World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,480 / 1,646

風の制権

しおりを挟む
 シルフの力を借りたミアの銃弾をその身に受け、身体の生成を余儀なくされたアンブロジウスは、生成が完了すると攻撃がきた方角を見ながら再び演奏を始め、複数の謎の人物達を召喚し様子を見に行かせる。

 演奏により強化された彼らの動きは素早く、物体すら擦り抜けて移動する為、本格的な捜索をされたら身を隠すことなど不可能に近い。元よりミアも隠れるつもりはないようだ。

 風の属性に対する熟練度を上げる為、武器を二丁拳銃へ変えたミアは身を隠している遮蔽物で息を潜めると、彼女の元へ最初に辿り着きその姿を表した謎の人物と目を合わせ、間髪入れずに銃弾を頭に撃ち込む。

 風を纏ったその弾丸は、謎の人物の頭部に命中するとシルフの風玉と同じように周囲へ突風を巻き起こす。実体の無い彼らの頭部反映内側からの突風により、霧を晴らすかのように消し去られ身体を維持できなくなったのか、そのまま全身も塵へと変わり、風に乗って何処かへと散らばった。

 銃声を聞きつけた他の謎の人物達が、一斉にミアの元へ集まる。遮蔽物を飛び出すように走り出したミアは、手当たり次第視界に入った謎の人物に銃弾を撃ち込んでいく。

 極力頭部を狙うようにしてはいたが、全てが先程のように上手く命中する事はない。大した力添えは出来ないと言っていたシルフだが、ミアの弾丸が謎の人物によって避けられる間際、宛ら火薬に火種を撒くかの如く弾丸がその場で、着弾時と同じく風を巻き起こして破裂したのだ。

 必ずしも銃弾を命中させる必要はない。もし外したのならこちらで弾丸に込められた魔力を解放する。そういったやり取りをシルフとの間で交わしていたミアは、その言葉を信じてアンブロジウスを確実に狙える位置へと突き進む。

 粗方の取り巻きを排除し、目的の範囲にまで潜り込んだミアは、一旦遮蔽物に身を隠すと銃をショットガンへと切り替える。近距離でパワーのあるショットガンは弾も散らばる為、広範囲に攻撃が可能だ。

 だが一発一発の威力は小さく、込められる魔力量も少なくなってしまう。しかし彼女らの思惑ではそれで十分だった。飛び散る弾丸の全てが小さな風玉となり、シルフの合図で一斉に破裂する。

 すると、ただでさえ範囲の広いショットガンの攻撃は更にその範囲を拡大し、アンブロジウスの身体を吹き飛ばすという算段だった。それに広範囲攻撃である為、狙いを定める必要もなく、遮蔽物から飛び出し銃口をアンブロジウスのいる方へ向けさえすれば、それだけで攻撃の無駄撃ちはなくなる。

「行くぞシルフ!」

「任せて!」

 そしていざ遮蔽物から飛び出したミアが、彼の演奏する音を聞きある程度の位を特定して銃口をそちらの方向へ向ける。アンブロジウスもまた、姿を現したミアをその視界に捉え正に正面対決といった瞬間、彼女の構えていたショットガンの銃口が突然天を仰いだ。

 事前に話していなかった行動に驚きの表情を浮かべるシルフが、ミアの横顔を見つめる。そこには同じく目を丸くして驚く彼女の姿があった。銃身に力を入れても銃口が下がらない。ふるふると震えているミアの腕とショットガンが、その様子を表しているかのようだ。

「これはッ・・・!?」

 アンブロジウスの様子を見て、ミアはすぐ状況を飲み込んだ。突然の出来事に動揺する彼女らに対し、思惑通りだと言わんばかりの落ち着きをみせる彼は、演奏に乗せる感情をさらに激しくする。

 舞台の主役かのように踊りながらヴァイオリンを弾くアンブロジウス。ミアは何かを悟ったのか、空中で固定されたショットガンガンを掴み自身の身体を浮かせると、それを足場に後方へと飛び退いた。

 訳もわからぬといった様子で、移動するミアの後を追うシルフ。ミアの取った行動にアンブロジウスはどうするのかとシルフが後ろを振り返ると、キラキラと光何かが、空中に置き去りにされたミアのショットガンの周りに引かれていた。

「あれはッ・・・“振動を伝える弦”!」

 シルフが口にした振動を伝える弦とは、これまでバッハ一族の霊体が使用していた謎の糸の事。それが床や壁などありとあらゆる所から伸びてきており、ミアのショットガンに絡みついていたのだ。

「身の回りは彼の領域って訳ね」

「来るぞッ!」

 ミアの言葉の直後、ショットガンに絡みついていた糸が回転して、銃口が彼女らの方を向く。ミアの咄嗟の判断により飛び退いたとはいえ、まだショットガンの射程範囲内。生半可な移動ではその域から脱する事は出来ない。

 アンブロジウスに躊躇いはない。糸がショットガンの引き金に絡みつくと即座に銃身に込められた弾丸を撃ち放った。

「でも詰めが甘いわ。ソレに込められている弾丸が何かを理解していないようね」

「シルフ!?」

 銃声と共に飛び出した弾丸は、銃口を通り過ぎると拡散しミア達の方へと襲い掛かる。だがその弾丸の軌道が、通常のショットガンのそれとは全く違うものになる。

 花が開くように弾丸は外へ外へと広がり、地面やかべ、空などに飛び散っていき、最早避けるまでもなくミア達を避けるように散らばっていった。

「私に風属性の弾を撃ち込んだところで敵うはずないもの。それに弾丸は銃身を飛び出した後、貴方の所有物から解放される。そんな状態じゃぁ初めから結果は分かっていたんじゃなくて?」

「なるほど、自分の魔力でもない攻撃が自分の手元を離れ、一切介入できない物体へと変わったのなら、風に介入できるシルフによって操作も可能になるって事か・・・」

「ややこしい言い方をするのね。要は物を投げるのと同じよ。放たれた物体は運動エネルギーこそ込められてはいるものの、軌道を変えるには途中で別の物をぶつけたり間に何か壁になる物を加えたりしない限り、軌道も変えられなければ勢いを殺すことも出来ないんだから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...