World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,578 / 1,646

失踪の痕跡探し

しおりを挟む
 残されていた記録はなく、全てはツクヨのキャラクターというデータがあるのみ。ツクヨが転生する以前の記憶は、今のツクヨのキャラクターには残されていない。

 それでも、一から全てを始めるよりは様々な事を身につけている事から、ゲームで言うところの“強くてニューゲーム”の状態に近いだろう。

「何も記憶を失ってた訳じゃないんだ。ポジティブに捉えていこうじゃないか。初めから色々出来る状態でスタート出来たんだと」

「それは便利かもしれないけど、説明をすっ飛ばしてる訳だよね?上手くいくか不安だよ」

「ツクヨさんも記憶が無いんですか?」

「あぁ、いや私のは少し違くて・・・」

 作業をしながら話を聞いていたアカリに問われ、ツクヨは現実世界からやって来たなどとは言えず、どうしたものかとシンとミアに助けを求める視線を送るも、二人とも目を晒し調合に没頭し始めてしまった。

 一行はツクヨ達が取り付けた約束の時間に遅れぬよう、今日は早めに就寝する事にした。調合も手持ちの分は生成を終え、残りは予備として残しておき、臨機応変に対応出来るようアカリがいつでも調合出来るように常備する運びとなった。

 そして夜が明け、アクセルらとの約束の時間よりある程度余裕を持って向かった一行は、そこで彼らがやって来るのを待った。アクセルとケネトがどんな人物なのかツクヨ達に話を聞いている間に、約束の時間とほぼ同時に一行の元へ近づく二人の人影があった。

「お!遅れずに来たみたいだな。彼らがアンタ達の仲間かい?」

「噂をすれば・・・。彼がアクセルさん、そしてケネトさんだ」

 初めて顔を合わせるシン達は、アクセルとケネトに自己紹介をしながら握手を交わす。今日の探索内容については、北の山を目指しながらアクセルらから説明があった。

 どうやら彼らは、シン達と合流する前に一度トミの家を訪れたようで、そこで妻であるユリアをどの辺りで見失ったのか、その際に何か手掛かりになるようなものはなかったのかなど、出来る限りの情報を集めていたようだ。

 トミがユリアを見失ったのは、山に入って少し進んだ辺り。目印としては、近くの木に人工物である紐と布が巻きつけられてあったと言う。恐らく昔から調査隊が山に入った際に、何らかのサインとして残した物だと思われる。

 そこはそれ程深くない所らしく、目印も例え複数あったとしても幾つか調べれば目的の場所に辿り着けるだろうと、アクセルは経験談から予想していた。

 森の入り口にやって来ると、アクセルはツクヨに違いの位置を知らせる鈴を手渡した。それを常に音が響くところに付け、互いの位置を常に把握しながら探索を行うのだと言う。

 かなり古典的ではあるが、森に住まう生き物達に自分達の存在を知らせ、近付けさせない意味もある。ただ難点としては、好戦的なモンスターには逆効果だと言う事だ。

 稀に音を逆に利用して、群れで襲いかかって来るモンスターもいるから、常に戦えるようにしておくことを、強くお勧めされた。鈴をアクセルから渡された際、ツバキもまた彼らにとある物を渡していた。

 それは彼が昨晩作り上げていた新型のカメラだった。

「コレは?」

「カメラだよ。マイクも内蔵されてるから、俺達の持つこっちのカメラとの通信も可能だ。動力は電力と魔力で切り替えが出来る。だからこういった山の中でも、よっぽどの事がない限り通信が途絶える事もないぜ!」

 アクセルとケネトは、ツバキから渡されたカメラの使用方法について説明を受ける。操作は至って簡単で、殆どがその小さな球体状の本体を指でなぞるだけで行える。

 そのあまりに高度な文明の品に、二人とも目を丸くして驚いていた。

「コレを君が作ったのか!?」

「ベースは元になったカメラだ。俺はそいつにちょっとばかし手を加えたに過ぎない。悔しいがまだ俺にはコイツを一から作る知識と技術力はない」

「それでも大した物だ!こんな物ハインドの街で売れば、一気に大儲けできそうだな!」

「いずれ量産できるようになれば、それも現実になるかもな」

 口では金の話をしているものの、ツバキは純粋に人々の生活の為になると思って発明の知識を身につけている。それは物作りとして、親代わりであるウィリアムに教えてもらった人生の教訓でもあった。

 暫く森を進むと、トミから聞かされていた目印の布が巻き付けられた木を発見する一行。森に入ってからそれ程経っていない位置にあったその木が、目的の場所とは限らない。

 一旦その場所の周辺を探索する事になり、シン達のグループとアクセルとケネトのグループに分かれ、鈴の音が互いに聞こえる範囲での探索を開始する事になった。

 それぞれ逆方向に向かい、シン達はそこから更に目視で確認できる距離に広がりながら、ユリアの手掛かりを探し始める。だが捜索は全くといっていいほど進展もなく、手掛かりも見つける事は出来なかった。

 次第にアクセルら側からの鈴の音が小さくなり、ツバキのガジェットを通して一度元の場所へ戻る事になった一行は、目印の木へと向きを変え歩み出した。

「なぁ、手掛かりっつってもよぉ。それがその人の痕跡や手掛かりだってどうやって確かめるんだ?」

「物的証拠でもあれば、その人の匂いや残留魔力の反応で分かりそうだけど・・・」

 アルバで見てきたケヴィンの調査を頼りに、痕跡を辿れないかと考えていたシンだが、実際は全く上手くはいかず探偵というクラスがそもそも、捜索や調査に優れた能力を有していたことを改めて思い知る結果になった。

「そもそも居なくなってからもう数日経ってるんだ。そう簡単には手掛かりなんかは出てこないだろう」

「それにまだこの辺がトミさんの奥さんが居なくなった場所とは限らないしね。後は向こうが何も見つけられなかったなら、一つ奥の目印の木に進む事になる。そうやって少しずつ地道に探すしかないよ」

 帰りの道すがら、アカリは何やらいくつかの植物の葉を採取していた。退屈していたツバキが何をしているのかと問うと、彼女はこれも調合の材料になるのだと嬉しそうに答えた。

 活躍の場を見つけて嬉しそうにするアカリを見て、嘗ての造船技師として技術を学んでいた頃の姿を思い出していたツバキは、珍しく彼なりに頼りにしているのだということを伝えた。

「まぁ、今回はお前の力が必要になるみたいだし。頼りにしてる・・・」

「え?うっうん、頑張る・・・」

 顔を見ずに交わす二人の言葉は、シン達にも聞こえないような声だった。そして暫くすると、アクセルらと分かれた目印の木へと到着する。先に到着していたアクセルらから、向こう側の探索の結果を聞かされる。

 内容は予想通りシン達と同じく、手掛かりらしい手掛かりは何もなかったという報告だった。こちらも同じだと二人に報告して、一行は更に奥の目印の木を探す事にした。

 どうやらアクセルらも、ユリアが失踪した位置はもう少し奥なのではと考えていたようだ。それでも一つ一つ調べていかない訳にはいかないと、先程の時間が決して無駄ではないことを皆に諭していく。

 そんな中、森を進むに連れアカリの連れている紅葉に少しずつ変化が訪れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...