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神代 コウ

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光脈に精気

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 人の手によって慣らされた道を歩む一行。その先に再び先程と同じ目印のある木を見つける。周囲の様子は一本目の時と特に変わった様子はない。

 一行は再びシン達とアクセルらのグループに分かれて、周囲の探索を始める。だがそこで、街の現調査隊であるミネから注意を受けていた紅葉が、何やらアカリに訴え始めた。

「キ・・・キィ・・・」
「どうしたの?紅葉。具合でも悪いの?」

 捜索の際、アカリの元を離れ近辺を飛んで捜索しながら協力していた紅葉だが、その時は弱々しくアカリの肩に止まり、寄りかかる様に身体をアカリへ寄せている。

 アカリの近くで捜索していたミアが、紅葉の羽ばたきが聞こえなくなった事に気がつき、何があったのか声を掛ける。その時は大した問題じゃないと思っていたアカリは、光脈の影響で体調でも崩されたのだと思っていた。

「紅葉の様子が変なの。何だか震えてる見たい・・・」

「そういや、山の調査隊のミネにも言われてたな。紅葉は山に連れて行くなって」

 アカリと共にシン達によって発見された紅葉は、紅い羽を身に纏い魔力を持った、少し変わった生物であった。初めからアカリに懐いていた事もあり、彼女の失われた記憶に関係している事が分かる。

 初めはただのペットや使い魔のようなもののように思えたが、リナムルではアカリの危機に立ち上がり、身体を大きく成長させ近くにいた獣人の魂を炎の化身と変えて戦っていた。

 その後、紅葉は直ぐに倒れてしまったがただの使い魔や、魔力を有する鳥類の魔物にしてはあまりに特殊な能力を持っているように思える。それこそ、何か人の手が加えられたような。

 特殊な能力に生物として、人間よりも周囲の魔力に敏感な体質を持つ紅葉にはシン達には感知できない何かを感じていたのかも知れない。

「まぁそんな状態じゃ捜索は無理だろう。少し休ませてやらねぇとな」

「紅葉、もっと身体を小さくできる?」
「キィ・・・」

 アカリの声に反応し、紅葉の身体はみるみる縮んでいき、手のひらサイズのインコ程の大きさまで小さくなった。

「おっおい、当たり前のように小さくなってるけど、いつの間にそんな事出来るようになってたんだ!?」

「え?大きくなれたのなら小さくなる事も出来るかなぁって思ってたので、頼んでみたらどうやら出来るようです!」

「出来るようですって・・・。本当に何者なんだその生き物は・・・」

 呆気に取られていたミアは、直ぐに我を取り戻し紅葉の事はアカリに任せ、自分の範囲の捜索に努める。今の所紅葉は大人しくしている。衰弱している様子もない事から、命に別状はないと判断したアカリ。

 ミアに続き、自分の仕事を全うせねばと、再びユリアの手掛かりを探し始める。シン達男性陣側は、一箇所目と同じく何の痕跡も見つけられなかったと、少しくたびれた様子で互いに合図を送り、元の集合場所まで引き返して行く。

 ミア達とも合流した一行は、そこで初めて紅葉の容態を知る。

「私達の探している間にそんな事が・・・」
「薬は試したのかよ?お前、いっぱい調合して薬を作ってたじゃなかったのかよ?」

「飲ませようとしたんだけど、要らないって・・・。そういうのじゃないみたいなの」

「具合が悪いんだったら、一度戻ろうか?」

「戻るにしても、アクセル達に話をしないと。こっちの捜索は済んだし、一旦彼らと合流しよう」

 シンの言う通り、何をするにも先ずはアクセル達に相談しない事には、勝手に戻る事もできない。紅葉が一体どうしてしまったのか、誰も詳しく分からない以上無理に連れ回す訳にはいかないと判断し、合流地点へと向かう。

 今度は先に目印の木へと戻って来たシン達は、紅葉の容態を見ながらアクセル達の帰りを待つ。素人が見る限り、紅葉は危険な状態や衰弱し切っているといった印象は受けない。現在はアカリの手の上で落ち着いた様子で呼吸をしながら眠っている。

 そこへ捜索を終えたアクセル達が戻って来ると、シン達の様子を見て直ぐに何かあった事を察したようだ。一行はアカリの連れている紅葉の様子がおかしい事を二人に話すと、それこそが北の山こと“回帰の山”の精気に当てられた者の反応だと語る。

「元々動物は人間よりも敏感な生き物だ。俺達では感じ取れない魔力や精気、瘴気なんかを感じ取っちまう」

「この子の場合、他の野生動物とかよりも感じやすいみたいだ。本来なら彼らが体調を崩すほどの精気が溢れていれば、我々にも多少なり影響が現れてもおかしくない」

「アンタ達みたいに慣れていない者なら尚更ね。その子らは何ともないのか?」

 アクセルはツバキとアカリの容態について聞いて来た。だが彼らが調子が悪いなどと言う報告を受けていない一行は首を横に振り、本人達にも尋ねたが自分で感じる範囲では異常は無いと語る。

「ふむ・・・こりゃぁちょっと妙かもな・・・」

 顎を指で触りながら深刻そうな顔をするアクセルとケネト。どういう事か分からないシン達は、彼らの言う“妙”だと感じる事について尋ねる。

「いや、正直ユリアさん捜索にアンタ達の協力を得られたのは、俺達にとってもありがたい事だったんだ」

「山に慣れていない者が一緒なら、その反応で精気の流れをある程度予測する事が出来るんだ」

 彼らが言うには、ユリアが失踪したのは山から漏れ出した光脈の精気が麓まで流れ出し、土を採りに来ていたユリアはその精気に当てられた、山へと誘われたのだと考えた。

 体質的にユリアよりも耐性のあったトミは、山に向かうユリアをある程度追いかけられたようだが、彼女を見失ったのは彼が精気に当てられるような範囲ではなかったという事になる。

 そうでなければ、トミは一人で街に戻って来る事など出来ない筈だとアクセルらは語る。精気の感じ方は違えど、歳の近い二人にそれほど感じ方に差があるというのが、二人の中で引っ掛かるポイントとなっていたようだ。

 これではまるで、光脈の精気が自然の流れに争って動いているようだと二人は言う。
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