1,512 / 1,646
施術の開始
しおりを挟む
苦しい選択を迫られる中、ツクヨは悩むシンの表情を見てその背中を後押しする事を決意する。それは即ち、ツクヨ一人でアンナと黒い人物の両方を相手にする事になるという事だ。
「・・・シン、君なら私の中のソレを排除出来るのかい?」
「自分のしかやった事がないから確証はないが・・・。だが海上レースの時はハオランの意思の中も行けた。だから可能な筈・・・!」
可能性の光を見続けているシンの瞳に意志を固めたのか、ツクヨは彼に自身の中に埋め込まれた音の振動に連動する気泡を取り除いてくれと申し出る。
「じゃぁ決まりだ。私が彼らの相手をする、そしてスキルを使っている間、君の事も守ってみせるよ」
ここで何を言っても、新しい作戦が浮かんでくる訳でもない。それにツクヨの決意を無碍にする事にも繋がる。それは彼も望んでいないだろう。ツクヨの意志を汲み取り、シンは彼の中にある気泡を取り除く為、一時的に無防備になる事を伝える。
「・・・分かった。ただスキル使用中は無防備になるから、出来るだけ邪魔にならないところへ避難する」
「オーケーだ。場所さえ教えてくれれば、後は何とか持ち堪えてみせるよ!」
シンはその場から離れると、近くに柱の陰に身を隠し、ツクヨのいるところまでの動線を確認して自身の意識を乗せた影を、ツクヨの元へと走らせる。
「また何か企んでいるんですか?無駄ですよ・・・ここじゃ俺がルールなんだから・・・」
黒い人物はツクヨの決意に満ちた姿に夢中で、彼に迫るシンの影には気づていない様子だった。その隙にツクヨの身体を登っていくシンの影。そして彼の耳から体内へと入り込むと、自分の時と同じように心臓を目指した。
黒い人物は僅かにアンナの方へ視線を送ると、それが何かの合図だったのか、アンナの側に謎の人物が現れる。その手には例のスピーカーが握られており、召喚された二体の謎の人物はその場を飛び去ると、ツクヨを無視してシンの隠れている柱の方へと向かっていった。
「させるかッ!」
差し向けられる刺客を始末しようとするツクヨ。だがそれを阻むように黒い人物が彼の前に立ちはだかる。
「それはこっちのセリフだよ。アンナさん!」
黒い人物の合図で、アンナは歌の曲調を変え始めた。すると今度は、それまでツクヨの身体を強制的に強化していたバフが、全く逆の効果をもたらし始めたのだ。
身体は重く、行動の一つ一つが自分が思っているよりも遥かに前へと進まない。腕を真っ直ぐ伸ばそうとしても、頭では伸ばし切ったつもりで、実際はまだ肘が曲がっている。
そこから身を乗り出して腕を伸ばそうとしないと、実際には腕が伸び切らないといった、ある意味ツクヨの布都御魂剣が見せる創造の景色と似ている。認識と実際の結果が伴わない現象に、ツクヨは直ぐに彼にしか出来ない対処法を編み出した。
それは同じく認識と実際の結果を変える布都御魂剣の能力だった。黒い人物の前で目を閉じた彼は、布都御魂剣を振い黒い人物を牽制すると、素早い剣捌きで斬撃を飛ばす。
放たれた斬撃は、シンの元へと向かった謎の人物達を切り裂き消滅させた。背後から攻撃を仕掛ける黒い人物だが、その気配と殺気はツクヨの瞼の裏に写っていた。
振り返る事なく攻撃を躱すツクヨ。そのまま振り返り、互いに攻撃を交わす中で体勢と向きを変えていたツクヨは、黒い人物と後方にいるアンナが一直線上に重なるように誘導していた。
そしてわざと大振りの一撃を振るうと、黒い人物はこれを弾き隙を見せたツクヨに掴み掛かろうとする。思惑通りに誘い込まれた黒い人物に対し、僅かに飛び退くと同時に握った剣に力を込めると、目にも留まらぬ剣捌きで複数の斬撃を撃ち放った。
黒い人物は難なくそれをかわしてみせるも、その先にアンナがいる事に漸く気が付いたのか、ツクヨの攻撃が終わる少し前辺りから、斬撃を避けるのではなく弾くことにシフトした。
「誘い込んでいたのかッ!?」
アンナは飛んでくる斬撃に、歌を中断せざるを得なくなり、回避に専念し始めた。だが避けたはずの斬撃は、ツクヨの合図で破裂し、細かな斬撃となって周囲に散らばった。
「・・・シン、君なら私の中のソレを排除出来るのかい?」
「自分のしかやった事がないから確証はないが・・・。だが海上レースの時はハオランの意思の中も行けた。だから可能な筈・・・!」
可能性の光を見続けているシンの瞳に意志を固めたのか、ツクヨは彼に自身の中に埋め込まれた音の振動に連動する気泡を取り除いてくれと申し出る。
「じゃぁ決まりだ。私が彼らの相手をする、そしてスキルを使っている間、君の事も守ってみせるよ」
ここで何を言っても、新しい作戦が浮かんでくる訳でもない。それにツクヨの決意を無碍にする事にも繋がる。それは彼も望んでいないだろう。ツクヨの意志を汲み取り、シンは彼の中にある気泡を取り除く為、一時的に無防備になる事を伝える。
「・・・分かった。ただスキル使用中は無防備になるから、出来るだけ邪魔にならないところへ避難する」
「オーケーだ。場所さえ教えてくれれば、後は何とか持ち堪えてみせるよ!」
シンはその場から離れると、近くに柱の陰に身を隠し、ツクヨのいるところまでの動線を確認して自身の意識を乗せた影を、ツクヨの元へと走らせる。
「また何か企んでいるんですか?無駄ですよ・・・ここじゃ俺がルールなんだから・・・」
黒い人物はツクヨの決意に満ちた姿に夢中で、彼に迫るシンの影には気づていない様子だった。その隙にツクヨの身体を登っていくシンの影。そして彼の耳から体内へと入り込むと、自分の時と同じように心臓を目指した。
黒い人物は僅かにアンナの方へ視線を送ると、それが何かの合図だったのか、アンナの側に謎の人物が現れる。その手には例のスピーカーが握られており、召喚された二体の謎の人物はその場を飛び去ると、ツクヨを無視してシンの隠れている柱の方へと向かっていった。
「させるかッ!」
差し向けられる刺客を始末しようとするツクヨ。だがそれを阻むように黒い人物が彼の前に立ちはだかる。
「それはこっちのセリフだよ。アンナさん!」
黒い人物の合図で、アンナは歌の曲調を変え始めた。すると今度は、それまでツクヨの身体を強制的に強化していたバフが、全く逆の効果をもたらし始めたのだ。
身体は重く、行動の一つ一つが自分が思っているよりも遥かに前へと進まない。腕を真っ直ぐ伸ばそうとしても、頭では伸ばし切ったつもりで、実際はまだ肘が曲がっている。
そこから身を乗り出して腕を伸ばそうとしないと、実際には腕が伸び切らないといった、ある意味ツクヨの布都御魂剣が見せる創造の景色と似ている。認識と実際の結果が伴わない現象に、ツクヨは直ぐに彼にしか出来ない対処法を編み出した。
それは同じく認識と実際の結果を変える布都御魂剣の能力だった。黒い人物の前で目を閉じた彼は、布都御魂剣を振い黒い人物を牽制すると、素早い剣捌きで斬撃を飛ばす。
放たれた斬撃は、シンの元へと向かった謎の人物達を切り裂き消滅させた。背後から攻撃を仕掛ける黒い人物だが、その気配と殺気はツクヨの瞼の裏に写っていた。
振り返る事なく攻撃を躱すツクヨ。そのまま振り返り、互いに攻撃を交わす中で体勢と向きを変えていたツクヨは、黒い人物と後方にいるアンナが一直線上に重なるように誘導していた。
そしてわざと大振りの一撃を振るうと、黒い人物はこれを弾き隙を見せたツクヨに掴み掛かろうとする。思惑通りに誘い込まれた黒い人物に対し、僅かに飛び退くと同時に握った剣に力を込めると、目にも留まらぬ剣捌きで複数の斬撃を撃ち放った。
黒い人物は難なくそれをかわしてみせるも、その先にアンナがいる事に漸く気が付いたのか、ツクヨの攻撃が終わる少し前辺りから、斬撃を避けるのではなく弾くことにシフトした。
「誘い込んでいたのかッ!?」
アンナは飛んでくる斬撃に、歌を中断せざるを得なくなり、回避に専念し始めた。だが避けたはずの斬撃は、ツクヨの合図で破裂し、細かな斬撃となって周囲に散らばった。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。
それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。
唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。
なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。
理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り
星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意事項
※主人公リアルチート
暴力・流血表現
VRMMO
一応ファンタジー
もふもふにご注意ください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる