人は彼女がミネという人物と面識がある事を思い出した。ハインドの街に着いて情報収集の為に二手に分かれた彼ら。そしてミアとアカリのチームは調査隊の家を訪れていたと聞いている。
「そっか、ミアはそのミネさんと会っていたんだっけ・・・」
「まぁ大した友好関係を築いた訳じゃないからそんなに気にはならないが、見ず知らずのアタシらに色々と教えてくれて、山に入るっつったら心配もしてくれる様な奴だったからな。悪い人間じゃない。そうなるとカガリって奴の方が心配だな」
「カガリ?あぁ、確か調査隊の弟子だとかでミネと一緒に住んでいた少年か。歳はツバキよりも少し上・・・アカリくらいってところか」
「アタシらも何の因果か子供と一緒にいる事になったが故に、こういう不幸はちょっと心配になるっつぅか・・・」
ミアは自分達が居なくなったら、アカリやツバキも同じ思いをするのだろうかと考えていた。何れ彼らとも別れの時は来るだろう。だがそれが唐突であるものとは考えられない。
もしどちらかが突然居なくなる様なことがあれば、ミア達も気が気ではない。既にミア達とこの世界の住人であろうツバキやアカリとも、それだけの関係性になっているという事だった。
「そうだね、彼らも何とかして見つけてあげられれば・・・」
他人を心配するという事自体、昔の現実世界のシンであれば考えられない事だった。自分のことで精一杯で、他者との関係を築き上げていく余裕もなければ、そんな気すらシンにはなかった。
過去の友人に裏切られた経験が、シンの中で深い傷となりトラウマになってしまっていたからだ。唯一WoFの中でだけは、そんな辛い事を忘れて違う自分になれていた。
それが今は、WoFの世界でまるで生身の様に痛みも疲労も感じる様になり、より現実との境目が曖昧になっている。こちらの世界での出会いや別れが、シンの考え方や精神にも大きな変化を与えている事は間違いない。
ミアやツクヨ、それにツバキやアカリに紅葉。仲間達を失いたくないという気持ちは、彼の中で次第に大きくなり大事な存在へとなっていた。
ただ北の山を越える為に協力する。それだけの気持ちでいたが、依頼人のトミが大切な妻を探していたり、ミネとカガリが失踪した事を改めて考えると、シンは赤の他人である筈の彼らに共感出来る“心”を、この世界で育んでいた。
「明日もう一度山に向かう。紅葉の状態次第だが、やっぱり俺はみんなで行きたい」
あまりシンから直接言葉で聞く事のない真っ直ぐな気持ちに、ミアもツクヨその時は驚いたが全く同じ気持ちである事を認識して、より団結力を深めていった。
だがアクセルの判断で、これ以上進むのはやめた方がいいとの事。ケネトの帰りを待ち、揃い次第ギルドの者達を待たせている麓まで降りるらしい。と、そこで突然、アクセルの背後から男の声がした。
「アクセル、コレ・・・」
そこにいたのは、人影を追って森の奥へと向かったケネトだった。彼の手には何やらカードのような物があった。
「ぅおッ!?居るなら居るって言えよ!心臓に悪いだろ?」
「込み入った話をしていたようでな。それよりもコレを見てくれ」
そう言ってケネトに見せられたのは、ミネの調査隊のライセンスカードだった。どうやら先程の人影を追っていた際に、その人影が落とした物と思われる。
「じゃぁ何だ。さっきの人影はミネだったって事か?」
「分からない。だがシルエットは男のもののようだった。トミさんの奥さんという線はないと思うが・・・」
「結局、得られた手掛かりはこのライセンスカードと、アンタの見たという光脈の光景くらいか」
話の終わりの辺りから戻って来ていたケネトは、シンの見たという光脈の光景については聞いていなかった。一行は来た道を戻りながら、気を失っていた間のシンの経験を吟味する。
ヒーラーであり、精神的な現象について詳しいケネトでも、シンの体験したという現象については分からないし、記録や噂でも聞いた事はないのだと言う。それだけ異例の経験なのだということが、余所者のシンやツクヨでも分かる。
故に二人は、やはりWoFのユーザーであることが関係しているのではないかと睨んでいた。
森を抜け、ギルドの隊員達のところへ戻った一行は、山の中で遭遇した人影が落としていった、ミネのライセンスを彼らに手渡した。手掛かりとしてギルドの方で調査が行われるらしい。結果は後日に知らされ、そのまま彼らも新たに捜索隊を結成し、本格的に動き出すのではないかと隊員達は口にしていた。
ギルドが動くのであれば、一緒に捜索する事は出来ないのかと提案するツクヨだったが、それでは主導権をギルド側に握られてしまい、思い通りに捜索が行えない事に加え、依頼の達成の手柄がギルドのものになってしまうので、なるべくそれは避けたいとアクセルらは語る。
あくまで協力という形であればそれを回避出来るため、こちらは失踪したというギルドの隊員の手掛かりを提供し、ギルド側からはトミの依頼に関する情報を開示するという条件で取引出来るのだという。
明日になれば、多くの人手と共に捜索が行えるようになる為、今は大人しくギルド側の指示に従い、情報提供と協力の申請をして明日の準備を整えるのがいいと、アクセルらからアドバイスを受けるシンとツクヨ。
必要な物は、相変わらず精神的な状態異常に対応出来るアイテムらしい。それて可能であれば、捜索に役立つスキルの習得や、治療系の魔法の習得も出来ればしておいた方がいいらしい。
ギルドの前で別れたシンとツクヨは、漸くミア達の居る宿屋へと戻る。街はすっかり静まり返り、街灯や店先の灯りを頼りに宿屋へと戻った二人は、ミアに連絡して内側から鍵を開けてもらい中へと入った。
「随分掛かったな。その様子だと依頼人の女は見つからなかったか?」
「あぁ、それはそうだしギルドの行方不明者の手掛かりもなかった」
「唯一見つかったのが、ミネさんって人の調査隊のライセンスだったね」
ツクヨの言葉に僅かに驚いた表情を浮かべるミア。そこで二人は彼女がミネという人物と面識がある事を思い出した。ハインドの街に着いて情報収集の為に二手に分かれた彼ら。そしてミアとアカリのチームは調査隊の家を訪れていたと聞いている。
「そっか、ミアはそのミネさんと会っていたんだっけ・・・」
「まぁ大した友好関係を築いた訳じゃないからそんなに気にはならないが、見ず知らずのアタシらに色々と教えてくれて、山に入るっつったら心配もしてくれる様な奴だったからな。悪い人間じゃない。そうなるとカガリって奴の方が心配だな」
「カガリ?あぁ、確か調査隊の弟子だとかでミネと一緒に住んでいた少年か。歳はツバキよりも少し上・・・アカリくらいってところか」
「アタシらも何の因果か子供と一緒にいる事になったが故に、こういう不幸はちょっと心配になるっつぅか・・・」
ミアは自分達が居なくなったら、アカリやツバキも同じ思いをするのだろうかと考えていた。何れ彼らとも別れの時は来るだろう。だがそれが唐突であるものとは考えられない。
もしどちらかが突然居なくなる様なことがあれば、ミア達も気が気ではない。既にミア達とこの世界の住人であろうツバキやアカリとも、それだけの関係性になっているという事だった。
「そうだね、彼らも何とかして見つけてあげられれば・・・」
他人を心配するという事自体、昔の現実世界のシンであれば考えられない事だった。自分のことで精一杯で、他者との関係を築き上げていく余裕もなければ、そんな気すらシンにはなかった。
過去の友人に裏切られた経験が、シンの中で深い傷となりトラウマになってしまっていたからだ。唯一WoFの中でだけは、そんな辛い事を忘れて違う自分になれていた。
それが今は、WoFの世界でまるで生身の様に痛みも疲労も感じる様になり、より現実との境目が曖昧になっている。こちらの世界での出会いや別れが、シンの考え方や精神にも大きな変化を与えている事は間違いない。
ミアやツクヨ、それにツバキやアカリに紅葉。仲間達を失いたくないという気持ちは、彼の中で次第に大きくなり大事な存在へとなっていた。
ただ北の山を越える為に協力する。それだけの気持ちでいたが、依頼人のトミが大切な妻を探していたり、ミネとカガリが失踪した事を改めて考えると、シンは赤の他人である筈の彼らに共感出来る“心”を、この世界で育んでいた。
「明日もう一度山に向かう。紅葉の状態次第だが、やっぱり俺はみんなで行きたい」
あまりシンから直接言葉で聞く事のない真っ直ぐな気持ちに、ミアもツクヨその時は驚いたが全く同じ気持ちである事を認識して、より団結力を深めていった。
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-
星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』
高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。
* 挿絵も作者本人が描いております。
* 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。
* 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる