World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,526 / 1,646

別の世界の音楽

しおりを挟む
 三つのシャボン玉がそれぞれに振動する。その度に黒い人物の戦闘スタイルは変わり、オイゲンはまるで三人の人物を変わる変わる相手にしているようだった。

 そんな中、接近戦を得意とするシャボン玉が振動し始めた時、盾の懐に飛び込まれたオイゲンの耳にそれは飛び込んできた。

 黒い人物が音楽というものについての口上を垂れ流す中、彼の頭の周りのシャボン玉からは、視認出来る振動の他に僅かな音が聞こえていた。言うなればこれは“音漏れ”と言うべきものだろう。

 本来は術者本人にしか聴こえない筈の音楽だが、その世界に没入するあまり周りへの配慮に欠け、周りの者にもその音が漏れているのだ。アンナやベルンハルトが用いていた歌声や演奏によるバフ効果。

 彼らはそれを相手であるブルースやミア、シン達に対して行い身体の自由を奪ってきた。それを黒い人物は自らの身体に付与し、臨機応変にそのバフ効果を使い分けているのだ。

 その影響が、黒い人物を懐に招き入れてしまったオイゲンの身体にも、僅かながらに現れた。攻防を繰り広げる二人だったが、オイゲンは黒い人物を間近に捉えた時だけ、身体に違和感を感じていた。

 それはその時の黒い人物に掛かるバフ効果に酷似していたのだ。効果料的には本人のそれとは比べるまでもないが、僅かに力が増したり速度が上がったりと、明らかに自分の能力ではない何かの介入を受けていた。

「音楽の力・・・そういう事か」

「ん?・・・ふふ、そうか語っている内に音が大きくなっていたか
。だがそれなら貴方も体験している筈だ。音楽によって人は思想や身体能力さえ変化するのだと。これはこの世界の歴史にも確かに存在する」

 黒い人物が語ったもの。それは戦いに赴く前に行われる儀式が由来だと言う。古来より合戦の前には神仏への勝利祈願として、士気を高める為の奉納の舞や儀式が行われていたという。

 その際にはその当時に用いられていた楽器や歌などが使われていたのだと。音楽に胸を躍らせ、血肉を激らせ、時に催眠術のように己の精神と肉体を強化していた。

 だが黒い人物の聴いている音楽に、オイゲンは驚きと衝撃を受けていた。それは彼らの世界であるWoFの世界ではまだ開拓されていない、メタルやテクノポップといった、シン達が来た世界の音楽が聴こえてきたからだ。

 聴き馴染みのない楽器や曲調にアレンジされたその音楽は、その節々にWoFの世界でも有名なバッハの曲を彷彿とさせるポイントがいくつも散りばめられていた。

「何だこの音楽は・・・?聴いたことも無いような、しかし何処か聴き馴染みのある部分もあるが・・・」

「我々では未だ理解出来ぬ音楽・・・。どうやらこれは“別の世界線”で奏でられているジャンルだそうです。それを用いてバッハの曲を俺がアレンジしたものです」

「?」

 彼の言葉に曖昧な点がある。まるで“別の誰か”から授かったものかのような言い方に、オイゲンは眉を潜ませる。彼の言う“別の世界線”とは、今オイゲンらがいるこの黒い人物の思惑によって作り出された世界の事なのか、それともケヴィンらが送られた”元の世界“の事を言っているのか分からなかった。

 しかし黒い人物はその点について一切触れることもなく、目的の更なる詳細を戦いの中で語る。

「この力を用いて、盗まれた我らが血族の能力と力が込められた月光写譜を、俺のアレンジで正史へと昇華させ取り戻すッ!」

「つまりお前の言う正史とは、人を変える力を持つ能力で描かれた楽譜を盗み、自分の力としたバッハからそれを取り戻す事にあると?」

「取り戻すだけではない。正しくあるべきだった歴史へと誤った歴史を正すのが俺の目的・・・。その為に全てを捧げてきた。その協力者に彼らが現れたのも、導かれるべくして導かれた縁なのかも知れないな・・・」

 オイゲンと黒い人物が戦いの中で音楽の可能性や別の何者かの介入、そして目的について話していると、それまで動きの見られなかったパイプオルガンの前で陣取っていたベルンハルトが、何かに誘い込まれるように持ち場を離れ、その場で動きを止めた。

「ッ!?」

 オイゲンの反応を見て振り返る黒い人物。するとそこには、まるで何かに繋がれるように身動きを封じられ、もがくベルンハルトの姿がそこにはあった。そして彼が居たはずのオルガンには、何処に隠れていたのかカルロスが椅子に座り、鍵盤に指をかけていた。

「カルロスッ・・・!?一体今まで何処にッ・・・?いや、それ以前に何故ベルンハルトが・・・!?アンナはどうしたッ!?」

 突然の状況の変化に、再び慌て始める黒い人物。周囲を見渡してもアンナの姿が見当たらない。今にして思えば、ケヴィンへ攻撃をを仕掛けた後、周囲の警戒を担当していた筈のアンナの声は、いつの間にかフェードアウトするように聞こえなくなってた。

 目を逸らした黒い人物の隙を突き、彼の周りにアンナ達を閉じ込めたものと同じ半円状のシールドを展開し、閉じ込めるオイゲン。そんなに長くは保たないことは覚悟していた。

 だがこの隙に出来ることがあると走り出した彼は、何かによって動きを封じられているベルンハルトにトドメを刺すべく、盾の内側に備えられていた剣を取り出し、眩い光を纏わせる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

「やり直しなんていらねえ!」と追放されたけど、セーブ&ロードなしで大丈夫?~崩壊してももう遅い。俺を拾ってくれた美少女パーティと宿屋にいく~

風白春音
ファンタジー
セーブ&ロードという唯一無二な魔法が使える冒険者の少年ラーク。 そんなラークは【デビルメイデン】というパーティーに所属していた。 ラークのお陰で【デビルメイデン】は僅か1年でSランクまで上り詰める。 パーティーメンバーの為日夜セーブ&ロードという唯一無二の魔法でサポートしていた。 だがある日パーティーリーダーのバレッドから追放宣言を受ける。 「いくらやり直しても無駄なんだよ。お前よりもっと戦力になる魔導士見つけたから」 「え!? いやでも俺がいないと一回しか挑戦できないよ」 「同じ結果になるなら変わらねえんだよ。出ていけ無能が」  他のパーティーメンバーも全員納得してラークを追放する。 「俺のスキルなしでSランクは難しかったはずなのに」  そう呟きながらラークはパーティーから追放される。  そしてラークは同時に個性豊かな美少女達に勧誘を受け【ホワイトアリス】というパーティーに所属する。  そのパーティーは美少女しかいなく毎日冒険者としても男としても充実した生活だった。  一方バレッド率いる【デビルメイデン】はラークを失ったことで徐々に窮地に追い込まれていく。  そしてやがて最低Cランクへと落ちぶれていく。  慌てたバレッド達はラークに泣きながら土下座をして戻ってくるように嘆願するがもう時すでに遅し。  「いや俺今更戻る気ないから。知らん。頑張ってくれ」  ラークは【デビルメイデン】の懇願を無視して美少女達と楽しく冒険者ライフを送る。  これはラークが追放され【デビルメイデン】が落ちぶれていくのと同時にラークが無双し成り上がる冒険譚である。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

処理中です...