World of Fantasia

神代 コウ

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新たな旅立ちの準備

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  シン自身の胸にも響くような問い掛けをした後、そんな彼の心情や存在について一切知らないケヴィンは、つまらない愚痴を溢してしまったと笑みを浮かべながら話題を変える。

「そう言えばシンさんは何故私について来たのです?確かアルバへは、ただ立ち寄っただけだと・・・」

「あっあぁ、その・・・パーティーでの取引の件、覚えてくれているかなと思って」

 自信無さそうに語るシンに、少し考える素振りを見せたケヴィンは思い出したかのように手を叩くと、彼はシンの求める答えについて語り出した。

「そう言えばそんな約束もしましたっけ!アークシティに関して、でしたよね?貴方だけに語ればいいんですか?お仲間にも聞いていただいた方が都合がいいでしょう。どうですかこの後、何かお急ぎの用事でも無ければ、今度は宮殿の外でお話でもしませんか?」

 想像していた以上に好感のある返事を貰えた事に、シンの表情はホッと安堵したように柔らかくなる。ケヴィンも気分転換でもしたいのだろう。シンは彼の誘いに乗り、一度仲間達と合流した後、宮殿入り口にて待ち合わせの約束をしてその場は解散となった。

 ミア達はまだ宮殿の部屋で待ってくれている筈だ。アークシティの情報を得る為に立ち寄っただけの筈が、とんでもない事件に巻き込まれてしまった。色々と真相が語られた別の世界線での情報や知識も、今の世界線には持ち越す事ができず、記憶がポッカリと抜け落ち、辻褄が合うように縫い合わされている。

 故にあちらの世界線でのクリストフが果たしたかった、誤った歴史を正すと言う事も果たして実現しているのかさえ、今の彼らには分からなかった。

 そしてその場に黒いコートの人物が現れたことも、シンがクリストフとの勝負に敗れ、現実世界から送られて来た貴重なアイテムである、アサシンギルドの白獅からの贈り物の目“テュルプ・オーブ”が失われている事にも気づいていなかった。

 部屋に到着したシンが扉を開けると、既に仲間達は出発の準備を整えて待機していた。だがそこにミアの姿が見当たらない。彼の帰りを迎えたツクヨに、ミアが何処へ行ったのかと尋ねると、彼女もまた挨拶を済ませなければならない相手が居ると言って部屋を出て行ったのだと言う。

「何だ、入れ違いになっちゃったか・・・」

「まぁ待とうじゃないの。私達には時間があるんだしさ」

「いや、実はケヴィンと落ち合う約束をして来ちゃったんだ。大丈夫かな・・・?」

「ミアももう準備は済ませてあるみたいだから、もし遅くなるようだった彼をここへ連れて来ちゃえば?まぁどんな用事かはしらないけど」

 それも一つの手かと、ケヴィンを招き入れる事も視野に入れつつミアの帰りを待ちながら、シンも出発の準備を進める事にした。しかしそんな心配をするまでもなく、間も無くしてミアは部屋へと戻って来た。

「誰に挨拶しに行ってたの?」

「教団のニノンにだよ。アイツらの教団って、世界中に支部があんだろ?なら、この関係値がいつか何かの役に立つかも知れないじゃんか!リナムルん時のダラーヒムみたいにさ」

「わざわざそれを言いに行ったのかい!?全く君と言う人はただでは転ばないね」

「なんか角の立つ言い方だな。別の言い方にしてくれる?」

 いつもの他愛のない会話が戻って来た。これも事件が解決した事による安心感からくるものだろう。ここ数日の間は随分と張り詰めていたように思える。

 途中、犯人のターゲットが教団関係者だけじゃなくなったとケヴィンに言われてから、誰もが犠牲者になり得る状況にあった。警備や護衛がついているとは言え、犯行は目撃者もなく行われていた。

 誰が何処に、何人居ようが関係ない。それが残された者達の精神を知らず知らずの内に削っていたのだ。その消耗から解き離れたのが、アカリやツバキの様子からもハッキリと分かる。

「賢い!とかですかね?」

「意地汚い、だろ?」

「おいツバキ。後で覚えてろよ?」

「じょっ冗談じゃないスかミア様。馬車までのお荷物、お持ちさせて頂きます!」

「アタシの荷物はそんなに重いもんじゃない。それにお前も色々と買い込んでただろ?どうやって人の荷物まで持つつもりだよ」

「ふふふ、俺ぁここで新たな発明をしちまってなぁ~。また一段と成長しちまったって訳だ」

 そう言いながら嬉しそうにツバキは、荷物から新たな発明品として何かを取り出そうとしていた。折角まとめた荷物を広げないでとアカリに叱られる中、ミアの顔にも笑みが伺えた。

「シン、アンタの方はもういいのか?」

「それがこの後ケヴィンと落ち合う約束をして、みんなにもアークシティの話を聞いてもらった方がいいんじゃないかって・・・」

「ほう、まぁそうだな。折角だし本人から直接聞けた方がいいか。それで?何処で落ち合う事になってんだ?」

「準備が出来次第、宮殿の入り口に来てくれってさ。こんな事もあったし、今度は街で気分を変えて話そうって」

「そりゃぁ良い!折角の観光地でもあるんだ。こんな所に閉じ込められて終わったんじゃ、嫌な思い出しか残らないってもんだ」

 ミアの言う事も最もだろう。アルバに着いてから少しだけ観光はしたが、旅立ちの締めが事件では後味が悪い。有名な音楽の街とあらば、せめて最後くらいは気持ちよくこの地を去りたい。

 そんな事を考えながら荷物をまとめ、最後のシンが出発の準備を終えると、一行は部屋を後にし、ケヴィンの待つ宮殿入り口へと向かって行った。

 長い階段を降りていくと、広間にはシン達と一緒に宮殿に軟禁状態だった音楽家達とその護衛、そして迎えの者達でごった返していた。すると何処からかシン達を呼ぶ男の声が聞こえてくる。

「シンさ~ん!みなさ~ん!こっちです!」

 声のする方を見ると、そこにはケヴィンと音楽家のアンドレイ一行が集まっていた。どうやら少し待たせてしまっていたらしい。その間ケヴィンはアンドレイ達に挨拶でもしていたのだろうか。

「どうも、皆さんお揃いで。皆さんもこれからお帰りですか?」

「あぁいえ、シンさん達とはこの後少しお話がありまして・・・。良かったらアンドレイさん達からも少しお話を伺えればなと」

「何の話でしょう?」

「アークシティの事に関してです。皆さんからも何か知っている事について伺いたいのですが・・・」

 ケヴィンの申し出に、アンドレイは快く引き受けてくれたのだが、その一部始終を聞いていたシン達は、二人の会話の内容に違和感を覚えた。街のことを聞くだけなのに、何人もの証言が必要なのだろうかと。
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