World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,513 / 1,646

無数の霊体の正体

しおりを挟む
 近接戦には慣れていないであろうアンナは、ツクヨの思惑通り飛び散る斬撃に手を焼いていた。辛うじて致命傷は避けてはいるようだが、全てを防ぐ切る事は出来なかったようで、身体のあちこちを掠めていった斬撃は、彼女の身体を形成している魔力を削り取り、黒い塵が舞っていた。

「アンナさん!バフはもう大丈夫です。ここからは貴方も攻撃に参加して下さい」

「作戦は敵の前で口にするものじゃないよ?」

 今度は黒い人物の方へと攻撃を仕掛けるツクヨ。だが黒い人物も既に何度もツクヨの太刀筋を見てきたが故に、そう易々とは捉えられなくなっていた。

「聞かれても問題のない作戦ならどうです」

「何・・・?」

 すると黒い人物は、距離のあるアンナに直接言葉で指示を出した。標的は柱の陰に隠れているシンの本体。黒い人物の指示で可能な限りの謎の人物を召喚させると、人海戦術という力技に出た。

「数で押し切る気か!?マズイ!流石にこの数は捌き切れないぞ!」

 急ぎシンの元へと向かう謎の人物達を、リナムルで作ってもらった不思議な力を持つ刀で迎え撃つ。刃に悍ましいオーラを溢れさせ、全力に一振りを霊体の群れに放つ。

 黒い人物も警戒した、ツクヨの生み出すそのオーラに当てられた謎の人物達は、みるみるその数を減らしたが、辛うじて生き残った者達がシンのいる柱にまで到達する。

「シンッ!!」

「人の心配をしてる場合ですか?」

 仲間を狙う者達に気を引かれている内に、ツクヨの直ぐ側には黒い人物とアンナが近づいていた。そして黒い人物が身を屈めると、アンナは手を伸ばして袖の中から蜘蛛の糸のように楽器に使われる弦を放つ。

 咄嗟にそれを弾こうと、禍々しいオーラを纏う刀を振るう。オーラに触れた弦はたちまち燃え上がり、炭のようになって消滅していく。それを黙って見ていた黒い人物は、彼らが召喚する謎の人物達の正体について口にしたのだ。

「貴方達が倒しているそれらが、一体何者なのか・・・。考えた事はありますか?」

「・・・何を言っている?」

「我々が使役する彼らは、召喚士のクラスのように魔力があれば無尽蔵に呼び出せるモノじゃない。際限のあるもの・・・要するに呼び出すのには限りがあります」

 突然語り出した謎の人物達に関する情報が、果たして本当の事なのか、或いはツクヨを動揺させる為のものなのか。どちらにせよ、それを聞かされたツクヨは黒い人物の思惑通り、僅かに動揺を見せる事になる。

「彼らはただの霊体じゃない・・・。“この世界”で消滅した、現実の目覚めを待つ者達・・・アルバに住む人々やこの宮殿で消えた者達の霊魂なんですよ」

「ッ!?」

 ツクヨの脳裏に真っ先に過ったのは、目の前で救うことの出来なかったツバキや紅葉、そしてプラチドの存在だった。謎の人物達はマントのような衣と仮面で素顔を見る事はできない。

 だが戦っているツクヨには、彼らが妙に人間らしい気配であった事が、今にして思えば確かにあった。一度それがアルバの人々の霊魂だと認識させられてしまうと、これまで何気なく振るっていられた攻撃の手が僅かに鈍る。

「くッ・・・!だがそれでは矛盾しないか!?貴方が言っている事が本当に正しいのなら、私達が消えるのは死ぬ訳ではない筈。しかし彼らの霊魂を召喚し使い捨てるのなら、それは死んでいる事になるんじゃないか!?」

「・・・貴方は随分と察しがいい・・・。そう、私には彼らに生きていてもらわなければならない。死なれては目的が果たせないからです」

「目的・・・?確か本当に歴史がどうとか言っていましたね」

「そう、本当の歴史・・・謂わゆる正史を取り戻す事こそ、俺の・・・本当の“バッハ一族”の祈願なんだッ・・・!」

 黒い人物の会話に気を逸らされ、それまで視界の中にいたアンナの姿が見当たらなくなっていた。それに気が付き、探し始めた時には既に彼女はツクヨの直ぐ背後にまで接近していた。

 丁度その頃、ツクヨの体内に影と共に意識を送り込んだシンは、彼の心臓部付近に同じような気泡が仕込まれているのを発見する。

「やっと見つけた!これでツクヨが音に苦しめられる事も・・・」

 シンは影を通してツクヨの中にある気泡を、ツクヨ自身の身体の外にある床に映る影へと送り込む。僅かな痛みと共に、床にツクヨの中に仕込まれていた気泡と彼の血液が漏れる。

 しかしタイミングが悪く、シンが身体の外に排出させた気泡と血液の上に、攻撃を回避しようとしたツクヨが着地する。気泡自体は問題なかったのだが、己の血液で足を滑らせてしまったツクヨは、バランスを崩しアンナの手に掴まれそうになっていた。

「ツクヨ!異物は排除したぞ!これでッ・・・」

 影のゲートをツクヨの髪の影に繋げ言葉を伝えるシン。だが彼がツクヨの体内で気泡の摘出を行っている間に、事態は芳しくない方向へと向かっていたようだ。

「ありがとう、シン・・・。でも君はこのまま、彼らにバレないように逃げるんだ・・・!」

「どうした!?何を言っている?今戻るからもう少しだけ持ち堪えてッ・・・」

「よせ!もう・・・手遅れだよ・・・」

 ツクヨの言葉には力がない。声の中から微かに苦痛を我慢しているようにも取れる反応が伺える。急ぎツクヨの身体から離れ、自分の身体に意識を戻したシンが、恐る恐る柱の陰から状況を覗き見る。

 するとそこには、至る所に繋がれた音を伝達する弦が、広場一帯に蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...