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探偵の決死の覚悟
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「馬鹿な真似、しようとしてんじゃないでしょうねぇ!?」
「しかしこのままオイゲン氏が戦っていても、ジリ貧になるだけでいずれは私達の番が来ます・・・」
「いや、でも下手に動いたらそれこそ順番が早まるだけなんじゃ?」
オイゲンの様子を見ても、アンナとベルンハルトの波状攻撃に合い、防戦一方となっている。黒い人物がケヴィンとカルロスに手を出さないように指示しているという事もあり、今は見逃されているがいつ気が変わるとも限らない。
カルロスは乗り気ではなかったが、ケヴィンには何か考えがあるのだろうか。霊体の二人とその後ろに控える黒い人物の様子を注意深く観察するケヴィン。
すると、奥にいた黒い人物に何やら動きが見られた。自分の身体の一部から紙のような物を取り出すと、まじまじとそれを眺め始めた。
「漸く揃った・・・。ここまで長かったが、これで悲願が達成される・・・。アンブロジウスさんはまだ戦っているようだが、それも彼を送ったら終わりだ」
オイゲンが大きな音を立てて盾を床に突き刺す。アンナの声とベルンハルトの無数に弦を一辺に弾き返したオイゲンだったが、その顔には焦燥の色が伺えた。
と、その時黒い人物が何かに背後から貫かれ、持っていた紙が宙を舞う。彼を貫いたのは、彼の身体と同じく真っ黒な塗装をされた槍だった。黒い人物の胸を貫いたのはその槍は、そのまま彼の身体に突き刺さったままその勢いを殺した。
「なッ・・・何だ!?これは・・・!」
黒い人物は何処からか飛んできた槍のせいで、思うように身動きが取れないようだった。槍には何か細工がされているようだ。ふらふらと数歩前へと歩き出した黒い人物が、倒れまいと踏み止まる。
「なっ何だぁ!?」
「見てください、アレは楽譜だ!今なら奪い取れるッ・・・オイゲン氏!二人を引き留めておいて下さい」
突然のケヴィンの叫びに、何事かと驚くオイゲンだったが、彼がアンナとベルンハルトを抑えていろと言うのなら、それなりに勝機のある行動を取ろうとしているのだろう。
「ッ!?任せろ!」
元々そのつもりだと言わんばかりに、今度はアンナとベルンハルトを個々に覆うシールドを展開するオイゲン。彼のシールドには内側に強度の魔力が込められており、そう易々とは出られない仕組みになっていた。
それにアンナの叫びも外に漏れる事はなく、邪魔をされる事もない。そしてベルンハルトもシールドの内側からでは、外に弦を出現させる事は出来ないようだ。
「あの槍・・・。角度的にかなり床に近い位置から放たれたもののようだ。アンダースローで投げるにしても、あれだけの長物をあの角度で投げる事など、通常では不可能。となると・・・」
ケヴィンは嬉しそうに口角を上げながら走り出す。そしてアンナとベルンハルトが拘束されている内に黒い人物へと近づくと、彼が手放し床に散らばった楽譜を回収する。
「アンナッ!ベルンハルトッ!!何をしている!?ソイツを殺すんだッ!!」
焦っているのか大きく口調が変わった黒い人物の声が、礼拝堂に響き渡る。だがその力強い声とは真逆に、黒い人物はその場で崩れ落ち、片膝をついて椅子にもたれ掛かっていた。
すると黒い人物の一喝に呼応するように、アンナとベルンハルトがより強力なスキルを使い出した。使役する人物の魔力供給を受けた事で、それまで制限されていた力が一時的に解き放たれる。
悍ましい程の絶叫をあげるアンナの声に、オイゲンのシールドが強固な内側から破壊された。そしてベルンハルトも同じく、シールドの中より生み出した強靭な弦を複数単位で捻り、一本の太い弦を作り出し勢いよくシールドを貫き、鳥籠からの脱出を果たした。
「おっおい!ケヴィンさん!?ヤバいって!!」
アンナとベルンハルトが拘束から解き放たれると、鋭い視線をケヴィンの方へと向ける。殺気の篭もった視線にケヴィンは、拾い上げた楽譜を丸め、懐から取り出した懐中時計のチェーンを巻き付けて、カルロスの方へと投げた。
「さぁ!ここからは君の番だよ、カルロス君!」
楽譜を投げるケヴィンの背後には、アンナとベルンハルトが迫っていた。最早オイゲンのシールドでは個々に覆うことは出来ない。何をするにしてもケヴィンを巻き込んでしまう。
「ケヴィンッ!!」
「オイゲン氏。我々の勝利には犠牲が必要不可欠。安心召されよ、私は死なない・・・」
楽譜を投げた勢いで床に倒れ込んだケヴィンの元に、両手を拡声器のように口に当てたアンナの叫びと、捻って強固となった弦を複数携えたベルンハルトの強烈な合わせ技が襲い掛かる。
床に風穴が開くほどの二人の一撃は、床のタイルを打ち砕き土煙をあげる。
「カルロスを逃すなアンナ!ベルンハルトはオルガンに誰も近づけさせるな!」
ケヴィンの思惑を徹底的に潰すべく、すぐさま布陣を展開する黒い人物。ゆっくりながら何とか身体から槍を引き抜いた黒い人物は、それを床に放ると周囲の状況を見渡す。
アンナとベルンハルトが巻き起こした広範囲に渡る土煙が徐々に晴れようとしたところで、肉眼では視認しづらい空間の歪みが、まるで壁のように黒い人物へと迫り来る。
「しかしこのままオイゲン氏が戦っていても、ジリ貧になるだけでいずれは私達の番が来ます・・・」
「いや、でも下手に動いたらそれこそ順番が早まるだけなんじゃ?」
オイゲンの様子を見ても、アンナとベルンハルトの波状攻撃に合い、防戦一方となっている。黒い人物がケヴィンとカルロスに手を出さないように指示しているという事もあり、今は見逃されているがいつ気が変わるとも限らない。
カルロスは乗り気ではなかったが、ケヴィンには何か考えがあるのだろうか。霊体の二人とその後ろに控える黒い人物の様子を注意深く観察するケヴィン。
すると、奥にいた黒い人物に何やら動きが見られた。自分の身体の一部から紙のような物を取り出すと、まじまじとそれを眺め始めた。
「漸く揃った・・・。ここまで長かったが、これで悲願が達成される・・・。アンブロジウスさんはまだ戦っているようだが、それも彼を送ったら終わりだ」
オイゲンが大きな音を立てて盾を床に突き刺す。アンナの声とベルンハルトの無数に弦を一辺に弾き返したオイゲンだったが、その顔には焦燥の色が伺えた。
と、その時黒い人物が何かに背後から貫かれ、持っていた紙が宙を舞う。彼を貫いたのは、彼の身体と同じく真っ黒な塗装をされた槍だった。黒い人物の胸を貫いたのはその槍は、そのまま彼の身体に突き刺さったままその勢いを殺した。
「なッ・・・何だ!?これは・・・!」
黒い人物は何処からか飛んできた槍のせいで、思うように身動きが取れないようだった。槍には何か細工がされているようだ。ふらふらと数歩前へと歩き出した黒い人物が、倒れまいと踏み止まる。
「なっ何だぁ!?」
「見てください、アレは楽譜だ!今なら奪い取れるッ・・・オイゲン氏!二人を引き留めておいて下さい」
突然のケヴィンの叫びに、何事かと驚くオイゲンだったが、彼がアンナとベルンハルトを抑えていろと言うのなら、それなりに勝機のある行動を取ろうとしているのだろう。
「ッ!?任せろ!」
元々そのつもりだと言わんばかりに、今度はアンナとベルンハルトを個々に覆うシールドを展開するオイゲン。彼のシールドには内側に強度の魔力が込められており、そう易々とは出られない仕組みになっていた。
それにアンナの叫びも外に漏れる事はなく、邪魔をされる事もない。そしてベルンハルトもシールドの内側からでは、外に弦を出現させる事は出来ないようだ。
「あの槍・・・。角度的にかなり床に近い位置から放たれたもののようだ。アンダースローで投げるにしても、あれだけの長物をあの角度で投げる事など、通常では不可能。となると・・・」
ケヴィンは嬉しそうに口角を上げながら走り出す。そしてアンナとベルンハルトが拘束されている内に黒い人物へと近づくと、彼が手放し床に散らばった楽譜を回収する。
「アンナッ!ベルンハルトッ!!何をしている!?ソイツを殺すんだッ!!」
焦っているのか大きく口調が変わった黒い人物の声が、礼拝堂に響き渡る。だがその力強い声とは真逆に、黒い人物はその場で崩れ落ち、片膝をついて椅子にもたれ掛かっていた。
すると黒い人物の一喝に呼応するように、アンナとベルンハルトがより強力なスキルを使い出した。使役する人物の魔力供給を受けた事で、それまで制限されていた力が一時的に解き放たれる。
悍ましい程の絶叫をあげるアンナの声に、オイゲンのシールドが強固な内側から破壊された。そしてベルンハルトも同じく、シールドの中より生み出した強靭な弦を複数単位で捻り、一本の太い弦を作り出し勢いよくシールドを貫き、鳥籠からの脱出を果たした。
「おっおい!ケヴィンさん!?ヤバいって!!」
アンナとベルンハルトが拘束から解き放たれると、鋭い視線をケヴィンの方へと向ける。殺気の篭もった視線にケヴィンは、拾い上げた楽譜を丸め、懐から取り出した懐中時計のチェーンを巻き付けて、カルロスの方へと投げた。
「さぁ!ここからは君の番だよ、カルロス君!」
楽譜を投げるケヴィンの背後には、アンナとベルンハルトが迫っていた。最早オイゲンのシールドでは個々に覆うことは出来ない。何をするにしてもケヴィンを巻き込んでしまう。
「ケヴィンッ!!」
「オイゲン氏。我々の勝利には犠牲が必要不可欠。安心召されよ、私は死なない・・・」
楽譜を投げた勢いで床に倒れ込んだケヴィンの元に、両手を拡声器のように口に当てたアンナの叫びと、捻って強固となった弦を複数携えたベルンハルトの強烈な合わせ技が襲い掛かる。
床に風穴が開くほどの二人の一撃は、床のタイルを打ち砕き土煙をあげる。
「カルロスを逃すなアンナ!ベルンハルトはオルガンに誰も近づけさせるな!」
ケヴィンの思惑を徹底的に潰すべく、すぐさま布陣を展開する黒い人物。ゆっくりながら何とか身体から槍を引き抜いた黒い人物は、それを床に放ると周囲の状況を見渡す。
アンナとベルンハルトが巻き起こした広範囲に渡る土煙が徐々に晴れようとしたところで、肉眼では視認しづらい空間の歪みが、まるで壁のように黒い人物へと迫り来る。
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