World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,481 / 1,646

もう一つのルート

しおりを挟む
 ミアのショットガンを利用し攻撃するも、中の弾丸はシルフの得意な風属性の魔弾が込められていた事で、その軌道は彼女の思うがままに操ることが出来たおかげで難を乗り切る二人。

「それよりどうなんだシルフ?そろそろニノンらの身体に埋め込まれた気泡を取り除けるくらいには成長したか?」

「そうね、多少風属性の熟練度は上がったみたいだけど・・・。一度試してみる?」

「頼む!」

 するとシルフはミアの元を離れ、ニノンらのいるところへと向かう。その間彼女は一人でアンブロジウスを止めることになる。だがこれは窮地ではなく、更に風属性の熟練度を高める為の時間。

 先程のように無茶な攻めは避け、着実にスキルを発動できる距離から撃ち込む安全策で戦っていれば、今のミアならジリ貧にはなろうとも打ち負ける事はないだろう。

「・・・こっちの子の方が深刻ね。私はどっちでも良いんだけど、あの子が望むのは・・・」

 ニノンとレオンの様子を確認して、より早急な対処が必要な方の身体へ入り込むシルフ。ミアの元を離れたことにより、強力な魔力は発揮出来ない。だが人の体内で小さな気泡である音響玉を探し取り除くくらいなら、大した力は必要ない。

「さて、アタシの時はそれ程時間掛からなかったけど、どれだけ持ち堪えればいい?」

 アンブロジウスはミアを標的に捉え、演奏の開始と共に謎の人物達を召喚して攻撃を仕掛ける。その中で時折、例に音響玉への信号を送るような動作を見せるが、体内からそれを取り除いたミアには通用しない。

「と、一応あの攻撃は阻止させてもらおうか!」

 なるべくニノンらの方に矛先が向かわぬよう反対側に移動しながら避難するミア。その間の攻撃にも、シルフへの魔力提供をより潤滑にする為、風の魔弾を精製しながら細かくアンブロジウスの攻撃を妨害するように撃ち込んでいく。

 戦況の変化はあったものの、シルフの音響玉の排除が成功すれば屋上でのアンブロジウス戦にも漸く終わりが見えて来る事だろう。

 しかしそれは彼女ら側が勝手に思い描くものであり、この状況はアンブロジウス側、つまり犯人にとっては予定通りの展開に過ぎなかった。

 ミアがアンブロジウスの動きを制限させる攻撃を仕掛ける中、突如として彼の周辺に彼のものとは異なる何者かの気配と、視認できるくらいの靄がアンブロジウスの頭部のすぐ側に現れ始める。

「何だ、ありゃぁ・・・?」

 肉眼でも見えているものの、ミアに現在の戦法を変更するつもりはない。それに靄が現れたとはいえ、今のところ何もアンブロジウスに変化が無いことから、下手に触れて刺激しないように心掛けていた。

 どうやらその靄は、アンブロジウスと連絡をとっているようだった。その声はミア達には聞き取れないものであり、返答するアンブロジウスの声も一行が気がつく事はなかった。

「苦戦しているようですね。しかし、ここまでよくぞ耐えて下さいました。私の方も準備が整いました。これよりは思う存分“皆さん”のお力が発揮できますよ・・・」

 何者かの声を聞いたアンブロジウスはその目に赤黒い光を宿らせ、まるで今までの演奏が手を抜いていたのかと思えるほど、これまで以上に一行へ与える付与効果を増大させた。



 一方、時間は少し遡り宮殿の屋上へオイゲンら一行が到着するよりも前、司令室を後にしたシン達は、宮殿入り口でアンナを抑えてくれているツクヨらの元に、彼女の歌声と対になるジルを届ける為護衛していた。

 道中には依然として謎の人物らが徘徊しており、彼らのいく手を阻んでくる。

「んだよッ!邪魔くせぇなぁ。こんな時にまで・・・!」

「でも、ツバキや紅葉まで戦えるのは正直頼りになる。俺一人だったらこうもスムーズには行かなかったかもしれない」

「キェーーー!」
「ふふ、紅葉も嬉しそう。何だ一緒に戦えるのを喜んでいるみたい」

 殆どがアルバの街とは関係のない者達で構成されたこちらの一行は、屋上へ向かったオイゲンらに比べても重い雰囲気はなかった。それは自身に課せられた期待と責務に緊張するジルの心を僅かながらに和らげていた。

「皆さんは何だか不思議ですね」

「ん?どうして?」

 年齢の近いアカリが、戦闘を行えない者同士で彼女の話し相手になっていた。しかしアカリもまたこのメンバーには必要不可欠なヒーラー枠として成長しており、後方支援という面で言えばシン達一行の中では誰よりも皆の役に立っている。

「みんな何処かで死の恐怖に怯えていたけど、貴方達は何だか別の世界に生きてる人みたい・・・」

「そうですか?他の方々はどうか分かりませんが、少なくとも私はそうかもしれません」

「え・・・?」

 アカリは自身に記憶がない事をジルに話した。まるで生まれたてのようにこの世界の知識を失い、目覚めた時にその場にいたのがシン達だった。どこへ行くのも新鮮で、ジルの言うように別の世界にでも来たのかのように全てが彼女の知識を潤す情報として全身に染み渡って来る。

 その影響なのか、リナムルで植物学や薬の知識を身につける時も、アカリの成長度は目を見張るものがあった。普通なら書物や実物を見ただけで、すぐに即戦力として前線で戦うもの達をサポートするレベルに達するのは難しい。

 だが彼女は習いたての技術を用いて獣人達を救ってきた。その知識や経験が人間相手でも活きてきているのかもしれない。シン達のように現実世界からやって来ている者達の事はアカリにも分からなかったが、少なくともツバキとアカリはこの世界においての死に恐怖を抱いているのは確かだろう。

 しかしそれ以上に、ツバキには海以外の世界を知らない、アカリは全ての記憶がない事から、自身に持ち合わせていない知識や景色に対する好奇心が優っているのかも知れないと、アカリはジルに話した。

「そう・・・だったの。御免なさい、何も知らないで失礼な事を」

「ううん、気にしないで。何を忘れてしまったのか、私の周りにはどんな人達がいたのか。そもそも私には、私の事を心配してくれる人がいたのかな・・・?」

 彼女の抱える恐怖は死だけではないのかも知れない。そんなアカリの漏らした心の声に、何と返したら良いのか分からなくなるジル。するとそんな気まずい時間を忘れさせるようにツバキの声が響く。

「なぁ、シン!入り口まであとどれくらいだよ!?」

「もうすぐな筈だが・・・!」

 通路を曲がった先に開けた場所があるのが見える。漸く目的地だと気持ちを引き締めて向かう一行。そして彼らが到着した時、その目に映ったのは音を扱う敵との戦闘を行っているとは思えない程不穏な静けさの中にある、静止画のような光景だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...