1,570 / 1,646
調査隊
しおりを挟む
酒場の店員の話では、この街には古くから山の調査を行なっている人達がいる事を教えてもらったミアとアカリは、早速彼らのいるという場所へと向かった。
「でもどんな人達なんでしょうね?回帰の山?では長年多くの人々が異常をきたして戻って来たり、山から帰って来なかったりするそうですけど、未だにそれを防ぐ術が見つかっていないって事ですよね?」
酒場を出て店員の言っていた調査隊の居るという場所へ向かう道中、アカリは不思議そうに今までの話を整理しながらミアにも意見を伺う。
「まぁそう言ってやるな。いくら調べても研究しても、分からないものってのはある。話からするとその“光脈”ってのに何かしらの原因があるようだが、何にせよそれを知らない限りは対策のしようもない」
ミアの言う通り、山の中で精神に異常をきたす原因となっているのは、恐らく山の土地に眠ると言われている光脈と呼ばれる生命力の溢れる精気の流れとみて間違いないだろう。
WoFの世界では、強過ぎる魔力、強過ぎる生命エネルギーなど、生き物の限界を超えた力に近づき過ぎると、その力に当てられた本来個々が持つ魔力や生命力の限界を超えて影響を受けてしまい、波長が乱され存在の維持自体が困難になる事があるとされている。
生半可な者では近づく事すら出来ず、強い魔力を帯びた土地や源流から漏れ出した僅かな流れに当てられただけで、生命維持の危機に陥る事すらあると言われている。
それだけ北の山、回帰の山に眠るとされている光脈が純度の高い精気で満たされているのかが分かる。
「だが調査隊なんて言われてるくらいだ。何か光脈の性質や特徴について掴んでいるんだろう」
「何でそんな事が分かるんです?」
「じゃなきゃ調査隊なんてとっくに解散させられているだろう。無駄に命を落としにいくようなものだ。止められなかったとでも思うか?」
「それは・・・」
「それに近くに住む連中も、下手の事されて山の怒りを買いたくはないだろう。無茶なことをする連中なら、それを止めようと暴動が起きてたって不思議じゃねぇのに見逃されてるってのが、その連中がイカれた連中じゃないって証拠だ」
彼女の推察に納得した様子のアカリ。だがアカリの抱える紅葉は何処かソワソワとしていた。普通の鳥でも魔物とも違う、不思議な生態をしている紅葉には、人間には感じ取れない何かを感じているのだろうか。
調査隊の居るという所在地に到着する二人。そこにあったのは想像していたような建物とは大きく異なり、他の街の民家や建物とは異なるどこか寂れたボロい作りの建物だった。
「・・・えっと、ここがその・・・調査をされている方々がいるという場所で、間違いないのでしょうか?」
「少なくとも、予算はなさそうだな・・・」
山に入っていく者達の被害を抑えたり、問題解決へ繋がるような成果をあげられないからか、街からの支援は受けられていない様子だった。稼ぎは個人個人の収入から出している、謂わばボランティアに近い活動なのかも知れない。
「とっ取り敢えず入るぞ」
「はっはい!」
早速戸を叩き声を掛けるミア。少ししてその呼び声に応えるように中から一人の男が戸を開き、顔をのぞかせる。その男の顔は少し頬が痩けており、無精髭を生やした細身といった印象を受ける男だった。
「・・・何か?」
「回帰の山の事について教えて欲しいんですが」
「わざわざここに聞きに来るって事は、他所から来た人かい?まぁ入んなよ、あまり良いもてなしはできないけど」
内装は至って普通であり、外観ほど傷んでいる様子はない。そして中にはもう一人、アカリくらいの青年が座ってこちらを見つめていた。
「あぁ、彼は俺と同じで山で起きる現象について調べてる仲間の・・・」
「“カガリ”です」
先に名前を口にした青年に対し、ミアとアカリも自己紹介を済ませる。カガリに空いているところに腰掛けるよう勧められているうちに、男がお茶を入れて戻って来た。
「すまんな、先に名前を聞いてしまった。俺は“ミネ”という。多分街で俺達の話を聞いて来ただろうが、山の光脈について調べてる者だ」
二人の事については分かったが、他の人物の姿が見えない。調査隊というくらいだ、他にも隊員がいるはずだと思ったミアは、ミネに他の隊員は何処にいるのかと問うと、彼はキョトンとした表情で答える。
「隊員は俺達だけだ」
「は?二人だけ!?」
「前はもっといたんだがな。山に入って光脈を調べる中で、何人も山の精気に当てられちまってな・・・。みんなおかしくなっちまって、山から戻らなかった」
「戻らなかったっていうのは・・・」
ミネは首を横に振った。明確に他の隊員の行方については口にしなかったが、恐らくそのまま山の中で死亡してしまったのだろう。或いは今も山の中で生きているのか。
何にしろ山に詳しい彼らであっても、確実に山の精気を回避するという術は無いようだ。調査を続けるうちに、そういったおかしくなった隊員達を見て、他の者達は山の事を調べるのは不可能だと判断して、皆彼らの元を去って行ってしまったらしい。
「でもどんな人達なんでしょうね?回帰の山?では長年多くの人々が異常をきたして戻って来たり、山から帰って来なかったりするそうですけど、未だにそれを防ぐ術が見つかっていないって事ですよね?」
酒場を出て店員の言っていた調査隊の居るという場所へ向かう道中、アカリは不思議そうに今までの話を整理しながらミアにも意見を伺う。
「まぁそう言ってやるな。いくら調べても研究しても、分からないものってのはある。話からするとその“光脈”ってのに何かしらの原因があるようだが、何にせよそれを知らない限りは対策のしようもない」
ミアの言う通り、山の中で精神に異常をきたす原因となっているのは、恐らく山の土地に眠ると言われている光脈と呼ばれる生命力の溢れる精気の流れとみて間違いないだろう。
WoFの世界では、強過ぎる魔力、強過ぎる生命エネルギーなど、生き物の限界を超えた力に近づき過ぎると、その力に当てられた本来個々が持つ魔力や生命力の限界を超えて影響を受けてしまい、波長が乱され存在の維持自体が困難になる事があるとされている。
生半可な者では近づく事すら出来ず、強い魔力を帯びた土地や源流から漏れ出した僅かな流れに当てられただけで、生命維持の危機に陥る事すらあると言われている。
それだけ北の山、回帰の山に眠るとされている光脈が純度の高い精気で満たされているのかが分かる。
「だが調査隊なんて言われてるくらいだ。何か光脈の性質や特徴について掴んでいるんだろう」
「何でそんな事が分かるんです?」
「じゃなきゃ調査隊なんてとっくに解散させられているだろう。無駄に命を落としにいくようなものだ。止められなかったとでも思うか?」
「それは・・・」
「それに近くに住む連中も、下手の事されて山の怒りを買いたくはないだろう。無茶なことをする連中なら、それを止めようと暴動が起きてたって不思議じゃねぇのに見逃されてるってのが、その連中がイカれた連中じゃないって証拠だ」
彼女の推察に納得した様子のアカリ。だがアカリの抱える紅葉は何処かソワソワとしていた。普通の鳥でも魔物とも違う、不思議な生態をしている紅葉には、人間には感じ取れない何かを感じているのだろうか。
調査隊の居るという所在地に到着する二人。そこにあったのは想像していたような建物とは大きく異なり、他の街の民家や建物とは異なるどこか寂れたボロい作りの建物だった。
「・・・えっと、ここがその・・・調査をされている方々がいるという場所で、間違いないのでしょうか?」
「少なくとも、予算はなさそうだな・・・」
山に入っていく者達の被害を抑えたり、問題解決へ繋がるような成果をあげられないからか、街からの支援は受けられていない様子だった。稼ぎは個人個人の収入から出している、謂わばボランティアに近い活動なのかも知れない。
「とっ取り敢えず入るぞ」
「はっはい!」
早速戸を叩き声を掛けるミア。少ししてその呼び声に応えるように中から一人の男が戸を開き、顔をのぞかせる。その男の顔は少し頬が痩けており、無精髭を生やした細身といった印象を受ける男だった。
「・・・何か?」
「回帰の山の事について教えて欲しいんですが」
「わざわざここに聞きに来るって事は、他所から来た人かい?まぁ入んなよ、あまり良いもてなしはできないけど」
内装は至って普通であり、外観ほど傷んでいる様子はない。そして中にはもう一人、アカリくらいの青年が座ってこちらを見つめていた。
「あぁ、彼は俺と同じで山で起きる現象について調べてる仲間の・・・」
「“カガリ”です」
先に名前を口にした青年に対し、ミアとアカリも自己紹介を済ませる。カガリに空いているところに腰掛けるよう勧められているうちに、男がお茶を入れて戻って来た。
「すまんな、先に名前を聞いてしまった。俺は“ミネ”という。多分街で俺達の話を聞いて来ただろうが、山の光脈について調べてる者だ」
二人の事については分かったが、他の人物の姿が見えない。調査隊というくらいだ、他にも隊員がいるはずだと思ったミアは、ミネに他の隊員は何処にいるのかと問うと、彼はキョトンとした表情で答える。
「隊員は俺達だけだ」
「は?二人だけ!?」
「前はもっといたんだがな。山に入って光脈を調べる中で、何人も山の精気に当てられちまってな・・・。みんなおかしくなっちまって、山から戻らなかった」
「戻らなかったっていうのは・・・」
ミネは首を横に振った。明確に他の隊員の行方については口にしなかったが、恐らくそのまま山の中で死亡してしまったのだろう。或いは今も山の中で生きているのか。
何にしろ山に詳しい彼らであっても、確実に山の精気を回避するという術は無いようだ。調査を続けるうちに、そういったおかしくなった隊員達を見て、他の者達は山の事を調べるのは不可能だと判断して、皆彼らの元を去って行ってしまったらしい。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる