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熟練度と使役の仕組み
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散り散りになった身体の一部はそのまま塵となって消え、残った胸より上の上半身に淡い青白い光が集まって、再びアンブロジウスの身体を形成する。だが身体が作り出された途端に、彼は崩れ落ちるようにその場で膝をついた。
実体のように分かりやすい外傷はないものの、その様子からも大きなダメージを負っている事が分かる。息が上がっているのかアンブロジウスは肩を大きく揺らしている。
「弾も込めてないのに銃弾が・・・」
シルフの指示に従い放った攻撃が、想像以上の火力を有していた事に唖然とするミア。それを見たシルフは得意げな表情を浮かべながら、実態の無い弾丸の正体について説明を始める。
「今のは風で作り出した風の塊で、私達はコレを“風玉”と呼んでいるの。本気になればもっと大きいのも作れるんだけど、今の貴方の熟練度ではそこまで強力な風玉は作れないから肝に銘じておいて」
偉そうにご講述を垂れるシルフの話を華麗に聞き流したミアは、これがあれば強気に出られると悪そうな企みを含んだ表情へと変わり口角を上げる。
「ねぇ・・・私の話、聞いてた?」
「分かってるって。貴方の力の片鱗を見せてくれたって訳でしょ?正直驚かされた。まだ完全に力を引き出せていないのにこれだけの威力・・・。それに奴との相性も抜群ときた。なるほどウンディーネが推していただけの事はある」
「貴方、目の前に私がいるのに別の奴の話をするなんて、失礼じゃなくて?」
ミアの独り言がウンディーネを誉めているように聞こえたのが気に入らなかったのか、頬を膨らませて不貞腐れるシルフ。それを宥めるように彼女をフォローする言葉を添えた。
「悪かったって。ウンディーネも貴方の力が凄いんだって褒めてたって話だよ」
「そ、そお?ならいいけど・・・」
満更でもない表情を浮かべるシルフを見て、なるほど気分屋ということもあってチョロいなと思うミアだった。話を戻し、真面目な作戦について話すミアは、これが上手くいくかどうかを魔力の関連に詳しい精霊である彼女に精査してもらう。
「奴の失われた身体は、恐らく奴の魔力を使って再生成された。このまま奴の身体を損傷させ続ければ、やがて演奏なんて無視出来るくらいに弱体化していくんじゃないかと思うんだが・・・。偉大なる風の精であるシルフ様はどうお考えで?」
「そうね、着眼点は悪くないわ。ただ、生成に使われる魔力が彼自身のものであるかはまだ分からないわ」
「そうか!もしかしたら、奴を使役している本体の奴の魔力の可能性もあるって事か!」
アンブロジウスの存在を現世に呼び出し使役しているのは、彼の魂を召喚している犯人と見て間違いない。だが召喚された彼の身体を、使役者の指示に従い動かしているのは、他ならぬアンブロジウス自身だ。
ならば身体を失い、指示を実行する身体がなくなればアンブロジウスに出来ることはない。つまり身体を失ったアンブロジウスを再び使役する為には、もう一度身体を与えてやらねばならないという事だ。
その身体を用意するのは誰か。それは術者である犯人である事が予想される。シルフは遠回しにそれをミアに気づかせていたのだ。
「そう、それとさっきは身体だけだったけど被害が大きくなればなるほど、再生成に必要な魔力は多くなる。それこそ一から作り直しともなれば尚のこと」
「期待通りのようで安心したよ。それと貴方に頼みたい事が。あそこで倒れている彼女らの身体からも、その音響玉って奴を取り除いてやって欲しいんだけど・・・」
ミアの言葉にシルフはすぐに答える事はなかった。そして表情を曇らせ、それが出来ない理由について話し出した。
「残念だけどそれは出来ないわ」
「なッ・・・!?どうして。まだ私への信頼が足りないと?」
「そうじゃない。さっきも話したけど、まだ貴方の熟練度が足りないのよ。使えるようになったばかりの力は、最初から全てを使いこなす事が出来ないのは貴方もしっているわよね?つまり、まだ私の風の力を他者に使ってあげられる程器用じゃないって事よ」
「奴と戦って、熟練度を上げるしかないって事か・・・。ん?しかしウンディーネの時は割と初めから大掛かり技が使えたと思うが?」
ミアの言うように、海上レースの時に水の精霊であるウンディーネとの絆を深め、使役出来るようになった時は様々な力を惜しげもなく使えていたように思える。このシルフとの違いは本当に熟練度によるものだけなのだろうか。
「それはその時の戦場や状況によっても異なるのよ。ウンディーネが貴方に絡み始めたのは“海”という果てしない量の“水”があるフィールドだったわよね?それだけウンディーネが自在に扱える自然の力が近くに、それも無尽蔵にあった訳だから多少のプロセスをすっ飛ばしてもおかしくないという訳よ」
彼女の言い分は分かりやすく、最もらしいものだった。決して意地悪で力を貸したくないという様子ではないようだ。シルフの性格からそういった思いもあったのではと勘繰ってしまったミアは、シルフへの偏見を改めることにした。
「なら、とっとと奴を絞めないとな・・・。何ならその前に決着をつけてやるか?」
「ふふ。私、貴方のそういう強気なところ嫌いじゃない。やりたいようにやってみなさいな。出来るだけのサポートはしてあげる」
風とは本来掴みどころのないもの。その性質は風を司るシルフの性格にも反映されているかのように、事前に策を用意したり連携をとるなどというものではなく、やりたい事を想像したままに実行する“無垢なる思想“こそ、風を使役する上で最も上達するコツなのかも知れない。
実体のように分かりやすい外傷はないものの、その様子からも大きなダメージを負っている事が分かる。息が上がっているのかアンブロジウスは肩を大きく揺らしている。
「弾も込めてないのに銃弾が・・・」
シルフの指示に従い放った攻撃が、想像以上の火力を有していた事に唖然とするミア。それを見たシルフは得意げな表情を浮かべながら、実態の無い弾丸の正体について説明を始める。
「今のは風で作り出した風の塊で、私達はコレを“風玉”と呼んでいるの。本気になればもっと大きいのも作れるんだけど、今の貴方の熟練度ではそこまで強力な風玉は作れないから肝に銘じておいて」
偉そうにご講述を垂れるシルフの話を華麗に聞き流したミアは、これがあれば強気に出られると悪そうな企みを含んだ表情へと変わり口角を上げる。
「ねぇ・・・私の話、聞いてた?」
「分かってるって。貴方の力の片鱗を見せてくれたって訳でしょ?正直驚かされた。まだ完全に力を引き出せていないのにこれだけの威力・・・。それに奴との相性も抜群ときた。なるほどウンディーネが推していただけの事はある」
「貴方、目の前に私がいるのに別の奴の話をするなんて、失礼じゃなくて?」
ミアの独り言がウンディーネを誉めているように聞こえたのが気に入らなかったのか、頬を膨らませて不貞腐れるシルフ。それを宥めるように彼女をフォローする言葉を添えた。
「悪かったって。ウンディーネも貴方の力が凄いんだって褒めてたって話だよ」
「そ、そお?ならいいけど・・・」
満更でもない表情を浮かべるシルフを見て、なるほど気分屋ということもあってチョロいなと思うミアだった。話を戻し、真面目な作戦について話すミアは、これが上手くいくかどうかを魔力の関連に詳しい精霊である彼女に精査してもらう。
「奴の失われた身体は、恐らく奴の魔力を使って再生成された。このまま奴の身体を損傷させ続ければ、やがて演奏なんて無視出来るくらいに弱体化していくんじゃないかと思うんだが・・・。偉大なる風の精であるシルフ様はどうお考えで?」
「そうね、着眼点は悪くないわ。ただ、生成に使われる魔力が彼自身のものであるかはまだ分からないわ」
「そうか!もしかしたら、奴を使役している本体の奴の魔力の可能性もあるって事か!」
アンブロジウスの存在を現世に呼び出し使役しているのは、彼の魂を召喚している犯人と見て間違いない。だが召喚された彼の身体を、使役者の指示に従い動かしているのは、他ならぬアンブロジウス自身だ。
ならば身体を失い、指示を実行する身体がなくなればアンブロジウスに出来ることはない。つまり身体を失ったアンブロジウスを再び使役する為には、もう一度身体を与えてやらねばならないという事だ。
その身体を用意するのは誰か。それは術者である犯人である事が予想される。シルフは遠回しにそれをミアに気づかせていたのだ。
「そう、それとさっきは身体だけだったけど被害が大きくなればなるほど、再生成に必要な魔力は多くなる。それこそ一から作り直しともなれば尚のこと」
「期待通りのようで安心したよ。それと貴方に頼みたい事が。あそこで倒れている彼女らの身体からも、その音響玉って奴を取り除いてやって欲しいんだけど・・・」
ミアの言葉にシルフはすぐに答える事はなかった。そして表情を曇らせ、それが出来ない理由について話し出した。
「残念だけどそれは出来ないわ」
「なッ・・・!?どうして。まだ私への信頼が足りないと?」
「そうじゃない。さっきも話したけど、まだ貴方の熟練度が足りないのよ。使えるようになったばかりの力は、最初から全てを使いこなす事が出来ないのは貴方もしっているわよね?つまり、まだ私の風の力を他者に使ってあげられる程器用じゃないって事よ」
「奴と戦って、熟練度を上げるしかないって事か・・・。ん?しかしウンディーネの時は割と初めから大掛かり技が使えたと思うが?」
ミアの言うように、海上レースの時に水の精霊であるウンディーネとの絆を深め、使役出来るようになった時は様々な力を惜しげもなく使えていたように思える。このシルフとの違いは本当に熟練度によるものだけなのだろうか。
「それはその時の戦場や状況によっても異なるのよ。ウンディーネが貴方に絡み始めたのは“海”という果てしない量の“水”があるフィールドだったわよね?それだけウンディーネが自在に扱える自然の力が近くに、それも無尽蔵にあった訳だから多少のプロセスをすっ飛ばしてもおかしくないという訳よ」
彼女の言い分は分かりやすく、最もらしいものだった。決して意地悪で力を貸したくないという様子ではないようだ。シルフの性格からそういった思いもあったのではと勘繰ってしまったミアは、シルフへの偏見を改めることにした。
「なら、とっとと奴を絞めないとな・・・。何ならその前に決着をつけてやるか?」
「ふふ。私、貴方のそういう強気なところ嫌いじゃない。やりたいようにやってみなさいな。出来るだけのサポートはしてあげる」
風とは本来掴みどころのないもの。その性質は風を司るシルフの性格にも反映されているかのように、事前に策を用意したり連携をとるなどというものではなく、やりたい事を想像したままに実行する“無垢なる思想“こそ、風を使役する上で最も上達するコツなのかも知れない。
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