World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,568 / 1,646

無自覚の変化

しおりを挟む
 馬車の主人から買った菓子を片手に、窓から見える景色を堪能しながら腹ごしらえを済ませる一行。すると、流れる景色の先に次第に他の土地からやって来る馬車や旅の一行の列などが見え始める。

「アカリ、見ろよ人だ!」

「ホントだ。街が近いのかな?」

 ツバキとアカリの会話に、大人組の三人も窓から見える景色に視線を送る。道中を歩む者達の先を見ると、そこにはアルバ程の大きな街が見えてきた。山の麓の街と言われた時は、村のように寂れた感じの街を想像していたシンだったが、どうやらそういう訳でもなさそうで少し安堵していた。

 あれだけ広ければ、ギルドや必要な買い物など、ある程度の事は一通りこなせそうだ。ツクヨが話していた温泉や自然豊かな景色の中で、新鮮な空気を堪能するという訳には行かなそうだが、しっかりした街の様子からもそれなりに良い宿が取れそうだ。

 一休み出来るところがあれば、シンは落ち着き次第現実世界で瑜那が準備してくれたメッセージ機能を使ってみようと考えていた。事前に使用感を確かめておかなければ、咄嗟の時に上手く使えないかも知れないからだ。

「なぁ~んだ、大自然の中でリフレッシュって訳には行かなそうだね・・・」

「まぁ良いじゃないか、これはこれでゆっくり出来そうだ。それに山も近いだろ?ほら、街の奥側にケヴィンの言ってた北の山が見える」

 馬車の窓から見える景色に、街並みの他に広大な範囲の山のシルエットが映し出される。まだここからでは大分距離があるように見えるが、それでも明らかに大きく見える山のシルエットに、どうやってこんな山を越えていくのか想像がつかない程のスケールを一行は感じていた。

 それから間も無くして馬車はハインドの街へと入って行き、組合の停留所辺りまで行くと、馬車の主人はそこでシン達一行を下ろし、積んでいた商品の確認作業へと入る。

 主人に別れを告げ、先ずは恒例の泊めれる宿探しへと向かう。前の街が観光地でもあったせいか、アルバとの人の往来の違いにまるでハインドの街が寂れているような錯覚に陥っているようだった。

「街の広さの割には、人通りが少ないな」

「そうか?こんなもんだろ。アルバが異常だっただけだって。こっちの方が幾分か落ち着いて休めそうだ」

「何だよ、また休む気かぁ?」

「急ぐ旅でもないんだから。不安な話も聞いてしまいましたし、準備はしっかり整えてから!ですよね?ミアさん」

「あっあぁ、なんかアタシがやらかすとでも思ってそうな言い方だな」

 アカリは直ぐにそんなつもりはなかったのだと弁解したが、実際穏やかな日々を過ごすと緊張感が抜けて、いつまでもこんな生活を送りたいと思うようになってしまう。

 無論、それが悪いことではないのだが、現実世界の異変やこちらの世界の異変が、彼らが止まっている間にも着々と動き出しているであろうことを思うと、心の隅に押し込んでいたざわめきが一気に溢れ出して来るようだった。

「アカリの言う通り、先ずは宿探し。それから北の山についての情報収集だ。馬車の主人の話も気になるが、事実確認とその対策について情報をまとめたい。またチームを分けての情報収集になるが、何か問題があれば直ぐに宿に・・・」

 すっかり一行のこれからの行動と、目的を指示できるようになっていたシンの姿を見て、一瞬ミア達はポカンとした表情を浮かべるも、これまでの旅や現実世界での出来事が彼を成長させたのだと思うと、まるでそれを暖かく見守る者達の表情へと変わる。

「なっ何だよ、急に黙ってニヤニヤして・・・」

「別にぃ~?」

「ミア!シンの言う通りだね、ゆっくり休むのも先ずはしっかりとやるべき事をやってからだ」

 妙な反応を示すツクヨとミアに対して、ツバキとアカリは何故二人が舞い上がっているのか不思議に思いながらも、珍しく指揮を取るシンの姿に頼もしさを感じていた。

「どうしたんだ?あの二人」

「さぁ・・・。でも今のシンさん、すっごく頼りになる感じがしましたよ」

 アカリの真っ直ぐな言葉に、突然自分がしてしまったことを冷静に思い返してしまい、シンは恥ずかしそうに赤面して顔を逸らした。

「あっありがとう・・・。あぁ、どうして急に俺、あんな事を・・・」

 するとそんな様子を見たツバキが彼の後ろから歩み寄り、まるで気合を入れるかのように背中を叩く。パチンという気持ちのいい音を立てて、ツバキは何を後悔することがあるとシンを励ました。

「何だよ、何も間違っちゃいなかったぜ?別に誰がリーダーだとかも無いんだし、アンタ達大人がビシッと言ってくれた方が気持ちも引き締まるってもんだ!」

「おっ押忍・・・」

「あ?何だそりゃぁ?」

 シンの発した謎の言葉に困惑するツバキ。気を取り直して宿屋探しに取り組む一行。今回は時間帯もさる事ながら、人の往来もアルバほどではなかった為、苦戦する事なく見つけることが出来た。

 それも見つけた宿が、丁度北の山の絶景を眺められる部屋を取ることができ、ツクヨの望みだった自然の景色を見ながらのんびりするという条件は図らずとも満たせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...