World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,583 / 1,646

誘う影

しおりを挟む
 ヌシの誕生について話しながら、一行は昼間に来た山の二号目に到達した。そこには二号目である目印の看板があったが、前回のように目印の括り付けられた木などは見当たらない。

「ここには木に目印が付いてないんだな」

「あっちの道は、登山の正規ルートじゃなかったからな。あくまで依頼人の捜索と失踪の場所を考慮して選んだ道だったんだ。でもその代わりに、分かりやすい看板があるだろう?ホラ」

 アクセルが明かりを向けると、少しくたびれた様子の看板が建っている。

「二号目・・・前回と同じか」

「今回は夜という事もあってこれ以上進むのは無理だろう。この辺を探して何もなけりゃ無駄足に・・・」

 ケネトが捜索に限界について口にしたところで、山の奥へと続く獣道の先に一人の人影を見つけるツクヨ。

「みんな!あれ・・・」

 咄嗟に道の先にいる人影に聞こえぬよう声を潜めたツクヨの声に引かれ、息を呑んで彼の指差す先へ視線を向ける。その人影はこちらの存在には気付いていない様だった。

 そこでシンは、自分がその人物をスキルで拘束して来ると提案する。彼の能力について知らないアクセルとケネトは反対したが、シンが地面を指差し自らの影を操ってみせると、二人は驚きの表情をしていた。

 それもその筈。嘗てアクセルとケネトを救ったという“黒い衣”の人物もまた、影を操るような能力を使っていたからだ。だがシンに対して二人が何も感じなかったという事は、声色や体格などがそもそも違っていたのかも知れない。

 自らの影の中へと沈んでいったシンは、真夜中の森の影を進みながら先程の人影へと、音を立てずに接近していく。そしてスキルの範囲にまで近づくと、木の陰に隠れながらその人物が映し出す影に向けて、周囲の影を触手のように伸ばす。

 すると、人影の影まであと少しと迫ったところで、突如シンの影のスキルがピタリと止まる。と、同時にシンの身体の中に、足元から込み上げてくる何かを感じて、そのまま時が止まったかのようにシンの動きが止まってしまった。

「ん?どうしたんだろう・・・」

「何だ、何故動かない?このままでは先へ進んでしまうぞ」

「そんな事、私に言われても・・・」

 ツクヨは周囲に音を立てないようにシンと連絡を取る手段である、メッセージ機能を使ってシンに呼び掛ける。だが彼からの返事はない。依然として木の陰で固まる彼の様子を見て、困惑した様子でアクセルらを見つめる。

 もしやシンも光脈の精気に当てられてしまったのではないかと思い、人影にバレてしまう事は諦め彼の救出へと走り出す三人。

「シンッ!どうしたの!?」

「作戦は中止だ!直ぐに戻って来いッ!!」

 ツクヨとアクセルの声が真っ暗な森の中に響く。近くにいたであろう小動物達が大きな音に驚き、草木の間を駆け抜けていくような音が周囲で聞こえる。そして目標のターゲットは、物音を聞いて一度だけ振り返ると、早足で森の中へと消えていってしまった。

 動かなくなってしまったシンに駆け寄るツクヨが、肩を鷲掴みにし力強く揺さ振る。しかしシンの目は虚空を見つめ光がない。それが真っ暗な中だからなのか、彼の精神が何処かへ行ってしまったからなのかは分からない。

 動かなくなっている間、シンの意識は真っ暗空間の中を漂っていた。そこが何処かも分からず、自分の状態がどうなっているのかも分からない。意識の中で身体を動かしている感覚はあるが、視覚や触覚という情報からそれを確認する事は出来ないようだ。

(ここは一体・・・俺はどうなったんだ?)

 声を出そうとはしているものの、喉は鳴っておらず自分の声も聞こえてこない。どうやら五感全てが失われているらしい。

 自分の置かれた状況にシンが戸惑っていると、次第に空間の下の方から何かの光がゆっくりとその輝きを強めていく。シンの視界に現れたのは、暖かい金色の光を発する、黄金の川だった。

(川・・・?いや、これが“光脈”・・・?)

 シンは直感でそれが北の山、回帰の山に眠る光脈なのではないかと思った。もっと近くで見ることは出来ないかと、まるで水中を泳ぐように腕をかいてみると、視界が近付いていくのが確認できる。

 次第に自分の身体が見えるようになり、視界は戻って来たようだが他の感覚は相変わらずのようだ。川の淵にまでやって来ると、金色に輝く川の中にツクヨ達が必死に呼び掛ける姿が映って見えた。

(ツクヨ!それにアクセルにケネトまで・・・。おい!俺はここだ!気付いてくれッ!!)

 しかしシンの言葉が彼に届くことはなかった。水面に映る光景に手を伸ばしてみるも、ただ伸ばした腕が水面を揺らし水面に映し出された光景を邪魔してしまうだけだった。

(どうすればいい!?どうすればあっちに行けるッ!?)

 次第に川から溢れる光が強くなり、更に広範囲を明るく照らし出す。すると周囲を見渡したシンは、その空間の上空に川からの光とは違う別の光を見つける。

 川に触れても何も反応が無かったことから、水面に飛び込んだところでツクヨ達の元へは戻れないだろう。それどころか、最悪の場合光脈に飲み込まれ完全に自我を失ってしまうかもしれない。

 それならば、まだ試していない光に触れてみる方が良い反応が伺えそうだと、シンは急いで上空の光に向かって無重力の空間を泳ぎ始めた。

 そしてその白い光に触れると、光は瞬く間にシンの視界を一瞬にして飲み込み、意識も感覚も何もかもを失ってしまう。そうして次に彼が目を覚ました時、彼の眼前にはアクセルとケネト、そしてツクヨの姿があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...